花骸のこどもたち
混沌の祖父会

 

「木ノ葉丸が最近『ジジイいつ成仏するんだコレ』って言ってきて辛い」
「わかる。ワシも夜間暇だから読み物でもするかと自室から出たらトイレに起きたツナと鉢合わせて、思いっきり叫ばれた……痛覚がマヒしとるとはいえ、平手打ちされるのは辛いんじゃ」
「まあ、黒目と白目が逆だしな……」
「それ以前に普通に動く死体ですしのう」
「ええい!! ワシとて好き好んで死体ライフを謳歌しているわけではないわ!! ひ孫の顔さえ見れたなら潔く成仏するわい!! しかしツナは誰とも結婚する気がない!! 何故じゃ!!」
「兄者……いつまで現世に居座るつもりだ。ワシは兄者とは違う。ちゃんとトバリがマダラの洗脳から解き放たれたなら、無論トバリを一人にするのは心もとなくトバリは悲しみのあまり泣いてしまうと思うがこの世の理に則って子どものように泣きじゃくるトバリを慰めながら成仏するつもりだ。トバリは寂しさのあまりワシが成仏してからもワシの部屋で一人涙に暮れてしまうと思う。まあしかしワシのお眼鏡に適った男との時間が少しずつトバリの悲しみを溶かし、ワシの墓にうちは一族の血を一滴も引いていない子どもを授かったと報告した後『おじいさまのようなひとに育てようと思います』とか誓うだろう。なんていじらしい奴だ……急ぎ洗脳を解いてやらねばならん」
「流石二代目様。不肖ヒルゼン、及ばずながら洗脳解除に協力は惜しみませぬぞ」
「ふ……皆で共に任務にあたっていた頃を思い出すな」
「成仏してない奴らが粘着質で害悪みたいに言われるのって、ぶっちゃけ貴様らのせいぞ」
「何を言う兄者。五十を越した孫娘のお見合いをセッティングするのは害悪でないと?」
「二代目様、その論調ではご自分が害悪だと認めたも同然なのでは」
「害悪と言えば害悪であろうな……何せトバリを二度も悲しませてしまうのだから」
「っていうか扉間!! 貴様、最近色々可笑しいぞ!!! 口を開けばトバリがトバリとって、洗脳されとるのはお前のほうではないか! 前はそんなハッピーな頭してなかったじゃろ!!!」
「がなり立てるな、五月蠅い。兄者がトバリの話に敏感になっているだけだろう……嫉妬か?」
「何の嫉妬ぞ!?」
「ぽっと出の小娘にマダラを盗られて悔しいのかと」
「それでしたら、マダラの関心を取り戻せるよう、わしらが協力いたしましょう」
「いや別に……まあ多少は詰まらん気持ちもないではないが……しかしトバリのおかげでマダラが落ち着いてるのは有難いと思っとる。貴様らはギャアギャア言うがの、トバリはトバリでどこかしらフラフラしたところがあるし、マダラみたいに押しの強い人間から求められるのが安心するんじゃろ。貴様らはもちっと偏見を抜きにして、二人を見守ってやったら如何じゃ」

「だからワシがトバリのために押しが強くて常識があって博識で美男子で強くて財力があって人望に厚い上に妻子を大事にする父性本能の強い婿を探してくると言うたであろうが」
「貴様全っ然ワシの話を聞かんのう!?」

「初代様、わしとて考えなしに二人を批判しているわけではありませぬ」
「猿飛は扉間よりちと冷静であったか。うむ、わけを聞かせてくれ」
「うちは一族のクーデターさえなければシスイという包容力があって強く賢い好青年と一緒になれたじゃろうに、そしてシスイの死で酷く悲しんだにも関わらず全ての元凶たるマダラとくっつくのが釈然としないのです。これまで陰日向となくトバリを見守ってきた身として、結果はどうあれ一人の忍として、もしくは一個の人間として手塩にかけて育てたと自負する娘がとんでもない男と結婚する気でいるのは、大分手痛いしっぺ返しというか……そりゃ勿論わしとてトバリの幸せを一番に望んではおりますが……でも二代目様の日記を読んで育ち、イタチやシスイという優秀かつ善良なものたちに囲まれ、わしを尊敬すると口にして憚らないトバリが何故……何故……?」
「これはこれで重症だのう」
「サル……貴様のおかげで、あれが心優しくたおやかな娘に育ったのかと思うと感謝の念にたえない」
「勿体ないお言葉――『里と孫を頼む』と言われたにも関わらず、こうしてマダラなどという胡乱な輩に引っかかるような脇の甘い娘に育ち……このヒルゼン、二代目様に顔向けが出来ませぬ」
「扉間死んだとき、トバリ産まれとらんじゃろ」
「気にするな……トバリも何れ、自分が如何にマダラに良いように使われていたか察するだろう」
「……ついこないだトバリが孫だと知ったばかりの扉間がこうまで骨抜きにされてるのは正直怖いところがあるし、そもそも貴様らと話してるとワシが突っ込み役にばかり回されて面倒じゃ」
「まあまあ、初代様は常にこうして周囲を振り回しておられたのですから、たまにはこういう趣向も良いではありませんか。二代目様も、狼狽する初代様が面白くて大げさに、」
「いや、ワシは別に少しもふざけとらんが」
「二代目様も、狼狽する初代様が面白くて大げさに言っておられるのでしょう」
「ワシは昔気質の男だから如何にも場の空気を和らげるのが苦手でな」
「いやいや、二代目様ほどお茶目な方はいないと昔からダンゾウもコハルも皆申してました!!」
「猿飛、良い。それ以上追及してやるな……貴様も女孫を持てば事の重大さが分かる」
「既におります。紅とアスマのいいとこどりで将来が不安になるぐらい可愛いのがおります」
「うむ。ワシらは男故、女孫というのは特別可愛いものだ……しかし幼い頃から成長を見守ってきたなら兎も角、ある日突然孫と知らされた相手への感情は複雑で……まあ要するに、妻に似てる上に自分にも似てるし、それで所詮他人と切り捨てるわけでもなくチヤホヤしてくれるから半ば惚れとるんじゃろうな。なーにが『マダラの肩を持つのは自分もロリコンだからだろう』じゃ」
「そう言われてしまうと、身も蓋もありませんな」
「……マダラ某ではあるまいし、実の孫にそんな邪な感情を抱くはずがなかろう」
「二代目様、冷静な態度を気取っても、湯呑を持つ手がガクガク震えておれば逆効果です」
「そりゃあマダラは別格ぞ。あやつは『トバリなら何でも良い』とか言うて、若干キモいからの」
「初代様はうちはマダラのことを親しい友と言って憚らない割りに、手厳しい」
「落ち着いて考えずとも、ワシそっくりの未成年を手籠めにして何十年近く執着してるのは怖い」
「そうまで分かっているなら、何故あのペドフィリアの公然わいせつ野郎を野放しにする」
「ゆーて貴様だってトバリを猫かわいがりしてるあたりペドフィリア仲間じゃろ」
「違う。人聞きの悪いことを……サル、何故ワシから距離を置く」
「わしは扉間様のことを信じておりますぞ」
「流石のワシも里の未来を託した相手にペドフィリアと思われるのは大分傷つくのだが」
「信じております」

「ウソつけぇ!!!!!!! 真にワシの潔白を信じてるものが顔を背けるか!!!」

「まあ良い。流石の貴様もマダラよりかはマシぞ。マダ……いや、この場で話すことではないな」
「マダラとトバリが何を?」
「いや……別にトバリのことだとは言っとらんじゃろ」
「この流れでマダラの話とくれば、それはトバリ絡みのことに他なるまい。吐け」
「嫌じゃ。ワシは一応友人の恋路を……まあ、その勢いで世界滅ぼそうとかしない限りある程度応援しておる。こないだ七夕飾りに『来世こそは無限月読成功しますように。ついでにトバリが今晩膝枕で耳かきしてくれますように』とか書いて吊るしとったけど問題ないじゃろ」
「兄者、そういう失言ポロッポロするのわざと?」
「マダラもそんなこと当人に言えば良いじゃろうに……つくづく何を考えてるか分からん」
「貴様らはトバリがマダラにベタ惚れで何でも言うこと聞くと思っとるようじゃが、このところ結構反抗的ぞ。如何にも貴様らとマダラに仲良くしてほしいらしくて、痴話げんかを繰り広げとる。こないだもサスケにちょっかい出した出さないで揉めに揉めた挙句……」
「ほう……都合のいい展開だな」
「確かに昔からサスケのことは特別視しておったな。流石のマダラもサスケには勝てんか」
「巻き込まれるのは嫌じゃのうと思って流し聞いてたから詳細は忘れたが、何かの拍子にマダラが『何度生まれ変わってもお前はオレを見つけ出すだろう』とか歯の浮くような台詞を口にした途端トバリが満更でもないように顔を赤らめて頷き、邪魔だからとワシは二時間近く部屋の外に追い出された。大伯父と親友にする仕打ちは思えん……めっちゃ暇であった」
「何故大人しく待機した。兄者こそ奴らのせいで被害を被っているではないか……」
「トバリの自由意志を尊重したい気持ちも耳かき一杯分ぐらいはありますが、いっそ別れたほうが初代様や二代目様、そして二代目様や二代目様など周囲にとっても良いのでは」
「貴様らは何も分かっとらん!!! トバリがおらん時のマダラを知らんのか」
「幼女を下僕のように使っていたペドフィリアの憂鬱など知るか」
「わしはその頃駆け出しの下忍でしたしな」
「何もかも悪いほうに捉えて鬱々としとって、ワシが渓流釣りや里外任務に誘っても『何をしても、昔のようにはなれないな』とか遠い目で応えるし、ずーーーーっとイズナを初め、死んだ兄弟の話をしては、自分の選択の何が間違っていたのか不意に振ってくるし、イワナ釣ってるだけなのに『オレも結局は他人の詰まらん策謀に釣られる魚だったのかもしれないな……』とか言い出す始末。イワナ釣りにどんだけの哲学を見出してるんだっつう話ぞ!!!! そこでトバリが『マダラさま、魚が焼けました』とか言って自信満々に“魚だった何か”を差しだしてくれるからこそ、あやつもアンニュイに浸る暇なく魚を焼きはじめるというもの……貴様らは何にも分かってない……!!! あやつには、トバリのような家事全般駄目で自分が世話してやらないと如何しようもない小動物が傍に居ったほうが精神衛生に良いんじゃ。かつての面倒くささを思い返せば二人がセックスしてる間、外で子供らとケンケンパして遊ぶぐらい、何ほどのことか」
「その失言わざと? わざとなの? わざとセックスとかぶちまけとるの?」
「もう良いじゃろ。マダラは料理裁縫洗濯能力を提供し、トバリはセックスを提供する。それで丸く収まっとるんじゃ。確かにトバリは優秀な忍ではあるがマダラのせいで半分左遷されかけとるし、料理が壊滅的に出来ない上にファッションセンスもない。貴様らは知らんかもしれんが、トバリの私服の殆どはマダラが選んでるものぞ。トバリに任せたら、インナーからアウター、余所行き着までファッションセンターひのくにで買いそろえた上に胸の部分にデカデカ『FUCK YOU』とか印字されたものを着て街を闊歩するに決まっておる。そうじゃろ、猿飛」
「……いや、まあ……しかし洗濯物を畳んだり、掃除は……掃除が得意ですぞ、あれは」
「分かった。トバリに家事能力が欠けていることは認めよう。しかしトバリはマダラに料理を提供して貰う必要がない体だ。洗濯だって出来る。トバリにマダラは必要ない。それに、たまに色移りしてしまうぐらい可愛いものだろう。ワシは一々色物やら素材によって手洗いしたり分けて洗濯槽に入れて細々洗濯する女より、ちょっと抜けてる女のほうが可愛いと思う」
「貴様はそんなことを言ってるから、大名殿にピンク色の忍び装束を着ていくことになるんじゃ」
「あれはあれ! これはこれ! 今はワシの妻ではなくトバリの話だろうが」
「もう如何でも良いわ。UNOでもしよう、UNO。こないだ木ノ葉丸にルールを教わってのう」
「ああ、そういえばたまに児戯に付き合って頂いているようで……何ぞ不躾なことをしていなければ良いのですが、既にゾンビのおっさん等と呼んでいるようで申し訳ない限りです」
「なあに、気にするな。ああしたヤンチャさが縄樹に似ていて微笑ましい」
「分かった。兄者がそこまで嫌がるなら、トバリの話は終わりにしよう」
「おお……分かってくれたか、扉間。貴様が初孫を猫かわいがりするのは無論個人の自由ぞ。ただそれに付き合わされる……要するに近親相姦スレスレじゃないかと不安になる周囲の気持ちを考え、トバリをちやほやし、一線を越えるなり、新しい自分を見つけるなり、新しい性癖の扉を開くなりするのは家のなかに留めて欲しい。兄の言っていることが分かるな?」
「兄者の要望に従おう……ただし、何を持ってして『流石の貴様もマダラよりかはマシぞ』と言ったのかだけ、最後に教えて欲しい。それさえ教えて貰えば、今後兄者は巻き込まない」
「……真ぞ?」
「初代様、落ち着いて考えなされ。親しい仲にある人間が暴走していると知って放置出来るような人ではありますまい。ここは言わないのが賢明ですぞ。二代目様も、聞いたところで不快な気持ちになるだけでしょうに……大人しく三人でUNOをするが吉、そうですな?」
「いや猿飛。血を分けた弟がここまで言うのだ……信じなければ男が廃るというものぞ」
「兄者……恩に着る。ロリコンなどと誹謗してすまなかった」
「扉間、貴様を信じて打ち明けるが……誓って、聞いた後にマダラの家に殴り込みに行かないと約束してくれるな? トバリに理不尽な説教をしたり、厳しい門限を課したりもしないな?」
「たぶん」
「いやこれ、初代様……間違いなく駄目な奴」
「猿飛、ワシは弟を信じる」
「絶対駄目な奴。フリかってぐらい駄目な奴ですぞ、初代様」
「どこから話すべきか……マダラの奴はトバリだったら何でも良いと口にして憚らないとは言ったか。実際奴はトバリを幼女やら男やらに変化させてはシッポリ楽しんどってのう。もしマダラが貴様の立場だったら血縁とか全く気にせず性交渉を持ちかけるんじゃろうなあと思うと、まあ貴様は妻へ操を立てて父性本能に寄ってる分、マダラよりかはずっとマシ……扉間、扉間トイレか? 急に如何した。どこへ行く。おうい、扉間。一体どうした……トイレはそっちじゃ、ちょっお、とび、おま……! 扉間ァ!!! 兄との約束を忘れたか!!!!!
 

混沌の祖父会

 
 


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