七年語り – EXTRA STORY
少女のじゃれあい
ジニーもダリルと同じに初等教育は家庭学習で済ませたらしいが、大家族で育ったが故に社交性はダリルよりぐんと高い。
甘え上手で可愛らしいジニーの周りには男女問わず沢山の人がいるので、彼女が少年と一緒にいるのは然して珍しいことではなかった。ダリルがその姿を気に留めたは少年から何かを受け取ったジニーがはにかんだように笑っていたからだ。もしや己の道を突き進みすぎるハリーに愛想を尽かして、その、愛嬌のある少年に鞍替えしたのだろうかとダリルは不安になった。ジニーとハリーの子供はきっと可愛い。ハーマイオニーがロンに取られてしまった今、ダリルのお眼鏡に適う「ハリーの未来のお嫁さん候補」はジニー一人しかいない。そういう、ハリーが知ったなら「余計なお世話だよ。僕のことより自分のことを考えたら?」と顔を赤くするだろう思考で、ダリルはジニーに近寄った。
ダリルは少年と別れてひとり歩きだした背を呼び止める。ジニー、ジニー。軽く二度口遊めばジニーが振り向いて笑った。
「ダリル、あの厄介な人たちは?」
「二人はクィディッチの練習よ。ねえ、ジニー。何を貰ってたの?」
小脇に抱えている包みを指させば、ジニーはあっさりとなかを見せてくれた。ロックハートに抱きかかえられ、面倒くさそうな顔をしたハリーが枠をじっと見つめている。くたびれた風体からして、かなりの間攻防を繰り広げていたに違いない。ロックハートが白い歯を輝かせながらダリルに手を振った瞬間、ハリーはパッと枠の向こうへ身を躍らせてしまった。ロックハートが不服そうにそちらを見やる。
「こんなにハリーの写真が出回ってるなんて、知らなかったわ」
サイン入り写真を配っているという噂もまるきりのデマではないのかもしれない。ダリルは感心したように零したが、ジニーは大慌てで首を振る。ダリルにそう思われて、ハリーが面白からぬ思いをするのは火を見るより明らかだ。「出回ってはないわ。私とコリンだけよ」
「コリン? ああ、よくハリーの写真を撮っている子ね」それに継承者の被害者の一人ね。と言うほどダリルは無神経ではない。
どの道ダリルの脳裏に浮かぶは、カメラを掲げてハリーを追い回している少年の姿だけだ。カメラなしで見たのは、今が初めてだった。
「彼もハリーに憧れているの」
「ファンが三人もいたら、これはファンクラブが作れるわね」ダリルは腕を組むと、ちょっと小難しい顔を作って言った。
ダリルの台詞に、ジニーがパチンと手を打って笑う。
「わ、面白そう! 何をするの?」
「そうね。ハリーを観察して、ハリーの行動パターンを導き出し、ゆくゆくはハリーが何かやらかす予兆に気付きたいわ」
「やらかす……」
「楽しみね」
やらかすという響きはあまり素敵なものではない。ジニーがそう思ったことなど知る由もないダリルはへらへらと「今ねえ、学内にいる人の内、一分で一番多く糞爆弾を処理できるのが誰かって番付を作ってるのだけれど、ハリーは如何なのかしら」なんて笑っている。それはハリーがやらかすというよりも、ハリーにやらか“させる”と言ったほうが正しいのではなかろうか。ファンクラブは糞爆弾を投げつける団体ではない。ジニーは目の前の少女があんまりに例の二人から悪影響を受けてあまりあると思った。ジニーにとってはこんな時でも悪いのはダリルではなくあの二人なのだ。ダリルもそれは同じで、二人は順調に親密な仲を築き上げていた。
何はともあれ将来の姉(にすることを、ジニーは依然諦めていない)が好きな人に糞爆弾を投げつけることは阻止したい。
「写真を見たりはしないの?」
どうやったらハリーを、糞爆弾を処理しなければならない事態に追い込めるか悩むダリルのローブの袖を引いた。こてんと首を傾げれば、ダリルがうっとりする。一つ上の友人が末娘であるが故、年下に甘いことをジニーは熟知していた。ダリルは自分に甘い。
「勿論見るわ。これはスネイプ教授から床に散らばった耳糞を集めるよう指図されて舌を出した時のもの、これは包みを開けると中に入っているイボガエルのイボがそっくり開けた人にくっつく呪いについて言及した本を真剣に読んでいる時のもの、これは廊下の角でドラコと鉢合わせてウンザリしている時のもの、これは雨の日にフレッド達と談話室でクィディッチごっこしてたらクァッフル代わりの林檎をパーシーの顔に当ててアチャーって顔をした時のもの、これはパーシーに説教されて反省したふりをしている時のものという風にね!」
しかし最近は単に甘やかすだけでなく、困らせて楽しむという悪趣味を身に付けて、困る。
やはりダリルの結婚相手はビルかチャーリーねと考えながら、ジニーは表面上だけ怒っている風を取り繕った。
「もう、酷いわ! ダリルったら、少しフレッド達に似て来たわよ」
「うふふ、ハリーのカッコイイ姿を期待していたジニーが、それでも真剣に聞いちゃうのが可愛いんだもの」
勿論ハリーがクィディッチで一生懸命なところや、意地悪なスリザリン生をやり込めているところは素敵だ。でもスネイプ教授に罵倒されて不愉快そうにしているのも、それはそれで素敵である。恋する乙女は盲目というやつだ。
「私じゃなくてハリーでしょう!」
自分じゃなくてハリーについて話すのがファンクラブの存在意義だと、まだ正式に結成してもいないのに主張する。ダリルはそんなジニーを蕩けそうな笑みで見つめていた。ハリーは素敵だし、ジニーは可愛い。好きなものが二倍で、ダリルは今日も幸せだ。
「ハリーを見るジニーを見守る会も兼ねているの」
「じゃ、じゃあ私だって」
「ハリー以外目に入らないのではなくて?」
対抗心を燃やしたジニーへ、ダリルがクスと大人びた笑みを浮かべてからかう。ジニーの顔は前髪と同化してしまった。
「ダリルったら! 嫌い!」
耳まで真っ赤にして、最近ハリーへの恋心をからかうようになったダリルを責める。つんとそっぽを向いたが、視界の端ではダリルがしょんぼりしていて、ジニーは両手で顔を覆った。「うそ、好きよ!」くぐもった声で、一秒にも満たない仲たがいをかき消す。
ジニーの台詞にダリルはぱっと顔を明るくして、にこにこ笑った。
「私も、ハリーと同じぐらい好き!」
手から顔をあげ、ジニーは「やれやれ」という風に苦笑してダリルの好意を受け取る。「私はハリーの次に好き」
ダリルが何とも言えない顔をした。
「え?」
「ハリーの次に好きよ」
「……ここには私とジニーだけよ?」
「ハリーの次」
ジニーは何ら悪びれることなくそれを繰り返し、ダリルはそれに戸惑い、結局最後まで彼女の台詞が覆されることはなかった。
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「ダリル、何読んでるんだ?」
「私、性転換するの」
「ハーマイオニーんときに言っただろ。無駄だ、無駄」
「精々洋箪笥の奥に脱ぎ捨てた死体が増えるぐらいだぞ」
「私のほうが余程ジニーと一緒にいるもの! 勝ち目あるわ!!」
「俺達と君の関係についてない胸に手を当てて考えてみるべきだよ」
「そう、問題は性別じゃあない」
「……クィディッチのシーカーになる」
「おお、とうとうダリルお嬢様がクィディッチ競技場を潰す気になったらしい」
「競技場が娘に怪我をさせたとか言って、ホグワーツに乗り込んできたルシウス・マルフォイがクィディッチの廃止を訴えるだろうよ」
「モテたい……」
「モテたきゃ、まずは自分の性別を探す旅に出るんだな」。
七年語り – EXTRA STORY