七年語り – EXTRA STORY
しあわせをいのる
「ね、セドリック、私と二人っきりでクリスマスを過ごすなら如何する?」
「……過ごそうじゃなくて?」
「過ごせるなら」
「それは今度のクリスマス休暇に僕と過ごせそうということではなく」
「セドリックがホグワーツに残ってくれるのなら過ごせるかもしれないわ」
友達と過ごしたいのだと言えば母親は笑って許してくれるかもしれない。しかし父親は「私よりも友達が大事なのか、ええ?」と駄々をこね、拗ね、面倒くさいことになるのに決まっていた。そこまでしてダリルと過ごしたいかと言えば、しかもダリル自身確実に残るかは分からないと言っている状況でイエスと言えるかと考えてみれば――覚悟出来るはずがなかった。
ダリルは黙り込んだセドリックをわざとらしく睨んだ。「嘘でも良いから頷いてしまえばいいのに」
「えーと、ごめん」ほんのからかいのつもりだったのに、セドリックはそうは思わなかったらしい。
ダリルは笑ってみせた。「うそ、冗談よ」
物言いたげな様子のセドリックへダリルは言葉を続ける。無邪気を気取って、なんでもないという風に多くを誤魔化して言葉を紡ぐ。
「私ね、セドリックと二人きりで過ごせるなら、セドリックの家がいいわ」胸の前で指を組んだ。「それで明かりを消して……」そこまで口にするとダリルは両手で顔を覆った。ふるふると頭を振る。あんまりにダリルが恥ずかしがるので、セドリックも恥ずかしくなってきた。口元を押さえて、視線を逸らす。
「あの、ね」
羞恥に震えていたダリルがようやっと「やだ、もう」以外の言葉を零す気になったらしい。相変わらず顔を隠したままに明瞭な声を出した。「ふ、二人でキャンドルの火なんか見つめ合ったりなんかして、それで、私の作ったクリスマスプディングをフランベするの」
にちゃっと歯茎にくっ付くクッキーの味を思いだし、セドリックは素に戻った。みるみるうちに羞恥が引いていく。
「ああ、クリスマスプディングね。そうだね。美味しいね」
セドリックの冷めた声音などお構いなしで、ダリルは薄暗い部屋のなかで灯るキャンドルがどんなに綺麗か、先日ハーマイオニーから教えてもらったクリスマスプディングのレシピがどんなに凝っているかを熱っぽく語っている。割と如何でも良い。
勿論、そんなこと口にしたりはしなかったけれど、ダリルほど楽しそうにしてみせることも出来なかった。
「ね、セドリックは私と二人きりでクリスマス過ごすなら如何したい?」
ダリルのブルーグレイの瞳が陽光を写し込んできらめいた。上気した頬が笑みを彩っていて、可愛らしい。
「うーん」如何でも良いとか言うのは可哀想なので、真剣に考えてみた。わくわく出来るといいななんて、してみる前から無理だと悟ってしまう願望を抱く。「……そうだな、ダリルと一緒なら何でも良いよ」やっぱり無理だった。
大体ダリル以外に付き合った相手もいないから大したデートプランが浮かばない。それにプランを立てたところでダリルに台無しにされそうな気がするし、寧ろこうしたいという確固たる望みがあればあるほど疲労感が増しそうな気がする。振り回されるのも、滅茶苦茶にされるのも、面倒を増やされるのも仕方ないと達観するのが結局一番楽なのだ。セドリックはハハハと諦念を浮かべて笑う。
セドリックがニコと笑った瞬間、ダリルの顔が真っ赤になった。
「私も、そのっ私も――」へにゃと微笑む。「私も、セドリックと一緒にいられるなら、どこでも、いつでも、凄く幸せ」
己からの好意を信じて疑わないダリルへ、セドリックは微かな苦笑を零した。そうして身を屈めて掠めるだけの、ダリルを傷めることのない口付けを一つだけ落とす。「うん。僕も、ダリルがいれば、どこでも、いつでも、楽しいよ」
制約が多くても、出来ないことばかりでも、こうして共に時間を過ごし視線が交差するだけで自分達は幸せなのだと思う。
七年語り – EXTRA STORY