七年語り – EXTRA STORY
豊胸コルセットドレス

 

「朝っぱらから父上達は何を言い合っているんだ」

「さあ、知らないわ。私、今茹で卵に集中しているの。ドラコも何か食べたら」
「ダリル」
「なあに。茹で卵の殻、代わりに剥いてくれるの?」
「父上が持ってる、あの性的な枕カバーはなんだ」
「んんっう」
「お前、やっぱり父上達が何で喧嘩してるか知ってるんだろう」
「ん……ふ、知らないわ」
「じゃあなんで笑ったんだ」
「ねえドラコ、私ね、今ほしいものがあるの」
「なんだ。言ってみろ」
「だーめ。ドラコには無理よ、お父様でなきゃ」
「一応聞くが、如何いう意味だ」
「じゃあ一応言っておきますけど、私が思うに“あれ”は成人魔女用の服ね。お母様の注文した服に混ざって届いたの」
「……顔だけ隠せば良いってもんじゃないぞ」
「お馬鹿さん、ストラップレスの服よ。肩ひもなしので、胴体だけを隠すの」
「正しく“着る”ではなく“隠す”だな」
「隠すだけじゃないのよ、胸の形を整えて魅力的なボディラインをプロデュースしてくれるんだから」
「やたら詳しいじゃないか」
「話題の商品ですもの。ああ、卵の薄皮って大嫌い」
「貸せ。誰があの服を買ったと思う」
「有難う、ドラコ大好き。誰も買ってないんじゃないかしら」
「僕のことが好きなら回りくどい言い方は止めろ。父上の言う通りだとでも言うのか?」
「回りくどいことなんて言ってないわ。だって、お母様もお父様も買ってないって言うんですもの。店で間違えて入れてしまったのでしょ」
「ここまで言っておいて、いい加減吐いたらどうだ」
「欲しいものがあるって言ったじゃない」
「父上からの買収か」
「お父様もお母様も注文していないと証言してらっしゃって、私達のどちらかが頼んだわけでもないわ。それが全てじゃない?」
「買収だな」
「ドラコがそう思うなら、そうかもしれないわね」
「お前はもう少し真っ当に父上との約束を守ろうという気はないのか」
「約束?」
「何かと引き換えに、父上があの服を……何らかの理由で頼んだのを黙ってると約束したんだろう。欲しいものと引き換えに」
「ねえドラコ、私が欲しいのはフレッド達の家に泊まる許可だけど」
「は、何だと? 奴らの根城に、泊まる? 何秒滞在するつもりだ」
「叶うなら一週間。でも、そんなのお父様が許してくれると思う? こんな、ちんけな弱みで」
「いや……でも、父上と取引したんだろ。でなきゃお前の言動は可笑しい」
「私は欲しいものがあって、それはお父様の手でしか与えられないって言っただけよ。お父様とお母様が喧嘩してらっしゃるのとは無関係だわ。それに『お父様と取引しました。今年のクリスマスはフレッド達の家で過ごします』なんて言った覚えないわよ」
「クリスマスを家でも学校でもないところで祝いたいなんて言ってみろ。母上が黙ってないぞ」
「ブラック家の途方もない歴史について語りはじめるでしょうね」
「なんで父上を庇うようなことを言うんだ。あれは、まず間違いなく父上が如何にかしたものだろう。でなきゃ今頃母上が店を潰してる」
「庇ってないわ。お父様の機嫌を損ねるのは面倒だから、煽る必要もないと思っているだけ。私だって両親には円満な関係を築いていて欲しいものよ。それにお父様が注文したっていう証拠もないまま煽ったら、少なくとも三日はお父様から虐められるでしょうね」
「何を貰ったんだ」
「ねえドラコ、私もクリスマスプレゼントにはあれと同じものが欲しいわ」
「今年のエピファニーに、屋敷僕妖精の仮装でもするつもりか?」
「そんなに惨めったらしくないわよ」
「ちょっとでもあの枕カバーに触ってみろ、絶縁するからな」
「ドラコったら酷いわ。あの服、どことは言えないけど色々と豊かにする機能もついてるの――下着にするんだって、素敵でしょう」
「朝っぱらから、下らない情報を僕に噴きこむな」
「アリシア達とね、買ってホグワーツに持ってこうかって話してるのよ」
「誰に見せるつもりだ」
「別に、誰って特別いないわよ」
「母上なんか、見せる相手がいるのにああまで拒否してる。あんなの、見せる相手もいないのに着るのは色情魔ぐらいのものだ」
「そんなことよりドラコ、あれ、お母様が暖炉に突っ込む前に何とか貰ってきてくれない」
「お前は双子の兄が火刑に処されても良いのか」
「枕カバーとして使いますって言えば良いじゃない」
「馬鹿いえ、あんな――あんな枕カバーがどこにある。精神病患者だって、自分のベッドにあんなものが乗っかってたら泣いて嫌がるぞ。あんなのを頭に敷いて寝るぐらいだったら、ウィーズリー共と枕を並べて寝るほうがまだマシだ」
「そこまで嫌なの?」
「あんなわいせつ物を喜ぶ男がどこにいるんだ」
「この部屋のなかに少なくとも一人はいるじゃない」
「どこの誰があんなものをデザインしたやら。自分の子供があんな破廉恥なものを作ったなんて知ったら、そいつの親は首を括るだろうよ」
「お父様はお母様にあのわいせつ物を着てほしいみたいだけど」
「大体にしてお前もここのところ露出が多いぞ。夏だったって、そう暑くもないだろう。今日だって曇ってるじゃないか」
「私の服を選んでいるのがお父様だってことをお忘れのようですね」
「そうだ。そろそろ自分で自分の服を選ぶ年頃なのに、お前はいつまで父上に負担をかけるつもりだ」
「あら、まるで私が好きで前世紀の遺物を着ているかのような言いぐさですこと。私だって、ああいう今風の服が良いわ」
「お前は今風の服が皆、ああいう枕カバーだとでも思ってるのか」
「まさか。ジーンズとかトレーナーとか、皆が如何いう服を着てるかぐらいは覚えているわよ」
「ズボンの一本は持っているんだろうな」
「ええ、三本ぐらい持ってるわよ」
「お前がズボン履いてるところなんて、見たことないぞ」
「皆で雪合戦した時には履いたわ」
「それ以外で履いたことはないということか」
「ズボンって、足が疲れちゃうんですもの。それにお父様はワンピースを着てる私のほうが可愛いって言って下さるし」
「お前がそういう態度でいるから、父上が母上に無茶な要望を突きつけるんだろう。もっと確固たる意志で、自分があれを着たい、これを着たいと思った事はないのか」
「あの服が着たいわ」
「良いだろう。理由ぐらいは聞いてやる」
「魅力的なボディラインを手に入れて、ハンサムな男の子たちからちやほやされたいの」
「僕はお前と血が繋がっているのがほとほと嫌になる」
「だってドラコ、ドラコは妹が魅力的なボディラインを手に入れたところを見たくないの?」
「所詮作り物だろう、馬鹿らしい」
「それは、そうだけど」
「逆に聞くが、お前は魔法――永続的なものでないなら、詐欺だ。張りぼてに過ぎない魅力で男を釣って、それで楽しいのか」
「釣る、詐欺って、そんな」
「そんなものを欲しがる女は当然馬鹿だが、釣られる男はもっと馬鹿だ」
「私、ちょっと欲しいって」
「お前が……まあ誰にちやほやされたいのかまでは知らないが、兎に角、まあ特定の……見せたい誰かがいるんだろう。ウドの大木みたいな……トロール、何をしなくても馬鹿な男が、いると……まあそういう風に仮定して、その見せたい……既に最上級の馬鹿だとは思うが……その馬鹿が……更なる馬鹿に飛翔して、お前はそういう馬鹿に引っかかっているのか。ダリル、如何なんだ。ダリル?」
「うっ……」
「ダリル、聞いて、」
「だって……だって、マネキンが哂うんですも……私だって牛乳飲んでるのに……」
「おい、馬鹿。泣くな。泣くことないだろう」
「ちょっと胸が大きくなって……そしたらフレッドたちからレディ扱いして貰えるかもって」
「奴らにレディ扱いされる必要はない。ダリル、聞け」
「お母様だってそんなに大きくないし……そりゃ小さい頃はドラコの真似して楽しかったけど……大きくなったら、やっぱり女性らしいボディラインが欲しいわ。薄い胸なんて、要らない。走ったら揺れるぐらいが良いって、みんな言ってる」
「誰と誰と誰だ。大体母上はそれでも父上みたいな立派な夫と結ばれたじゃないか」
「豊胸コルセットドレスを買ってくるような立派な夫とね」
「ドレス!? ドレスなのか、あの枕カバー! 着ると伸びるのか?」
「き、着ると、ヒッ……ボディラインを……長さは変わらなくて……ちょっぴりウエストを引きし、胸を豊かに……うぇ、丈は伸びないわ」
「あの長さ、精々チューブトップだろう。下にズボンを履くべきだ」
「夫から……豊胸コルセットドレス貰うぐらいなら……自分で買ってつけておくほうが良いわ」
「聞きましたか、ルシウス。聞きましたね。十三歳のダリルに分かって、如何して貴方に分からないのかしら
「私が買ったわけではない」
「着てほしいと思った時点で同罪です。ダリル、行きましょう。こんな無礼な男たちと一緒の部屋にはいられないわ」
「お母様、お母様が貰った豊胸コルセットドレス欲しいわ……」
「ダリル、胸なんて所詮脂肪なのよ。どんなドレスも胸があれば厭らしくてはしたないだけ。私の姉は……まあ、分かるでしょう。パーティで一番持て囃されたのは私でした。ルシウス、ダリルがそのわいせつ物にちょっとでも触ることがあったら離婚ですからね」
「だって……お母様は貴婦人ですもの……お綺麗でいらっしゃるし……」
「ルシウスよりも貴女のほうがよっぽど賢いわ。あのわいせつ物は今日中に焼きましょう」
「勿体ないわ」
「さっきから言っているでしょう。私達にあのわいせつ物の助けは要りません。鏡を見ればすぐ分かることです」
「だってお父様は、お母様に」
「黙りなさい。次にそんな悍ましいことを口にしたら、今度こそ私は実家に帰ります」
「あの家なら疾うに壊した」
「また勝手に――なら慰謝料代わりに、お義父様の暮らしていた別荘を頂きますからね」
「お母様、ワイト島からキングズクロスまではどのぐらい掛かりますの」
「ダリル、お前もナルシッサもワイト島に行く予定はない」
「ええ、そして衣装室から出てくる予定もありませんわね」
「ドラコ、フローの世話をお願いね」
「あ、ああ」
「お前が世話をすると言って連れてきたんだろう。生きている犬とフェルト製の小鳥とではまるきり違うことを、」
「本当に有り難い説教ですこと。貴方から命の重さについて説かれると、耳朶を薄滑りしていくようですわね」

「結局、ダリルの欲しい物とはなんだったんです」
「二角獣の角の粉末と毒ツルヘビの皮の千切り、それにトリカブトだ」
「父上、まさか、そんな危険なものを奴に買い与えるつもりだったんですか?」
「そんなことよりドラコ、ナルシッサに何を買い与えれば機嫌が直ると思うかね」
 

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七年語り – EXTRA STORY