七年語り – EXTRA STORY
敵の敵は相変わらず敵

 

「パンジー・パーキンソン。何故貴女がこんなところにいるのよ」
「私がどこにいようと勝手だわ。マルフォイ家のお嬢様こそ、こんな汚ならしい」
「汚らしくはないのです!! 私たちはお二人をはじめとする生徒さま方のために毎日ピカピカにお掃除なさいます!」
「……ですって」
「う、うるさいわね! 言葉の綾よ。何で貴女が厨房なんかにいるのよ、料理も出来ない癖に! お菓子を受け取って、さっさと帰ったら」
 パンジーの台詞を聞くや否や、屋敷僕妖精たちが巨大なデコレーションケーキを運んでくる。ダリルはシッシッと彼らを追い払った。
「料理ぐらい出来るわよ。ここへだって、お菓子を作りによく来るんだから。今日はクッキーを焼くのよ」
「お嬢様のお作りになる炭はとっても美味しいのでございます!」
「あーら、炭作りがお上手なのね。私だってお菓子作りは得意なのよ。今日だってシフォンケーキを作ってるんだから」
「お嬢様がこないだ下さったマットレス、硬くて寝心地がようございました!」
「ふーん」ダリルはドラコそっくりの嘲笑を浮かべた。「錬金術は厨房で産まれたって言うけど、卵や小麦粉から寝具を作り出せるなんて、パラケルススもびっくりでしょうね。ニコラス・フラメルの後継者とお近づきになれるなんて光栄ですわ」
「大体お菓子なんて作って如何するのよ。仲間の馬鹿……おっと、同寮のご友人だったわね。彼らの好物が炭だったなんて知らなかったわ」
「貴女こそ、友達にあげるの? それとも、ドラコにかしら」パンジーがいやーな顔をした。「案外、貴女って分かりやすいのね」
「余計なお世話だわ。お菓子を作らないんだったら、帰ったら」
「作るわよ。それにしても貴女の作った生地、水分が少なすぎなんじゃあないかしら。粉が多すぎるんだわ。一袋全部使ったの?」
「今から調節するのよ。炭を焼くような人のアドバイスなんて欲しくないわ。放っておいて頂戴。ああ、もう。ボウルが小さすぎるんだわ」
「……お菓子を作るのが楽しくないなら、止めたら?」
「さっきから五月蝿いのよ。私だって、好きでこんな粉塗れになってるわけじゃないんだから、黙ってて!」
「ドラコの好みのタイプは、お菓子を作れる人じゃないわよ。だってお母様も私も炭かスポンジしか焼けないんですもの」
「作って見せるってやくそく……やくそく、したのよ」
「ドラコと?」
「ノットとよ!!」パンジーは手に持っていた布巾を床に打ちつけた。「あのスカし男、何年も前のこと持ち出して……腹を壊したぐらいが何よ!! みんなの前で恥をかかして……あんな奴、トイレに流されてマートルと一緒に暮らしてれば良いんだわ」
 グリグリと布巾を踏みにじるパンジーに、ダリルは困惑した。何故そこでセオドール・ノットが引きあいに出されるのか。
「……ドラコに、あげるのよね?」
「そうよ!!」
「で、あげるって……手作りクッキーをドラコにあげるって、セオドールと約束……彼は何が目的なの?」
「目的なんかないわよ。昔っからそう。私に恥を掻かすのがお好きなだけなの」
 皆の前でセオドールに恥を掻かされたパンジー。パンジーはお菓子作りが大好きというわけではない。作ったクッキーを食べるのはセオドールではなくドラコ。クッキーを作ることは、セオドールとの約束。これらの情報を纏めるに、恐らくドラコに「お菓子作りが得意なの」とか何とかアピールしているところへ割り込んできたセオドールがパンジーの料理下手を明かした……というところか。それで「嘘だって言うなら真っ当なものを作って食べさしたらいい」とかなんとか返されたので厨房にこもっていたのに違いない。
「ドラコは、女子から勧められたら大抵の物は食べると思うわ」
「それが何よ。貴女の炭で慣れっこだったからって、見かけが悪くっちゃあセオドールに馬鹿にされるじゃあない」
「見かけさえ良ければ、味が悪くても生焼けでも良いじゃない。適当に混ぜてオーブンを見張ってれば、外見は取り繕えるわ」
「……それでも、不味かったら顔を顰めるでしょう」
「渡すときに『一生懸命作ったのよ』って言ったら、不味いなって思っても他人に悟られないよう顔を背けるなり俯くなりしてくれるわ」
「それは……そりゃ、それは……だって貴女は、貴女は双子の妹ですもの……それにセオドールだって味を見ようとするに決まってる」
「手を叩き落とせば良いじゃない。私だったら『ドラコのために作ったのであって、貴方にじゃないわ』って、絶対に食べさせない」
「本当に、念を押せば誤魔化してくれるのね……?」
「私とお母様だけで一冬越せるだけの炭を焼いてるのよ。貴女ね、私たち四人家族なのよ。お父様が炭の処分を手伝ってくれると思う?」
「あとで胃腸薬を渡したほうが良いかしら」
「一応ね。私もセオドールのこと好きじゃないわ。無理にスカしてる感じがして嫌い。話も詰まんないし」
「無理にスカしてる。そうよね。あいつ、“自分は違う”って顔してるのが苛立つのよ――それでいて、ママとパパはセオドールがお気に入りなの。落ち着いててるからって……あいつは落ち着いてるんじゃなくて、面倒くさがりなだけだってのに……」
「随分近しい付き合いなのね。遠縁?」
「貴女って、家系図とか見たことないんでしょうね」図星を突かれたダリルは肩を竦めて見せた。パンジーは腹立たしげに鼻を鳴らすだけで、嫌みを口にすることはなかった。「はとこよ。ママとセオドールのパパがいとこ同士で、どっちも一人っ子だからやたら親しいのよ」
「同い年の親戚って、面倒くさそう。うちは付き合いのある親戚がいないから分からないけど」
「親戚にセオドールがいない人は皆幸運よ。あいつの記憶力の良さは蛇以上だわ。あいつの頭の上に鉢植えとか振ってきたらいいのに」
「よっぽど嫌いなのね」
「鬱陶しいのよ。同い年の癖に上から目線で指図してきて……それも皆がいない時だけ。本当に大嫌い。早く縁を切りたいわ」
「早く縁が切れると良いわね。応援するわ」
「……有難う。貴女のことも同じぐらい嫌いだけど、こればっかりは感謝しておくわ」
 

敵の敵は相変わらず敵

 
 


七年語り – EXTRA STORY