七年語り – CHAMBER OF SECRETS
12 赤い部屋
星空を映す暗き天井、テーブルの上を灯す幾百の蝋燭、そして近い光と遠い闇で青白く照らし出される生徒達の姿、生徒達の列に寄り添う白い長テーブル。広間の上座にある教職員テーブルには威厳を表情に湛えた教師たちが席に付いていた。新入生の入場があるまで誰ひとり話さない広間でゴースト達だけが宙を飛び交い、ヒソヒソと言葉を交わし合っていた。今年はどこそこの娘がホグワーツに来る、あの少年はスリザリンであろうな等とお喋りに夢中なゴースト達を静まらせるのはマクゴナガル教授が大広間の扉を開く音だ。
数か月ぶりに訪れるホグワーツ城、以前は新入生として緊張を胸に入ってきた大広間に今は在校生として彼らを迎えている。学期末のパーティに出ることが出来なかったダリルは、今更ながらに無事一年を過ごしてこれたのだという実感を抱いていた。
そしてまた一年を無事に過ごせるよう願うのだった。出来ることなら、今年は何の事件もなく、穏やかなだけの学校生活になると良い。
しかし望みと反して、ダリルの学校生活二年目の初日はまるで穏やかではなかった。
原因はダリルの新しい友達――ハーマイオニーにある。
「酷いわ!」
ハーマイオニーはそう呻くと同時にダリルをガクガク左右に揺さぶった。ダリルの首に巻きついているレディは彼女を「迷惑そのものである」とでも言いたげに冷たい赤で睨みつけていたが、ダリルは彼女へ同情した。
何しろ親友二人が自分を除け者にした挙句、彼女曰く「絶対に許せないことの一つ」である校則違反をやってのけたのだから、落ち着くことなど出来るはずもあるまい。そしてダリルの視界も落ち着くことが出来なかった。ハーマイオニーはハリーとロンの事件を知ってから、ダリルを離さない。恐らくガラガラか何かと勘違いしているのだろうとダリルは思った。ハーマイオニーはダリルの制服のネクタイをしっかと握り、感情が高ぶると振り回すのである。そのおかげで、ダリルは新入生の入場も、組み分けの儀式も、ダンブルドア校長の話も、何もかも見ることも聞くことも出来なかった。尤も今年度の組み分けの儀式をまともに見ていた者など誰もいないだろう。本来厳かでなければならない新入生入場までの時間も、組み分けの儀式を執り行っている最中も生徒達はハリーの話題で大騒ぎだった。マクゴナガル教授の血管が切れなかったのは奇跡に近い。
ハーマイオニーの愚痴へ相槌を返し、彼女を宥めることへダリルは一生懸命になっていたが、怒りと興奮が静まる気配は未だなかった。
「あの人達と来たら、ちょっと目を離すとすぐに何か仕出かすんだから」
ダリルは額に手を当てながら、粛々とした表情で頷いていた。如何にかしてハーマイオニーの手を自分のネクタイから離そうと、そちらへ手を伸ばすのだが、「信っじられない!」恐らく誰かがハリーの話をしていたのを聞いてしまったのだろう。本日十回目の信っじられないと共にダリルのネクタイがくんっと引っ張られた。首が、締まる。
ハーマイオニーとダリルからやや離れたところに座っているアンジェリーナが、ダリルを指して双子の内の一人に聞いた。
「ダリル、如何したの?」
「ほっとけ。ハーマイオニー様のお怒りを鎮めておられるのだ」フレッドは口いっぱいのアイリッシュシチューを咀嚼しながら呻いた。
呆れきったと言いたげな顔でアンジェリーナがゴブレットになみなみ入った魔女かぼちゃジュースを差し出す。「貴方達って、おうちでもきちんと食べさせて貰っているでしょうに、なんでそんなに欠食児童みたいな勢いで物を頬張るのかしら」アンジェリーナの隣に座っていたアリシアがリーの手のひらをフォークで刺しながらぼやいた。「リー、ポークチョップが食べたきゃ大皿から取りなさい」注意も忘れない。
「今、ダリルに取ってって言っても無理だろうな」リーがダリルの目の前にあるポークチョップの大皿を見ながら、呟いた。
「あーら。貴方に足がなかったなんて、初めて知ったわ」肩を竦めるアリシアにリーが舌を突き出す。「君達もだよ。もう四年生なんだから、落ち着いたら如何?」アンジェリーナが二人のやり取りに口を挟んだ。
そうしてからハーマイオニーにぐるんぐるん振り回されているダリルのほうを見て、眉尻を下げる。
「あれ、放っといて良いの?」
フレッドほどガツガツ食べていないジョージにアンジェリーナが話しかけた。ジョージはマッシュポテトで皿の上に洞窟を作る作業に熱中していたが、アンジェリーナに話しかけられると我に返る。
「何しろダリルお嬢様はハーマイオニー教、唯一にして最高の信者であらせられるからな」そう言った瞬間、フレッドが洞窟をスプーンでひょいとすくって食べた。「信じられない」ジョージが顔を顰めた。「俺が一生懸命我が家を再現したって言うのに……お前ときたら」
「食べ物で遊んでるから。十四歳にもなって、ほんと君らは子供っぽいんだから」
「俺は遊んでない」フレッドがマッシュポテトを口に入れたまま喋った。アンジェリーナの眉が吊りあがる。「もっと悪い」
やがて五人の話題はダリルから外れていく。和気あいあいと騒がしい五人のほうをダリルはじっとり眺めていた。ハーマイオニーと仲良くなれたのも、ハーマイオニーが愚痴を話してくれるほどに気を許してくれたのも嬉しいが、そろそろ解放されたい。
「ダリル、聞いてるの?」
ハリーについての嘆きを一時停止させたハーマイオニーがダリルをじっと睨む。ダリルは引き攣った笑みを浮かべて頷いた。
「勿論よ、ハーマイオニー」ダリルは何かハーマイオニーの愚痴を回避するための方法がないか、広間をぐるっと見渡してみる。その時やっと、空っぽだった大皿に食事が出ていたことへ気付いた。「でも、ほら、食事が前に出ているじゃない? 食べましょうよ」
ダリルは右斜め前にあった大皿からハーマイオニーの皿へローストビーフをとりわけ、茹でたニンジンとジャガイモを添えた。
「ね、ハーマイオニーはローストビーフが好きでしょう?」
にっこり笑って振り向けば、ハーマイオニーがまじまじと自分の挙動を見つめていた。
「……貴女って、本当に私の事よく見ていたのね」
ローストビーフの大皿にはローストビーフと共にブロッコリーとニンジンとジャガイモがあったが、ハーマイオニーは自分でローストビーフを取る時にブロッコリーだけは取らない。嫌いなわけではないが、家でローストビーフを食べる時の付け合わせにブロッコリーがないので、癖のようなものだ。それに、しっとりしたローストビーフと一緒に食べると、ブロッコリーのパサパサした食感が目立つ気がした。
ハーマイオニーの台詞を受けてダリルは顔をニンジンのように赤くさせた。
何もハーマイオニーが唐突に「ダリルって私の事好きなのね」と考えたわけではない。ハーマイオニーがそう思うに至る理由としては主にフレッドとジョージのからかいに起因する。ホグワーツ特急のなかで二人仲良く話しているのを彼らに見つかったダリルは、散々冷やかされたのだ。“神殿”のことまで言ってしまうのだから、ハーマイオニーへ自分は同性愛者ではないと納得させるのに大分掛かってしまった。
「あの二人の言う事は気にしないで頂戴」
ダリルが厳しい声音で言うと、フレッドとジョージが二人に手を振った。
「ハーマイオニー様素敵ー! かわいいー! なんて知的なのー!!」フレッドがジョージのローブの裾を掴んで、叫んだ。
「きゃっこちらを向かれたわ」ジョージがしなを作って喚く。
狐に化かされたような、きょとんとした顔でフレッドとジョージを眺めるハーマイオニーの耳をダリルが塞いだ。
「耳を貸しちゃ駄目よ!」
フレッドとジョージの馬鹿げたからかいに毒気を抜かれたのか、流石にお腹が減っていたのか、ハーマイオニーはダリルのネクタイから手を離すと食事を始めた。ダリルも“連中”(馬車の中でアンジェリーナがフレッドとジョージを指して言った言葉だ。ダリルはそれをとても気に入った)が冬眠前のリスよろしく暴食を始めたのを確認すると、食事を始めた。
「私、あの二人が退学になってもぜーったいに泣いたりしないわ」
二皿目のローストビーフへグレービーソースを掛けながら、ハーマイオニーが愚痴の残滓を零す。
「あら、きっと寂しがると思うわ」ダリルはローストビーフの切れ端を、レディへ差し出した。ぱくりと飲み込んで、ちろりと舌をひらめかせる。前の席に座っていたネビルがビクリと身を竦ませた。
「そんなことないわ!」ハーマイオニーが憤然と言いきった。「幾ら列車に乗れなかったからって……ハリーは梟を持っているのよ」
確かに、列車に乗り遅れたからと言ってクルマ(ダリルはそれを羽根の生えたソファのようなものだと考えていた)に乗ってホグワーツへ向かおうなどと、ハリーとロン以外の生徒であればまずそんなことは思いつかないだろう。ダリルはハーマイオニーの怒り、「考えが足りないのよ。“ノータリン”なんだわ」という愚痴を散々聞かされてはいたものの、ハリーとロンの“偉業”にときめきを抱いていた。
ダリルがもしもホグワーツ特急に乗り遅れたとしても、まさか正規の手段以外でホグワーツへ乗り込もうなどとは考えなかったはずだ。そう考えると二人のしたことはとてつもない冒険に思えるのである。そしてダリル以外の生徒も大体はそう思っていた。
「ハーマイオニー、思いつかないということもあるじゃない」
思いついたとしてもクルマで飛んでくることを望んだろうと思ったが、ダリルはハーマイオニーを宥めるためにそう言った。
「貴女、ハリーに甘すぎるわ。あの人ははちゃめちゃで、考え事の“か”の字も思いつかないような間抜けなんですからね」
ダリルの考えを見とおしたようにハーマイオニーがフォークをくるりと回した。目の前にハリーとロンが居たら、フォークで刺してやりたいとでも言いたげな顔だ。ダリルはハーマイオニーの横顔を見て、クスリと笑った。
「そうね。だからハーマイオニーがハリーを手助けしてあげないと……実際貴女が二人の傍にいればこんな騒ぎにならなかったでしょうよ」
「ダリル。貴女、私のことも買い被りすぎているわ」ハーマイオニーがぽっと頬を染めて、ダリルを睨む。
「そんなことないわ。前学期での貴女の働きを知っていれば、誰も私が貴女を買い被っているとは思わないはずよ」
ダリルはフレッドとジョージから教えて貰った彼女の偉業を思って、嬉しそうに弾んだ声を出した。ハーマイオニーは反論したそうに二度三度口を開いたものの、結局言葉を放つことはなく、マッシュポテトと一緒に文句を飲み込んでしまった。
「ああ、新しい友達が出来て良かった。私、あんな滅茶苦茶な人達とはもう友達でいれないもの」
全く“良く”なさそうな顔でハーマイオニーがぼやいた。
「面白い冗談ね」
ダリルはハーマイオニーの皿へポークチョップと茹でたブロッコリーをよそった。すると横から、誰かの皿が差しだされる。皿を差し出す女学生に何事か聞こうとした瞬間に、視界の端でこっちを見て手を振っているリーに気付いた。ポークチョップの皿を指差している。
リーの皿へポークチョップの欠片と大量のブロッコリーをよそったダリルは隣の女学生へまた皿を手渡した。
「貴女って、彼らには結構酷い仕打ちをするのね」
リーを見て笑うダリルへハーマイオニーがしみじみ呟いた。二人の視線の先ではリーがブロッコリーだらけの皿へ悪態を付いている。
「うーん。貴女とハリー、ロンみたいなものじゃないかしら?」
振り向いて言った瞬間、自分へ舌を突き出すリーがフェードアウトしていく。
ボディランゲージで自分を罵るリーへ、ダリルはあかんべーを返した。
「冗談じゃないって何度言えば――もう、良いわ」ハーマイオニーはため息をついた。「暫く見ていれば私がどんなに二人へ愛想が尽きたか分かるでしょうね。私は最低でも一カ月は二人を許さないつもりよ」きょとんと自分を見るダリルへ、ハーマイオニーはフォークを突き付けて高らかに宣言した。ハーマイオニーの台詞の意味を一拍遅れて理解したダリルがコロコロ笑いだす。
「じゃあ私は二日以内に……そうねハーマイオニーが二日以内に二人と仲直りしたら、魔法薬学のノートを写させて貰おうかしら」
「それじゃ私が賭けに勝ったら、貴女の魔法史のノートを写させて貰うわ」
博打には乗ってこないと思ったが、案外あっさりと乗ってきた。
「うーん、でも闇の魔術に対する防衛術のノートを貰うほうが得かしら」勉強について考えている時はハリー達への怒りが消えるらしい。そう悩むハーマイオニーはダリルの知る学年一の才女としての姿だった。
「両方構わないわ」
「随分余裕たっぷりなのね。いいわ、私に得ですもの。後で吠え面かかないようにね」ハーマイオニーはツンとそっぽを向く。
途端に大皿一杯のローストビーフも、アイリッシュシチューも、ヨークシャープディングも消え、甘い香り漂わせるデザートが現れた。
勝つか負けるか分からない博打をしていたとしても、自分を仲間はずれにして突飛なことを仕出かした親友に怒っていたとしても、女の子なのだから甘いものは好きだ。ハーマイオニーとダリルはトライフルの作り方や、好きなケーキの種類の話で盛り上がった。
そしてデザートも消え、校長の話(今年は何も学内に隠していないようで、ダリルはほっとした)や校歌も終わり、去年は監督生に率いられて移動したダリルも、今年は友人たちと固まって寮を目指した。ハーマイオニー教のことでからかってくるフレッドやジョージは鬱陶しかったが、「今年は貴方達の歌声、聞こえなかったわね」と言うと黙り込んだ。前年はものすごくテンポの遅い曲調で歌ったから、今年はものすごくテンポの速い曲調で頑張ったらしい。如何せん速く歌い終わりすぎたせいで全く目立たなかったのだが。
アンジェリーナとクィディッチについて話すハーマイオニーの後ろを歩きながら、彼女の肩についている糸くずを取ったり、それを双子にからかわれたりしながら大広間の扉を出たところでマクゴナガル教授に呼びとめられた。六人は何事かとダリルのことを待とうとしていたが、マクゴナガル教授が追い払ってしまった。(後で聞くところによると、寮へ向かう途中で偶然ロンとハリーとはち合わせてしまって、大変だったらしい。「フレッドとジョージがおどけまくる中でハーマイオニーがハリーとロンを叱りつけて、リーがそれを実況しだし、ロンとハリーが言い訳を始めるの。すっごい状況でしょ」とはアリシアの言だ。アンジェリーナは「いつものことだね」と一蹴した)
六人が行ってしまい、周囲の人ごみも引けるとようやっとマクゴナガル教授が話を始めた。
「ダリル。部屋の都合で、今年一年は新入生と同室で暮らして貰うことになりました」
「分かりました。今年だけなんですか?」わざわざ呼びとめておいて、それだけなのかとダリルは思った。
「如何でしょう。来年度のことは分かりませんが、貴女は厄介が解決するまでは出来る限り一人で寝起き出来たほうが良いでしょう」
ダリルははっとした。夏季休暇中は皆等しく魔法が使えないので、すっかり忘れていた――自分が魔法を使えないということを。
マクゴナガル教授もそれを見とおしていたのだろう。「そんなところだろうと思っていました」と一人ごちた。
「“厄介”については、今年それに関して思うところがあるという方がいるので、そちらに任せるつもりです」
ロックハート教授のことだろうか。ダリルはそう考えた。去年まではクィレル教授に見て貰っていたわけだし……そこまで考えてダリルはロックハート教授に見て貰うのは嫌だなと思った。朗らかで優しそうな人だとは思うが、クィレル教授のいないあの部屋へは行きたくない。
マクゴナガル教授は黙り込んでしまったダリルへ「ゆっくり休みなさい」とだけ慰めると、寮へ向かうよう告げた。
ダリルが太った婦人の肖像画の後ろにある穴を上ってグリフィンドールの談話室に着いた時も、まだ皆騒がしくしていた。フレッドとジョージ、リー達五人がダリルを手招きで呼んでいたものの、ダリルは彼らへ頭を振って、螺旋階段を上ってしまった。
酷く眠かったし、荷物の整理もしたかった。それに慌てなくとも、彼らと遊ぶ時間はたっぷりある。ダリルはふわあと欠伸を洩らしながら「二年生兼一年生」と刻まれたプレートの付いた扉を開く。赤を基調に整えられた部屋の中で、何かが動いていた。
「ジニー!」
部屋の中で動く赤が何なのか理解した瞬間、ダリルはジニーに駆け寄って、彼女を抱きしめていた。
「ダリル……同室の上級生って貴女だったのね」ダリルの腕の中でジニーが呆然と呟く。
反応の鈍いジニーと違い、ダリルはプレゼントの包装を破く子供よりもはしゃいでいた。ジニーをぎゅーっと抱きしめる。
「入学おめでとう。まだ言ってなかったわね? やっぱりグリフィンドールだったじゃない! 私は去年この部屋に一人きりだったから、貴女と一緒に暮らせるの、とっても嬉しいわ」そこまで言って、ダリルがジニーを腕の中から解放した。
自分ひとりはしゃいだのが恥ずかしく、ジニーの気持ちを考えずに喜んだのが申し訳なくて、ダリルの眉尻が下がる。
「あ、ごめんなさい。貴女にとってはそう楽しくはないわよね。やっぱり同級生と一緒の部屋だったほうが良いでしょうに……」
ダリルがしょんぼり呟くと、ジニーがようやっと微笑んだ。
「いいえ。知っている人だったほうが、ずっと良いわ。それに友達なら授業ででも作れるもの」
「そうね! 貴女はとても明るいし、優しいから直ぐだと思うわ」
ジニーの台詞へダリルは笑みを取り戻し、にこにこと肯定した。
そうしてひとしきり抱擁や再会のお喋りを交わすと、二人でどこのベッドに寝るか決め(去年はどのベッドへ寝てたのと聞くジニーへ、ダリルは悪戯っぽく瞳を輝かせながら日替わりだったと答えた)、それぞれの作業へ戻って行った。
ダリルは鞄の中から取り出したネグリジェに着替えると、制服を洋箪笥の中へ納め、文具を仕舞おうと窓辺にある勉強机に近寄った。
ベッドは四つあるが、勉強机や洋箪笥等は部屋を使っている人数分しか現れないようで、二つ並んだ勉強机というのもなんだか良いなとダリルは思った。勉強を教え合ったり、色々楽しそうだ。そんな風にウキウキして、ダリルは自分の机を整理しながら口を開いた。
「ジニー、日記なんて書くのね」
ジニーはもう持ってきた荷物の整理が済んだのか、勉強机に向かって何事か書きこんでいた。
大した理由はない言葉だったのだが、ジニーはダリルの台詞にびくっと肩を震わすと、サッと日記帳を閉じてしまった。「あ、ごめんなさい」ダリルはぱっと赤くなった。「のぞき見するつもりはなかったの……」実際、日付が書いてあるということ以外は分からなかった。
ジニーは弱々しく微笑んだ。「ごめんなさい、ハリーのことを書いていたから……フレッドやジョージに知られたら、からかわれるものだから、つい」ダリルは二人を思って、ちょっと眉を吊り上げた。「あの人達が今度ジニーをからかったら、脛を蹴ってやるわ」
ダリルが腰に手を当ててそう言うと、ジニーがぷっと吹き出した。
とび色の瞳が安らぎを見せるとダリルも嬉しくなった。ジニーはダリルの知る少女のなかで最も人の庇護を誘う術に長けており、ダリルも彼女のことを守ってやりたいと強く思っていた。そのためにはまずフレッドとジョージの首根っこを捕まえて、ジニーがハリーを好いていることを吹聴しないようきつく言っておくのが有効だろう。ダリルはジニーの頭を撫でた。
「私は先に休むことにするわ。ジニーも今日は長旅で疲れたでしょう。あまり根を詰めないでね」
ジニーはちょっと考え込んでから、ためらいがちに呟く。「姉さんが出来たら、こんな感じなのかしら……」ダリルは笑うべきか、それは無理だと答えるべきか一瞬悩んだ。しかしジニーが知りたいのは自分がハリーを好いているか否かだと見当をつけると、茶目っけたっぷりにウインクした。「まだ見ぬチャーリーとビルのどっちかが私を好きになってくれるよう祈らないとね」
暗にジョージ、フレッド、パーシー、ロンは願い下げだと言うとジニーがクスクス笑う。
「それじゃあ、おやすみなさい、私の初めてのルームメイトさん」
華奢な笑みを零すジニーの頬に軽くキスすると、ダリルは勉強机から離れて、ベッドに潜り込んだ。胸元でレディが蠢く感触に「今日も黒い部屋にはクィレル教授はいないのだろうか」などと考えながら、ゆるゆると思考が闇に呑まれていく。
七年語り – CHAMBER OF SECRETS