七年語り – EXTRA STORY
害虫駆除の成功例

 

「ようドラコ、その青いインク……ダリルからの手紙か?」
「ああ、フリント。良い朝だな。一人だなんて珍しいじゃないか。どうも、ノートを貸して欲しいらしい」
「お前も両脇にトロールなしだなんて、横風に飛ばされっちまうなよ。ふん、そのぐらい直接言いにくれば良いのに……」
 ドラコは肩を竦めてダリルからの手紙を折りたたんだ。チラとグリフィンドール席へ視線を滑らすと、こちらを伺っていたらしいダリルと目があった。両手を首のあたりで組んだ“お願いね”の仕草で、眉を寄せて見せる。その甘えるような表情に躊躇いが混じり、やがて苦笑になったのへ隣を見れば、フリントもダリルを見つめていた。困惑と共に小首を傾げたダリルが、フリントの視線に余所行きの笑みを返す。
 年度初めにクィディッチ競技場の騒動で――逆ギレという、ダリルの“余所行きでない一面”を垣間見て以来彼女へちょっかいを出す素振りがなくなったフリントだったが、スクイブ疑惑が晴れたことで関心が戻ったのかもしれない。

「彼女、何が好きなんだ?」
「はあ?」
 不意打ちの質問に素っ頓狂な声を出すと、フリントが不機嫌そうに机を叩いた。
「読書が好きだって言う割り、クリスマスに送った詩集もそう喜んでる様子がないし……クィディッチも――彼女、変わってる」
 片割れを変人扱いされたのに――例え自分自身もそう思ってようと――ドラコは右眉を吊り上げた。「さあ。ダリルは……あいつは……子どもっぽいんだ。だから中身のない下らないものが好きなんだろう」
「具体的に言えよ。彼女が何を考えて生きてるのか俺にはサッパリわからない」
 分からないならそのままで良いのではないかとドラコは思った。脳みそが筋肉で出来ている上に、典型的スリザリン生らしい排他的な思考回路を持つフリントにダリルが理解出来るはずがない。第一フリントはダリル自身が好きなのでなく、その背中にしょっている利益にしか興味がないのだ。尤もその利益にしろ、グリフィンドールの連中と親しみ、トドメのスクイブ疑惑が広まった今となっては微々たるものだ。それで何故またダリルへ関心を持つに至ったのかは分からなかった。フリントはルシウスほど利口なわけではないが、だからといってT評価にまで落ち込むようなウスノロでもない。深皿にシリアルをよそいながら思案するドラコの隣で、フリントがため息をついた。
「まあ、でも……こないだ駄菓子やったら喜んでたっけ」
 ドラコはオレンジジュースが半分残ったコップに牛乳を注いだ。「こないだ?」
 学年と寮と趣味とが異なるため、ダリルとフリントの行動範囲が被ることは稀だった。それに、大抵の場合フリントは取り巻きを連れている。スリザリン生とのエンカウントを避けるダリルが、フリントと出くわした上で一言二言交わすというのは珍しい気がした。
「ああ。爆発スナップで負けたんで、天文学の資料を同室の奴らの分も借りてくることになったんだ。……その帰りに本一冊落としたのを拾って、追いかけてきてくれたんだよ。丁度ポケットに入れたまんまの飴があったんで、それをお礼にやってさ。彼女、ハモニカ・キャンディをピーピー鳴らしながら……まあ、音がなるだけで詰まンない飴なんだけど、やたら嬉しそうだった」
 フリントの視線の先で、ダリルはトーストに全種類のジャムを塗るという暴挙をしでかしていた。
 保守的かつ抑圧的な性格の人間が多いスリザリン生にとって、己から遠くかけ離れた“無邪気さ”や“奔放さ”というのは魅力的に見えるのかもしれない。少なくともドラコはダリルのそういったところが好きだった。
 ドラコはオレンジ・オレを一口飲んだ。フリントはまだダリルの動向を観察している。

「腹踊りが好きなんだ」
「は?」
 フリントの視線がドラコを振り向いた。ぽかんと口を開けたフリントに、ドラコは尤もらしい言葉を続ける。
「ブリッジ状態で階段を転げ落ちてくのも好きだな。兎に角馬鹿みたいな遊びが好きで――君にだから言うけど、芋虫の飼育が大好きなんだ。部屋中芋虫だらけさ。今はまってるのは寄生虫らしい」
「……ダリルが?」フリントがダリルとドラコの顔を見比べた。
「そう。寄生虫に夢中なんだ」
「いや、魔法薬学は芋虫を刻まされるから……前に、だから好きじゃないって言ってたぞ」
「可愛がってる芋虫を刻まされるのが嫌なんだよ。フロバーワームはダリルの親友だ。こないだフロバーワームに寄生虫がついてね、それがフロバーワームの腹を食い破って出るのがカッコいいってショックを受けてた」
「……ダリルって、お前の妹のことだぞ?」
「僕の妹のダリルのことだ。正直父上も母上もダリルの趣味にはお手上げだよ。下手物が好きだからウィーズリーたちと気が合うんだ。まあ恋愛感情はさらさらないらしいが――分かるだろ、流石のウィーズリーもサナダムシを盛ろうとする恋人は欲しくないんだろうよ」
「ダリルが……まさか、あの……あの顔で? 虫も殺せないような……ダリルが?」
「フリント、君なら……まあ分かってくれるだろうと思ってね。君だからこそ信頼して話したんだ。もし父上がダリルの趣味が公になったのを知ったら……分かるだろう? 今の話は二人の秘密にしておいてくれ」
「ああ……本当に?」
 なおも食い下がるフリントに、ドラコはため息と共に頭を振った。「嘘ならどんなに良いか……」



 親愛なるドラコへ
 
 ねえ、ドラコ。あの、こないだマーカスから『寄生虫でも良い』って走り書きが届いたのだけど……これって、その……私がお父様の寄生虫みたいな……要するに邪魔……あの、ものすごーく厄介な……とても、み、見下されているのかしら……?
 それに、最近の彼、変な絵を送ってくるの……線が一杯で、そう、寄生虫……なのかしら? 多分、寄生虫なのよね。
 私はグリフィンドール寮生で、純血主義者じゃあないから、嫌われたって仕方ないとは思うわ。でも……こんな嫌がらせをされるなんて、私、何でこんなことをって聞いてもみたのよ。寄生虫みたいに思われてるにしろ、嫌がらせだけは止めて欲しくて。そしたら、なんて返ってきたと思う? 言わなくても分かるだろう、察して欲しいって……スリザリンのひとってほんとオブラートが好きよね。
 ドラコ、本当はスリザリン寮の人達とのゴタゴタに貴方を巻き込みたくなんだけど……後生だから、如何いう事か本人に聞いてくれない?

 とても困っている妹より、信頼を込めて

 ドラコはダリルからの手紙を丁寧に折りたたむと、目の前で項垂れるフリントへ視線を戻した。
「ドラコ……ダリルに寄生虫の絵を描いて送ったら『とっても上手ね。有り難う』って返ってきた……彼女、本当に……」
「大喜びじゃないか。あいつは照れ性でね。感極まれば感極まっただけ素っ気ない文になるんだ」

 自分の片割れが他人に餌付けされる危険性も失せ、ドラコは穏やかな表情で手紙を暖炉にくべた。
 

害虫駆除の成功例

 
 


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