花骸のこどもたち
連理の枝

 

「お前ら、サスケにオレとは二歳差だって言ってるらしいな」
「……二歳差だろう?」
「お前らが満四歳の春にオレは満七歳でアカデミーを卒業してるんだから三歳差だぞ」
「イタチは十七才、私はイタチと同学年で、シスイは今十九歳。二歳差だ」
「トバリ、お前は今十六歳だろ」
「ほんの数ヶ月で十七歳になるのだから、十六も十七も変わらない」
「大体、二歳差だろうが三歳差だろうが俺たちの仲だろう。急にどうした」
「そうそう。そうやって一つ二つの年の差で騒いでると、余計子どもっぽく見えるぞ」
「じゃあお前ら、サスケとは何歳差だよ」
「五歳」
「五歳」
「サスケ産まれた時お前四歳だろ、トバリ」
「サスケがゼロ歳の秋に五歳になった」
「オレはその年の秋、八歳になったけどな?」
「……シスイ、お前は優秀な忍者だ。それはお前が何歳だろうと揺らぐものではない」
「確かに常日頃、私たちは君の親しみやすさに甘えてしまっているかもしれないけど、きちんと君を尊敬してるとも。一人の忍として、人間として、二歳年上の友としてね」
「なあ、尊敬してるんだったら三歳差だって認めてくれないか?」
「え……いや、だって正直多分私のほうが精神年齢高いぞ?」
「お前の精神年齢は四歳の時がピークだった。あれから下降の一途だから、今は十二そこそこか」
「イタチは黙っててくれ。兎に角、私の精神年齢は外見年齢よりずっと高い」
「良かったなシスイ、これでトバリもお前の好きな年増女の仲間入りだ」
「だから、うるさい。シスイの女の趣味は今如何でも良い。君が喋るとややこしくなる」
「そうか? 俺は如何足掻いてもお前ほど綺麗に話の骨を折れない」
「好きじゃないってか、何だよそれ、ほんとに何? 何年増女が好きって割りとマジで何?」
「夕日上忍にデレデレしてたとトバリが教えてくれてな……水臭いぞ、シスイ」
「シスイ、友としてこんなことを言うのは残念だが彼女のことは諦めてくれ」
「諦めるも何も勘違いだし、いい加減オレを玩具にして遊ぶのをやめろ。年上を敬え」
「幾らお前が彼女との年の差は七歳で大したものでないと主張しようと、夕日上忍はアスマのことが好きなんだ。無粋と言われるかもしれないが、きっと君にはもっと良い相手がいる。そうだ、年増で気の強い女性が好きなら綱手様とかアンコさんとか如何だろう
「オレは別に年増で気の強い女が好きなわけじゃない」
「そもそもトバリ、お前は仮にも世話になってる人を年増呼ばわりするのは如何なんだ」
「君が最初に言ったんだろ。大体シスイ、皆が君は逆にホモなんじゃないかって心配してる」
「ちょっと待った、ほんと一回ちょっとタンマほんとに待って何逆にホモって」
「トバリ、そういう言い方はないだろう」
「イタチ……そうだよな、お前は」
「たとえシスイが同性愛者でも俺たちだけは応援する、そう決めたはずだ」
「あのさあ、お前らオレで遊んでるだろ? 遊んでるよな? そうだと言ってくれ頼むから」
「君のそういう恩着せがましい発言がシスイを追い詰めてるってことにいつ気付く?」
「今オレを追い詰めてるのはお前だけどな」
「分かった。もう良い。認める……シスイはホモだ。でも俺はそれを応援したい」
「良いからそういうの!!! やめろマジで。大体、なんでオレの性的嗜好をお前らが決める?」
「いや、決めるも何も『イタチのためなら死ねる』って前言ってたから」
「何か勘違いさせたなら悪いけど、あれはそういう意味じゃないからな!?」
「そういう意味だったのか」
「イタチ、お前、オレの話聞いてる?」
「すまない。気持ちはまあそれなりに嬉しいが、そういう気持ちだと知ったからには応えられない。頑張って生きてくれ、俺も頑張ってお前からの告白を忘れるよう努力する」
「あのなあ!! あれは言葉の綾で、イタチだけに限った話じゃ……トバリにだって、あの……そりゃお前は、お前とイタチの扱いは多少違うかもしれないけど、でも」
「気にするな、私は気にしていない。君の性癖も、一族間の仲の悪さも、私の性別についても」
「気にしないのは一族間の仲の悪さだけにしとけよ!!?」
「何故? だって私は、君が私のためなら死ねると言わないことがとても嬉しいのに」
「それは『ホモには好かれずに済んで良かった』ってことか?」
「そろそろ移動するなり話題を変えるなりしよう。周囲の目が痛くなってきた」
「いや、なんて言ったらいいのだろう。私は、君が君の一族を真っ直ぐに愛することが誇らしい。単に私がうちは贔屓だからではなく、増して君やイタチ、サスケたちが属するからではなく、千手とうちはが……多くの忍一族が手を取り合って共に暮らせる――この里は、大伯父さまの夢見たもののずっと未来にあるもので、私たちの現実で、ここが夢だと胸を張って言える」
「ああいう会話の流れで急に真面目なことを話しだされると、切り替えが大変なんだけど」
「いつものことだ。慣れろ。俺は慣れた」
「ん、すまなかったな。じゃあ今のはナシにしよう。男性同士のまぐわいについて話すか?」
「やめろ。ノーチェンジでいいからそれだけはやめろ」
「俺は別に、どちらでも構わない。シスイが本当に関心のある事柄について話そう」
「イタチ、今すぐその慈愛と寛容に満ちた笑みを消せ」
「ふむ、どこまで話したっけな……どうにも私は口下手で駄目だ。要するに私は、君がこの里を好きだ、一族を守りたいと大っぴらに言うから、私も同じ気持ちでいると分かるのだ。感謝しているし、万一の時、私には君を生かすことが出来るのかもしれないと思うと、とても嬉しい」
「……そうか、そっか、うん」
「この気持ちは君の性的嗜好の如何や二歳程度の年の差では揺るがないから、安心してくれ」
「オレはお前より三歳年上だし、ちゃんと女が好きだけどな。てかイタチ、お前今日の朝、夜にフガクさんと約束あるって言ってなかったか?」
「は?」
「巻物の整理があるとか言ってたよな? な? そうだったよな?
「ん? なんだ、それならそうと早く言ってくれれば良かったのに。引き留めてしまったね」
「お前の家にだけ代々伝わるもので、部外者には見せられないんだろ。気になるけど、それなら仕方ない。トバリも今日のところはイタチの家に行くの止めとけよ」
「それは勿論、そんな無粋な真似はしないとも。ねえイタチ、フガクさんも君も忙しいし、このところ親子水入らずでの時間を作れずにいるだろう。たまには童心に帰って、親しくしておいで」
「……シスイ」
「如何した。話があるなら明日にでも聞く」

「これは貸しだ」
「いーや、チャラだね。年上を玩具にした罪は重い」

「おや、揉め事か? 折角性別も一緒で、家名も一緒なのだから、君たちで揉めるのは損だぞ」
「お前とだって、揉めると損だろ……オレは損だと思うし、あっイタチ、じゃあな!」
「友情より色恋を取るお前とは今日限り絶縁だ。暫く話しかけてくるなよ」
「君たちは如何してこうわけのわからないことで揉めて、私に説明しようともしないのだろう」
「お前はお前で、如何してオレと自分のことより、オレとイタチのことに関心を持つんだ?」
「それは勿論、君たちのことがとても好きだからだよ」
「なあ、トバリ」
「シスイ、私たちも帰ろう。君だって折角の早上がりだったのに、日が暮れてしまったね」
「いや、まだまだ明るいし大丈夫だろ。ちょっと火影岩行かないか?」
「それは構わないけど、この時間になると見晴らしも悪いぞ。明日にしたらどうだ」
「いーから、良いだろ? 夜景だって綺麗だし、きっと気に入る。夜に登ったことないしさ」
「まあ火影岩から夜景を見た覚えはないけど……本当に帰らなくて良いのか?」
「良い。ほら、行くぞ」
「役に立たないだろうけど、私で良ければ家庭内の悩みでも何でも聞くぞ」
「そうじゃない。家族仲は良好。仕事も順調。何の問題もなし」
「イタチとも揉めるし、今日の君は変だ。私が君との年の差を少なく数えるから気分を害したのだろうか。でも私がアカデミーに入る前から君はもう下忍で、なんだか悔しいじゃないか」
「たった三年ぽっちのキャリア差、互いに上忍になった時点で埋まったも同然だ」
「だから……キャリアとかじゃなくて、私は、君と違うというのが寂しかったんだよ」
「さみ……は?」
「だって、イタチは良いじゃないか、シスイも、君たちは同じうちは一族だし、性別も一緒だし、みんな君たち二人で一纏めにする。うちはの若き俊英ってね。私のほうがイタチと先に出会ってたし、ほんの短い間だけだったかもしれないけど、君と同班だったのは私だった」
「お前がオレたちと一緒にされないのは、防虫のためだろ。綱手様も結局結婚しなかったしさ」
「そんなことない。皆、私は子どもを産めないって知ってる。私は誰とも結婚する気はないし、大体私や綱手様の代で宗家の血が途絶えたから何だって言うんだ。木遁が惜しいのなら、次の族長かその娘の婿に暗部の某を迎え入れたらいい。木遁がほんとに血継限界だって保証はないけどね。あれは単なる突然変異で、どの一族にだって発現しうる可能性が高い。それは兎も角、生殖機能を持たない私にとって結婚なんてのは無縁も無縁、如何でも良いことだ。で、話を元に」
「……オレは別に、好きな相手が子ども産めなかろうと、そいつさえいれば良いけど」
「ふーん。君って奴は、本当に柔軟な恋愛観を育んでるんだな。見習いたい」
「あのさあ、それがほんとにオレの恋愛観を見習いたい奴の発言か?」
「その話はまた今度だ。話を元に戻すぞ」
「良いってもう、正直お前の恋愛観と結婚観については一日費やしても文句を言い足りない」
「年齢ぐらい、ちょっとでも君に近づけたかっただけなのに」
「お前、あのさあ」
「家名も職場も性別も違う。なら、ほんの数ヶ月ぐらい目を瞑ってくれても良いだろう」
「トバリさん、あのですね」
「敬語が必要になるレベルまで目を瞑らなくて良い」
「オレは、あの、じょ……家名も、職場も、性別が違っても」
「うん?」
「そんだけ違ってても一緒にいたいって思うのは、オレは、お前だけなんだけど」
「……そうか、そうか! なるほど!」
「そうです。そーです。分かっていただけましたか?」
「よく分かった。満足した。うん、君を困らせたりしてすまなかった」
「じゃあ、トバリ。オレたちもイタチとイズ」
「イタチとお前、私とイタチのように、私たちも強固な友情で結ばれているんだものね」
「おっけー、おまえほんとさいこーのともだちだわ」
「なんだか嬉しくなってきたし、火影岩の上で久々に組手でもしようか!」
 

連理の枝

 
 


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