七年語り – EXTRA STORY
スリザリンに生まれた少女
人形みたいに可愛い女の子が、ひとつひとつ、コンパートメントを覗き込みながら歩いてる。
買い忘れたお菓子があったと通路に出た友達が、戻ってくるなり言った台詞だ。
途端に誰だと言ったり、自分の知る他寮の美少女を挙げてみたり、わいわいと賑やかになるコンパートメントのなかで、セドリックだけは「困ってるのなら、如何したか聞けば良かったじゃないか」と無責任な友達に眉を顰めた。
『だって、可愛い女の子に会った! って言っただけじゃつまんないだろ?』
常々お前は堅すぎるんだよなあと自分を茶化す彼は、何でもない風に、そんな、セドリックのよく分からない言い訳をした。多分理解不能だと顔へ出たに違いない。彼は頬を掻きながら「まあその内ここも覗くと思うから、そんときお前が助けてやれよ」と付け足した。
彼の言った通りに、それから数分も立たない内に話題の少女がセドリックのいるコンパートメントを覗き込んだ。
プラチナ・ブロンドにブルーグレイの瞳、黒い蛇を首元に寄り添わせた少女。
確かに彼女は友達が言うとおりに可愛らしかったけれど、セドリックにはその容貌よりも、瞳に宿った不安のほうが気になった。だから誰を探しているのか聞き、動いている列車のなかを長いこと歩き回るのは危ないから座った方がいいとか、お兄さんを一緒に探そうか話しかけた。後で友達からは「品行方正なセドリックがナンパしたぞ!」などとからかわれることになったし、そうなるだろうなとは予感もしていたのだけれど、それでもやはり連れとはぐれて心細く思っている新入生を知らんふりすることは出来なかった。
少女はセドリックがどんな親切な申し出をしても、困ったように眉尻を下げた笑みを見せるだけで、結局一人で去って行った。魔法族の子供には人見知りが多いことをセドリックは勿論知っていたので、如何にか緊張を和らげようと世間話を振ってみたりもしたが、終に彼女はセドリックへの警戒を解くことがないままだった。別れ際に「人見知り」という言葉では言い表すことの出来ない拒絶を感じ取ったセドリックは、その小さな背が目の前から消えてからも彼女のことが酷く気になった。無理に着いて行こうかなと思ったぐらいだ。
しかしセドリック以外に彼女を気に掛ける者はいなかった。そして一人が「あの子、純血思想だろうなあ」と呟いた。そう言った友達はマグル生まれで、それまでもスリザリン寮の生徒からからかいを受けることがあった。
セドリックは「ちょっと話しただけで決めつけるなよ」と苦笑したものの、他の三人は概ねその意見に同意するようだった。
首の蛇が見えなかったのか、ありゃ純血名家生まれのお嬢様って奴だな。
『なんかお高く止まってるって感じ? セドリック君、たまには振られる側の気持ちが分かって良かったじゃないか』
にやにや笑ってそう言ったのは、最初に彼女を見つけた友達だ。それでコンパートメント内の空気はいつも通り気楽なものになった。
気の置けない仲間との軽口の押収は楽しかったし、気まずい空気がなくなったことも嬉しかったが、それでもセドリックの胸の内には少女の不安そうな瞳と距離のある台詞がこびりついていて、まるきり“いつも通り”を楽しめる気分ではなくなっていた。
『君は何処の寮に入りたい? 僕はハッフルパフなんだけど、寮監の先生もとても優しくて、ステキだよ』
『……私は決まっているので』
そう言う彼女は微笑みすらしなかった。それを指して「スリザリン以外は碌でもない」って思ってるんだろうと、友達は笑う。
セドリックも友達がそう言う気持ちはよくわかる。皆から劣等生扱いされているハッフルパフ寮で、しかもマグル生まれとくればスリザリン生の陰口の恰好の的だ。セドリックが彼と知り合った理由はそもそも彼がスリザリン生の笑いものにされているのを庇ったからで、その時は新入生だったこともあり「噂通り、本当にスリザリン寮の生徒って性格の悪い奴らなんだな」と思っていた。
自分から言うことはなくとも、友達や他の同寮生がスリザリンのことを罵るのを聞いてスカッとしたこともある。しかし一年二年とホグワーツで暮らすうちに害のないスリザリン生がいることも知った。それにウィーズリーの双子という、無差別に人へ悪戯を仕掛けるトラブルメーカーがグリフィンドールにいたこともあり、どこの寮にも性格の悪い奴はいるし、厄介な奴は厄介だと考えるようになっていた。だからセドリックが友達がスリザリン生を悪しざまに言っていてスカッとするのは、その相手が実際に悪いことをしているからで、スリザリン全体などを悪く言うものには同意しかねる。
その時もセドリックはそんなことを考えていた。しかし友達にそう諭すのは傲慢なことだと思っていたので、黙っていつも通りを演じた。
些細な違和感だけを残して終わる出会い。それまでの疑問に足されるだけの別れ。
忘却へと向かう記憶とならなかったのは彼女がスリザリン寮に組み分けされなかったからだ。
大広間へ入ってきて、組み分け帽子の前に並ぶ新入生達。その列の最後尾に少女の姿はあった。
セドリックは友達とやっぱり新入生だったのだとだけ話し、マクゴナガル教授が「マルフォイ・ダリル」と呼んでから以降の会話には混じらなかった。尤も混じらなかったものの、友達と同じようには思っていた。マルフォイ家と言えば魔法界でも有名な純血一族だ。それに彼女が懸命に探していた双子の兄はスリザリンに組み分けられた。組み分け帽子がスリザリンを叫ぶのは誰の目にも明らかだった。
その場にいる皆、彼女の組み分けられる寮を予想していて、それが覆されるなどとはこれっぽっちも思っていなかったに違いない。
『グリフィンドール!!』
誰がその結論を理解出来ただろうか。
純血主義の家として名高いマルフォイの家に生まれた彼女が向かったのは、グリフィンドールのテーブルだった。
自分の隣で、スリザリンへの愚痴に興じていた友達が目を見開いて彼女を見つめていた。
『……謝ったほうが、良いのかな』
マグル生まれの友達がポツンと言ったが、セドリックは聞こえなかったふりをした。確かに憶測だけで悪く言ったのは彼女へ謝って然るべきことだが、彼女はそれを聞いていない。だから謝るも謝らないも彼が自分で決めればいいとセドリックは思った。
ダリルは誰の拍手を受けることもなくグリフィンドールのテーブルに着き、そのまま誰からも祝われることなく次の生徒の組み分けが始まった。ハリー・ポッターがグリフィンドールに組み分けられた頃にはもう誰も彼女のことを覚えている人はいなかった。
テーブルの端でじっとしている彼女の肩を叩いて「おめでとう」と言ってやりたい衝動に駆られたが、彼女の横顔はやはり全てを拒絶しており、声を掛けることは躊躇われた。それにハッフルパフの自分がグリフィンドールの席に赴くというのも変だと思って、誰か彼女に一言祝いの台詞を言ってやらないかなと思ったまま宴会が終わり、お開きになった。
新学期が始まっても彼女は一人だった。九月が過ぎ十月になっても彼女は一人で、時々クィレル教授と廊下で立ち話している時だけが活き活きとしており、それ以外はあの頑なな表情を崩さないまま孤独な生活を送っていた。
セドリックは時折一年生の後輩へ彼女の様子を聞いてみることがあったが、その話は大体が「ちょっとお高く止まってる感じがする」とか、好意的に見ても「変な子ですよね」で〆られた。実際セドリックも彼女を観察している限りではそう見えたが、どこか腑に落ちない。
『……私は決まっているので』
あの台詞はスリザリンに決めているからという意味だったのか、それとも家がスリザリンだから自分に選ぶ余地がないという意味だったのか。前者であるなら、皆が言うようにお高く止まっている嫌な子なのだろう。――もしも後者だったなら、そりゃ勿論打ち解けようとしない彼女自身も悪い。けれどもドラコ・マルフォイの妹というだけで遠巻きにする周囲にも原因があるのではなかろうか。それに親から圧力を掛けられている可能性もある。
彼女を見ていると何か色々なものがこんがらがっているようで、自分までもやもやしてくるのだった。友達がセドリックのもやもやを知ったなら「そしたら、もう気にするのは止めたら良いじゃないか」と言うだろうし、実際に自分がそうなったら、気にすること自体を止めてしまうだろう。胸やけに似た疑問は不快なものだ。しかしセドリックは疑問をなかったことにするより、そのもやもやの正体が知りたかった。
十一月になり、十二月が終わり、年が明け、あっという間に二月が来て、三月になった。
とある休日に、ダリルが戸棚の影にいるのを見つけた。セドリックが図書室でダリルを見かけるのは珍しいことではない。その時セドリックがついダリルのほうをじっと見てしまったのは、彼女が誰かと一緒にいたからだ。
最初はクィレルかと思ったが、それにしてはにんにく臭がしない。
誰だろう、友達が出来たのかな……出来たのなら良かった。そうほっとしたのもつかの間で、ダリルは掌で顔を覆いながら走って行ってしまった。マダム・ピンズが「今、図書室を駆けたのは誰ですか!」と怒った瞬間セドリックはダリルが誰といたか知った。
戸棚の影から出てきたのは、ハリー・ポッターだった。彼はばつの悪そうな顔をして図書室の入口のほうを見ていた。
ハリーがドラコ・マルフォイと仲が悪いのは有名な話だ。
それにハリーは寮の点を減らしてからスリザリン寮生に酷くからかわれている。それでうっかりダリルを泣かせるようなことを言ったのだろう。セドリックはダリルを慰めようと図書室を出て、暫く学内を探した。女生徒が泣く時何処へ行くか等も考慮しながら色々なところを探したものの、セドリックがダリルの背を見つけた瞬間に、彼女は扉の向こうへ飛び込んでしまった。闇の魔術に対する防衛術の準備室――クィレルの部屋だ。扉に耳をくっつけると、その向こうからダリルの嗚咽と、それを慰めるクィレルのどもりが聞こえた。
どうも自分は上手く彼女の手助けを出来ないようだ。セドリックはダリルの泣き声から遠ざかり、そう思った。
人助けは慣れているつもりで、人が困っている時に上手く声をかけることや、人の心を開くのに慣れているつもりでいたが、ダリルに限ってはそうではなかった。間が悪いと言うのか、ダリルが助けを求めている時には自分がまごついているし、自分が手すきになればもうダリルはいつものツンとした顔をして、人の付け入る隙がないよう厳しい表情をしている。
クィレルが死んだとき、すっかり落ち込んだダリルを慰めたのもセドリックではなかった。
学校中が賢者の石を守ったハリーとそれを奪おうとしたクィレルの話で持ちきりだった時、セドリックが思ったのはダリルのことだった。慕っていた教師が悪事を働き、そして死んだのだ。悲しみは如何ほどだろう。
セドリックはダリルの姿を見つけたとき、ダリルは医務室で配られる白いパジャマを着て、よろよろとおぼつかない足取りで廊下を進んでいた。「ダリル、勝手に医務室を出てきたのかい」セドリックはダリルに声を掛けたが、彼女は足を止めなかった。「マダム・ポンフリーに怒られる前に戻ろう」ダリルの横から話しかけても、ダリルはセドリックのほうを見なかった。
セドリックは彼女の後をついて、「如何したの」と寄ってくる生徒を追いやったりしながら階段を上り、図書室の前を通り、角を右に曲がり、空き教室を三つ通り過ぎ、また階段をあがって――その時点でもう彼女がどこに向かっているのかは理解出来た。
そして自分が邪魔なのだとも理解した。
一人でツンとしていたダリル、しかしクィレルと話している時だけは楽しそうだった。こんなに狼狽して、彼の死を理解出来ないほどに慕っていたのだ。彼女が孤独だった時にクィレルだけが救ってくれた。セドリックは何もしなかった。
クィレルは皆から馬鹿にされていたし、最期には悪事を働いて死んだ。誰もが彼を嘲笑っている。まるで物語のなかの勧善懲悪のようにハリーを褒め称えている。セドリックもハリーは凄いと思った。ヒーローのようにハリーを語る周囲に同調していた。
でもダリルはそうではないだろう。セドリックは闇の魔術に対する防衛術の準備室の中へ消えていくダリルの姿を見て思った。クィレルは物語の中の悪役ではない。つい一昨日まで生きていて、自分たちに教鞭を振るい、自分たちと同じに感情を持つ人だった。親がいて、友が居て、好きな人もいただろう。若い頃は夢も見ただろう。何よりも目の前には彼を慕う少女がいる。
彼は自分たちと同じ人間だったのだとセドリックは思い出した。
セドリックはクィレルの生前、クィレルのどもりを真似て馬鹿にする輩を好きじゃなかったし、仮にも教師である人を嘲笑うのは不敬だなと嫌な気持ちになった。なのにクィレルが悪事を働いたと知った瞬間から、誰かが彼のどもりを真似るのも気にならなくなったし、彼を嘲笑うのも仕方ないかなと思うようになってしまった。クィレルは自分から何か奪ったわけではないのに、セドリックは彼の死よりも悪事に目を向けている。そんな己が恥ずかしくて、セドリックはダリルのいる部屋へ行くことが出来なかった。その場にずっと立ち尽くしていた。
『セドリック、君はハッフルパフの名に相応しい誠実な青年じゃ。何も恥じることはないとも』
ぎょっとして後ろを振り向くと、きらきらしたブルーの瞳が自分に微笑みかけており、ダンブルドアが立っていた。
『……思っているだけで、行動に移す勇気がなくともですか』
グリフィンドールへの劣等感が顔を覗かせ、セドリックは一層恥ずかしくなった。ダンブルドア校長になんて生意気なことを言ってしまったのだろうとも思い、ぽっと顔を赤らめた。それでもダンブルドアは鷹揚に頷くだけで、セドリックを咎めようとしなかった。
『“思う”というのは、まず物事の初めに必要なことじゃよ。君は勿論、ハッフルパフの生徒達は人に見えない事実をよく知っておる』
そうにっこり笑うと、ダンブルドアはダリルがいる部屋のほうへ視線を滑らせた。
『対象の悪事に左右されぬ愛情というのは時に身を滅ぼす――常に物事の中心にあるが、バランスを崩せば一気に落ちていく。“勇気”というものはそういう一面を持っておる。そして“狡猾”は己しか顧みんがために他から責められ、心の置き所を常に探しておる。“知性”は彼らの失敗から学び、“誠実”は皆が見落としがちになる幸福というものを最初から知っておる。
……あの子はバランスを崩せば一気に落ちていく危うさと、他から責められるが故の孤独を秘めているのじゃろうな。故に他から責められぬように己を顧みず、物事の中心から外れていく。一見して魅力的な人間はその倍の負債を抱え込んでおるよ』
『それは、彼女に関わらないほうが良いということですか』
『いいや。それを決めるのは当事者同士じゃ。彼女はきっと君の良い学友になってくれるじゃろう』ダンブルドアの台詞にセドリックはまた顔が赤くなったが、何故かはよく分からなかった。『しかしの、ヘルガ・ハッフルパフの求める理想の生徒像にピッタリ当てはまる君が、己の価値に気付いていないようじゃったから、老いぼれとしては勿体なく感じただけじゃよ』
悪戯な笑みだけを残してダンブルドアもまた闇の魔術に対する防衛術の準備室へ消えて行った。
彼女を見舞いたいと言った時にマダム・ポンフリーは彼女が望んでいないと切り捨てたが、セドリックは諦めなかった。クィディッチの練習で怪我をしたと言い張って医務室に押し入り、セドリックはマダム・ポンフリーの隙を見てダリルへ話しかけようとした。カーテンに手を掛け、シャ……とわずかに開く。しかしダリルはセドリックのほうを見なかった。俯くダリルの表情には生気がなく、膝の上に置いた本の表紙をなぞる指先以外はピクリとも動かない。『彼女が反応しないのは、何も貴方にだけではありませんよ』背後から聞こえてきたため息交じりの台詞にセドリックは慌ててカーテンから手を離した。
『肉親以外にあの子を気にかけてくれる人がいるのは私としてもほっとしましたが、その肉親にも今は会いたくないと言ってるんです』
時間が彼女の悲しみを慰めるだろう。マダム・ポンフリーの台詞に、セドリックはすごすごと医務室を後にした。
彼女がドラコ・マルフォイの面会を拒否しないぐらいに回復したら、見舞いに来ようと思ってセドリックは出て行ったのである。
次にダリルを見かけた時も彼女はまだ、あの白い入院着を着ていた。しかし死人のように強張った顔ではなく、両手をフレッドとジョージに引かれ、笑っていた。崩れたバランスは見事に安定したらしく、それから夏季休暇が始まるまでの五日間でセドリックはダリルの笑顔を幾度も見かけた。ダリルをミス・スリザリンと呼んでからかっていた双子は、彼女の良い先輩、良い友達になったらしい。二人から色々な事を教わる度に彼女はくるくると表情を変え、乾いたスポンジよりも多くを吸収したらしかった。
落とし穴にはまった挙句、双子から蛙卵ヌガーを投げつけられたセドリックはダリルの変わりようを痛いほど理解した。それは何も捻った足のせいではなかった。
穴から蛙卵ヌガーだらけの頭を覗かせるセドリックを見て、フレッドとジョージは床を転げまわって大笑いし、ダリルは申し訳なさそうにしていた。しかしフレッドとジョージに耳打ちされたダリルはおそるおそる舌を突出し、それでセドリックも、自分が足を捻っていることや、頭がねばねばしていることも忘れて笑ってしまった。ダリルも笑い出す。自分に向けられた、初めての笑みだった。
『ごめんなさい。でも貴方、主席なんでしょう? 駄目よ、あの人たちの考えた馬鹿な仕掛けに引っかかっちゃ』
そう言ってクスクス笑うダリルは、穴にはまったままのセドリックにハンカチを差し出す。
恐らく彼女はホグワーツ特急でセドリックが声を掛けたことも、クィレルを探す彼女に声を掛けたことも、何も覚えてないのだろう。セドリックが気にかけていたことも、見舞いに行こうとしたことも、ハリーに泣かされたのを心配したことも、何も……。
セドリックがハンカチを差し出すダリルを見たまま言葉を探っていると、ダリルはセドリックに無理やりハンカチを押し付けた。
そうしてフレッドとジョージの後を追って駆けだし、セドリックに手を振った。
『さようならハンサムさん!』
『ハンサムなトロールさんって言ってやれよ。箒の代わりに棍棒を持たせてやりたいぐらいだぜ』
ちょっと立ち止まって、ダリルを待つ双子のどちらかがそう言った。
『ああ、特にこないだの試合でコテンパンにされた後じゃな! 全くあいつがトロールじゃないのは残念だ……』
もう片方がそう頷いた途端、ダリルが二人に追いつく。ぴょんっと飛び跳ねて二人の腕を取ると、何事か興奮したように耳打ちして、三人で笑い、セドリックから遠ざかっていく――遠くへ――遠く――笑みが離れていく。
話したいことは幾つもあったのに、引き留める言葉も思いつかないまま、ダリルのハンカチだけがセドリックの手に残った。
いつも不安そうだったブルーグレイの瞳がキラキラ輝き、心の置き所を探して強張っていた容貌が微笑んでいる。
自分がダリルの心の置き所になれなかったのは勿論残念だったし、悔しくもあった。それでも彼女が幸福そうに二人へついて回っているのを見るとセドリックも嬉しくなった。
七年語り – EXTRA STORY