七年語り1993’s summer diary
1993.06.28. the fool

 

 六月二十八日、晴れ

 父上に行先がばれると血を見るような気がしたので、まず漏れ鍋へ行って、漏れ鍋から煙突飛行で「木陰の家」に行ってきた。どうもディゴリーの家では食堂と居間と台所と暖炉が同じ空間に存在しているらしく、着くなり茫然とした様子の男と中年の女に遭遇した。
 ぽかーんと間抜け顔を晒している男が、ダリルと手紙をやり取りしているディゴリーだろう。ディゴリーは我に返ると「やあ、ドラコ――母さんのマフィンでも食べるかい? 丁度紅茶を淹れたばかりだ」なんて澄まして言った。思ったほど馬鹿ではないようだ。少なくともポッターよりかはまともだ。とりあえずディゴリーの母親の前でベラベラ喋る気分じゃないので、ディゴリーの手を掴んで庭に出た。木陰の家と言うだけあって、庭には馬鹿でかい林檎の木があった。ダリルが見たら喜ぶだろう。あいつはデカい木と林檎が好きだからな。僕も昔はよく木からもいでやった。我が家の林檎の木は母上が椿を植えるとかで去年切り倒してしまったが、ダリルの気に入りの木だった。

 ディゴリーがダリルのことを尋ねてきたので、「今は地下牢にいる」と教えてやったら、顔を青くさせて黙り込んだ。どうやら自分との付き合いが父上に知れれば、良からぬことになるということは分かっているらしい。そう考えるとポッターよりかは見どころがある。
 父上にはまだバレてないし、ダリルが地下牢に入っているのは母上の機嫌を損ねたからだと言えば、ディゴリーは何とも言えない顔をした。「君の家では、地下牢に娘を閉じ込めるのが日常的なのか?」と言うので、「まだマシな罰だ」と答えてやった。
 我が家の仕来りや文化について語ってもディゴリーが納得する様子はない。いつまでもこんな話をしているのも馬鹿らしいし、「ダリルとは恋人同士にあるのか」と直球で聞いてみた。ディゴリーは少し照れくさそうに、尚且つ困った風に「まあ、そうだね」と、死ね。
 一体どこまで進んでいるんだ。というか十五歳の男が、十三歳の子供と付き合うって、変態じゃないか。口に出した気はなかったが、顔に出ていたようで、ディゴリーが「手は出してないし、ダリルが大人になるまで待つよ」と言った。父上の基準で言うと、手を握っただけで手を出したことになるのだが、ディゴリーの基準ではキスは「手を出していないからセーフ」らしい。一体お前はダリルの成長を待って、何をする気だ。「父上がお前のことを知ったら、ダリルは退学させられるだろうし、お前にも何かしらの被害を負わせるだろうよ。第一知らないままだったとしても、今年中にダリルの婚約者が決まる。お前は知らないだろうが、ダリルはああ見えて異常なほど我儘だし、馬鹿だし、自分で自分の後始末も出来ないし、無責任で、厄介ごとに人を巻き込んで悪いと思わない最低な女だぞ。別れたらどうだ」と親切なことを言ってやった。なのに、ディゴリーは僕の台詞に吹きだして笑った。僕の台詞のどこに笑える要素があると言うんだ。
 やっと笑い終わったと思ったら、言うに事欠いて「君は、ダリルのことが大事なんだね」とか、狂ってる。僕がいつ父上のような過保護ぶりを見せたと言うんだ。顔が赤くなったのは、暑いからであって、ディゴリーの台詞とは無関係だ。
 「ダリルが色々と面倒くさいということは、分かってるつもりだよ。婚約者が出来るのと関係あるかどうかは知らないけど、ダリルは僕に未来を捧げられないと言っているし、僕もダリルとの将来は考えていない。いや、別に真剣に考えていないからではなくね」とディゴリーが続けた。「ちょっと目を離せばすぐに怪我をしたり、面倒事を拾ってくるし、僕が心配したり、嫉妬しても、全く僕の気持ちを汲まないで、好き勝手するんだよね」とディゴリーが笑うので、僕は唖然とした。分かっていて、なんでダリルと付き合い続けているのだ。
 「だけど、そういうところも好きなんだ。自分の好きに振舞って、僕がいつでもダリルの手伝いをしたがってるって思って疑わないところも、自分の思ってることをぽんぽん言うところも、僕が手を振り払うはずがないって思ってるところが好きだよ」とか、狂ってるとしか思えない。馬鹿にも程があるというものだ。まだポッターのほうが、少しは賢いだろう。血縁もないのに、ダリルの本性を知っても付き合い続けるなんて、正気の沙汰じゃない。ディゴリーは「ダリルは君のことを大事に思ってる。君からダリルを取り上げる気はないよ。ただ、少し、ダリルが僕の手を離すまで一緒にいたいだけなんだ」と言って、「君のお父さんにバラさないでくれると嬉しいな」と微笑んだ。
 あんまりに馬鹿すぎて、相手にするのも疲れる。僕はさっさとディゴリーの家から出て行った。

 夕方頃にキィーリレル経由でディゴリーから手紙と包みが届いた。
 包みのなかはマフィンだった。今度はきちんと御馳走になって行って欲しいとか、馬鹿か。マフィンはダリルにやった。ダリルはぐすぐす泣きながら「お父様が異性交遊をしてないかって五月蠅い……」と呻いていたが、マフィンを食べると元気になった。毒が入っていないようなので、僕もひとつ食べてみた。別に美味いわけではない。大体、こんな簡単な料理を不味く作れるはずがないのだ。
 ダリルが「私も今度マフィン作ってみようかしら!」と言うので、作る日にちを聞きだして、その日はクラッブの家に避難しようと決意した。こいつの作るものは不味い。マフィンのような簡単な料理でも、不味い。
 「お前はつくづく規格外だな」と言ったら、ダリルはきょとんとしていた。こんな最低女なのに、早々に恋人が出来るというのは如何いう事なのだろう。僕が他人だったら、絶対にこんな恋人は欲しくない。取り柄なんて、顔ぐらいの馬鹿女め。
 「牢から出して貰ったら、マフィン作って、ドラコがクィディッチの練習するの見るわね」と、ダリルがにっこり笑う。本当にお前は顔だけだな。どうせ本当は、そのくそ不味く仕上がるだろうマフィンもディゴリーにあげたいんだろうに、馬鹿すぎて如何しようもない。
 ダリルは何を思ったか「ドラコ、大好き」と言っていたが、僕は別に好きじゃないし、渋々兄妹でいてやっているだけだ。こんなに馬鹿だと、放っておいたら野垂れ死にそうだしな、僕にはこの馬鹿の兄として最低限世話をする義務がある。

 まあディゴリーはグリフィンドールのトロール共よりはまだマシだ。そう考えると、ダリルの審美眼もまだ救いようがある。
 

the fool

 
 


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