七年語り – EXTRA STORY
王子様と独占欲の強い少女
「ダリル、言いたい事があるならどうぞ」
「な、ないわ」
「本当に? それなら、何でさっきから僕の顔を見ようとしないのか教えてくれるよね」
「な、」
「な?」
「なんっ、となく!」
もっとマシな言い訳を考えつくことは出来なかったのだろうか。
「……ダリル、それが如何言う理由であれ僕は教えてほしいと思ってる。だから君がもし僕に負い目があると思っているのであれば、正直に言えることだけでも言ってくれるほうがずっと嬉しいし、ずっと安心するよ」
「ご、ごめん、なさい」
ダリルは暫く黙りこんでいたが、書棚に張り付いたままポツポツと語りだした。
「……私ばっかり一杯強いて、我慢させて、危ないことも沢山してしまったし、多分これからもするし、それだけならまだしも触れなくなってしまったし、本当に私、セドリックに沢山我慢させてるのに、それでおこがましいとは分かっているのだけど、でも、その、」
「うん、それで、如何したんだい」
「セドリックが……その、女の子と一緒にいると、不安になるの」
「それはつまり、僕が浮気をするかもと?」
「そ、そうじゃ、ええと、その、そ、そうだけど、でもセドリックが浮気だからとかじゃなくて、私がこんなだから、そうなっても仕方がないかなって」
ぎゅっと棚の縁を強く握って涙を堪える。前はセドリックが自分以外の少女と一緒に居ても全然平気だったのに、付き合い出したからか、それとも自分がセドリックに貼りついたり、キス出来ないからか――多分に後者が理由なのだろう、嫉妬深さに拍車が掛かった。そんな自分が嫌でこの数日セドリックごと避けていたが、行動パターンを掌握されているのか、こうして易々掴まってしまった。
「本当に、出来ないことばかりで、ごめんなさい」
「そりゃ……君は確かに僕の頼みを全くと言って聞かないし、滅茶苦茶やってるけどね」
「……ごめんなさい」
「好きじゃなかったら、付き合わないよ」
ダリルがビクリと身じろいだ。
「僕はダリルが僕の頼みを聞かないのも、危ないことをするのも、触れなくなったのも知ってて君といるんじゃないか」
なまじっかの厄介ではもう如何とも思わないと呆れた声音で紡げば、ダリルが恐る恐る振り向く。
「よく分からないけど、彼氏が自分以外の女の子と一緒にいたら嫉妬して仕方がないんじゃないかな」
「嫉妬して、良いの?」
「するだけはね。それで僕の行動を過剰に制限しようとせず、こうして僕に文句を言うだけなら幾らでもして構わないさ」
セドリックは妹でも叱るように続ける。「兎に角僕への迷惑は幾ら掛けても良いけど、他の人には迷惑を掛けないようにすること。特に僕の女友達から話しかけられると困惑した挙句ダッシュで逃げるけど、そういうことは止めるように」
「……はい」ダリルがショボンと頷く。「今度、きちんと謝るわ。それで、ちゃんとお話出来るようにするわ」
「うん、最初は出来ることだけで良いよ」
セドリックはダリルを励ますように優しい声を出した。落ち込んでいたダリルの瞳に安堵が過ぎる。
「僕は君のことを単に怒ってるんじゃなくて、案じてるんだよ。このままじゃ君、グリフィンドールの変人というあだ名を欲しいままにすることになるだろう」
フレッドもジョージも差し置いて、そんなあだ名が付きつつある恋人をセドリックは心配していた。
聞いてみればまだ友達も一ケタと言うし、ホグワーツを卒業して社会に出るにしろ出ないにしろ、社交力は大事なものだ。綺麗だ可愛いだのと外見だけで寄ってくる人とではなく、きちんとダリルの本質を見てくれる人と付き合って欲しい。――その未来に己が関われない可能性があるからこそ、自分との繋がりがある内になるべく多くを矯正させてやりたかった。
「セドリック、」ダリルの生活態度に関してくどくど説教していると、いつの間にか近づいてきていたダリルがセドリックのローブを引いた。そうして、ふんわりと嬉しそうに微笑む。「……あの、いつも、駄目なところは駄目って教えてくれて有り難う」
本当のことを言えば、セドリックは別にダリルがグリフィンドールの変人と呼ばれようが、「あの子変な子だよね」と皆から距離を置かれようと構いはしないのだ。それどころかダリルに好意を持たれるよりは、そうやって遠巻きにされているほうがずっと良い。そうすればダリルは自分だけのものだから、自分の傍で自分の手を求めていてくれるから、一人占めすることが出来るから、彼女が孤独なほうが良い。
それでも、それはダリルのためにならない。ダリルの可能性を潰して満たされるような恋情には何の意味もないとセドリックは思った。
「……君が好きだよ」
セドリックがグレーの瞳を細めて、眩しそうにダリルを見つめた。ダリルも頬を薔薇色に染めて、蕩けそうな笑みを浮かべる。
「私も――貴方が、好き」
手に触れることも口づけを交わすことも出来ないなかで、ただ言葉だけで繋がっていた。互いの想いだけで繋がっている。いつ駄目になってしまうか、いつどんな形で別れが来るか分からない不安のなかで、まだ共にいることが出来るから、例え君が僕から離れて行く手伝いをしているに過ぎないのだとしても、君の可能性を伸ばしてあげたい。その瞳に映る世界を広くしてあげたい。
叶うなら、ずっと共に寄りそって歩いて行きたいと望んだ。
七年語り – EXTRA STORY