七年語り1993’s summer diary
1993.06.26. half awake

 

 六月二十六日、晴れ

 ダリルはまだ地下牢にいる。母上のうっ憤が貯まっていたようだ。まあ少しは良い薬になるだろう。それに文句をつけて、僕までいれられたら堪らない。何よりもダリルのためを思えば、永遠に入っているべきだろう。出てこないでほしい。
 モップは僕の投げたフリスビーを取ってくるようになったし、大人しいから、奴の世話をするのは然程苦ではない。その内スニッチとか取れるように訓練しようと思う。世界初のクィディッチ犬として育てるんだ。

 朝食後、父上に魔法薬学の実験を手伝ってもらった。
 いい機会だと思って、「父上、ダリルが男と付き合い始めたら如何しますか」と聞いてみたら、父上は少し気難しげな顔をして「お前は少しダリル離れをしたらどうだ」などと訳の分からないことを言われてしまった。僕の台詞を冗談か杞憂だと思っているらしい。
 イラッとしたので「それじゃあ、父上はダリルがポッターと付き合い始めても構わないのですね」と言ったら、父上の手のなかにあったフラスコが破裂した。「……ポッター? あのポッターと付き合いだしたのかね」話を振るべきではなかったかもしれない。「いえ、ものの例えです」と言っても、父上の不機嫌を直すことは出来なかった。「あれは今後美しくなるぞ。私が今まで見てきた女の内で二番目に美しい」ちょくちょく惚気を挟むな。「故に多少の虫がつくのは仕方がないと言える。自由にさせろ。どうせ結婚はさせぬし、分かり次第別れさせる」自由にさせると言うより、泳がせると言ったほうが正しい。「ただし手を出すようなら、許さん」と、父上は吐き捨てた。
 ディゴリーの手紙から憶測するに、多分キスは幾度かしている。「手を出す、とは?」どこからが父上の抹殺対象に含まれるのか、聞いてみた。「手を出すと言ったら、手を繋ぐことからに決まっているだろう」父上の抹殺対象が多すぎて話にならない。とりあえず父上がディゴリーの手紙を読んだら、ディゴリーを襲いに行くだろう。

 父上の話を要約すると、ダリルに好意を持っている男はまずダリルに触れることも許されないし、ダリルに触れられることなどもってのほかである。第一ダリルは幼い頃から自分のような紳士を見て育っているから、好きな男が出来るはずがない。自分ほどの紳士がホグワーツにいるはずがないのだから、ダリルのお眼鏡に適う男が存在するはずがない。勿論将来的にダリルは嫁に出すが、まずダリルに釣り合わない男ばかりだから、大事なのはどれだけ大事にダリルを遇して、我が家にきちんと仕えてくれるかである。

 「君に会いたいな。最後の二週間は殆ど毎日会ってたから、寂しいよ」とか「痛みのほうはどうなった? 新学期になったら、好きに君へ触れられると良いんだけど」とか、父上にディゴリーからの手紙を見せたら、怒り狂うを通り越して、死ぬかもしれない。
 父上が煩いので実験を早々に切り上げることにした。父上の狂乱っぷりを見たら、少し落ち着けた。僕はあそこまで慌ててはいない。何故なら僕は父上と違って、ダリルに夢を見ていないからだ。シスコンでもないし、ダリル離れが必要なほどダリルに付きまとっているわけでもない。ダリル離れが必要なのは父上のほうだろう。母上が父上へ怒り狂うのも仕方がないと言える。

 大体顔は綺麗かもしれないが、偽善的で厄介ばかりやらかすような、あんな馬鹿女、ディゴリーにやってしまえ。
 そう思いながら地下牢を覗きに行ったら、ダリルが扉の前で眠っていた。声をかけると目を覚ましたが、ぼーっと僕を見上げて酷く嬉しそうに「セ」と言った。言ってから一気に覚醒して、「洗濯がしたいわ」と訳の分からないことを続けた。ディゴリーのファーストネームは“セ”ドリックだ。ちょっと、待て、眠ってるのを起こされたことでもあるんだろうか。ダリルは嬉しそうに「ドラコ、私とっても暇だったわ。ドラコは何をしていたの?」なんて僕に話しかけていたが、僕はダリルと話す気分になれず、部屋に戻った。ダリルの部屋にだ。
 それでダリルのノートを見ながら、字を真似て「こんにちは、セドリック。少し家を抜け出せそうだから、貴方の家まで行けるかも。何処に住んでいたかしら?」と手紙を書き、ディゴリーに送った。僕とダリルは文字が似ているし、多分騙されるだろう。
 送ってからキィーリレルを呼びつけてカマをかけたら、やはりキィーリレルがダリル宛の手紙を受け取って届けているようで、「ダリルが、自分が地下牢にいる間は手紙を僕に渡すようにと言っていたから、そうしろ」と命令しておいた。

 嫉妬とか、シスコンとか、そういうことではない。
 僕は優しいから、ディゴリーがダリルの本性に気付いてガッカリする前に忠告してやるだけだ。
 

half awake

 
 


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