七年語り – EXTRA STORY
縛りたかったわけじゃない

 

「お前はポッターといつもあんなことをしているのか」

「ドラコ、痛いわ」
「痛い事あるものか。ポッターと、いつもあんなことしてるのか」
「視覚的に痛いの。ドラコ、私を馬か犬と勘違いしてるみたいね。残念ながら私は人間ですので、手綱の必要はなくってよ」
「……ポッターと、いつも、あんなことしてるのか」
「あんなことって何よ」
「ポッターに……ポッターにキスされそうだったじゃないか」
「ドラコ。貴方、妹がキスされかけてるとこに割って入る趣味でもあるの」
「ポッターと付き合ってるのか」
「ああ、もう。冗談よ。茶化しただけ。別に、ハリーはキスしようとしてたんじゃないわ」
「じゃあ何でお前の腕を掴んで、顔を覗き込んでたんだ」
「ドラコだっていつもしてるじゃない。私が馬か人間か判別つかなかったんでしょうよ」
「あいつにくっ付いて、のこのこどこかへ行ったりしてるのか」
「友達ですもの。そりゃ、どこかへ一緒に行ったりもするわ」
「二人きりでか?」
「ドラコ、さっき二人きりだったのは、ハリーが私の荷物を持つのを手伝ってくれたからよ」
「それだけだってなら、あの、ロナルド・腰ぎんちゃく・ウィーズリーがいないのは可笑しいじゃないか」
「それ以上何か仰りたいようでしたら、私は失礼させて頂きますから、梟便でどうぞ。ただし返事は月末になりますけど」
「ダリル。待て、待てと言ってるだろう」
「そら見てご覧なさい。貴方だって私に恋愛感情のひとかけらもないくせ、ハリーみたく引き留めるじゃない」
「僕は良いんだ! 僕だけは、良いんだ……知ってるくせに」
「ドラコ、何を怒っているのか分からないわ。本当に、茶化しているわけでもふざけているわけでもなく、何故そんなに怒っているの」
「……別に。ただ、お前が……お前が、ポッターと深い仲になれば、お前が傷つくと思って」
「御忠告痛み入りますわ、お兄様。でも、そんなこと、ずっと前から知ってるわ」
「知ってるなら、なんで、」
「また二年前と同じ不毛な喧嘩を繰り返すの?」
「同じじゃない」
「同じよ。私だって、ドラコの寛容さに胡坐をかいて、フレッド達と堂々と付き合うようになったのは悪いと思ってるわ。
 でも自分の分は弁えているつもりよ。私がスリザリン寮を訪ねることがあって? ドラコに私の味方をしてくれと頼むことが、一度でもあった? そりゃお父様は時々子供の喧嘩に口を出すけど、それでも“愛娘につい甘くなってしまう父親”の域を出ないはずよ。私が純血思想を軽んじることを許さないわ。私も、お父様やドラコの前で軽んじる気はありません。フレッドやジョージ、ハリー達と仲良くすることの責任は取るわ。私だってマルフォイ家の人間よ。私個人の評判を落としても、家名の評判まで一緒に落とす事までは望まない」
「如何してお前は、そう理詰めで畳み掛けるんだ」
「理詰め? まるで私が、事務的な話をしてるみたいじゃない」
「その通りだろう。僕がいつ家名の話をした。お前の言いぐさは、まるで僕が家名のことしか考えてないみたいじゃないか」
「でも、とても大事に思ってるでしょう。だから私、ドラコが嫌なことはなるたけしないようにって」
「そんなら、ポッター達と馴れ合うのを止めろ」
「それは駄目。無理よ」
「それは、要するにお前は、じき家を出るつもりなのか」
「それは勿論出ます。何? いつまでも家に留まって、小姑生活を楽しめっていうの? 兄嫁いびりだなんて、真っ平ごめんだわ」
「そうじゃない。そうじゃなくて――そういうことじゃ、ない。ふざけるな」
「こんな話、ふざけないとやってられないでしょう」
「……そうか」
「そうよ。……そうよ。私がアンドロメダ・ブラックみたいになるのを案じてるなら、安心して。そんなことにはならないから」
「は、」
「時期が来たら、お父様とお母様の望む方と結婚するわ。ハリー達とは、どうなるかわからないけど、あと少しだけよ」
「お前は、お前はそれで良いのか」
「何よ。ドラコが『止めろ』って言ったんじゃない」
「それは、でも、お前は『無理だ』と言ったじゃないか。ついさっきのことだ」
「今は無理――今だけは、駄目。そういうことよ。私だってマルフォイ家の娘ですもの」
「僕が、いつ家名の話をした」
「さあ。耳に出来たたこのせいで、誰が何を言ってるか聞き取れないことがあるの」
「僕は家名のことなんて、一度も口にしてないからな」
「ええ、聞こえているわ。私が家名の話をしたかったの。私は、家名なんて本当は如何でも良いんですもの」
「如何でも良いなら、なんで家名の話なんてするんだ」
「意識しないと、家名のことを考えていられないから。お父様やドラコが大事にしてなきゃ、家名なんて如何だって良いのよ。私が大事なのは貴方たちだもの。だから家名のことを考えるわ。そして、自分の好きに生きたいと思うから、味方して欲しいと思わないわ」
「お前は、ウィーズリーのアホ共や、ポッターの無能が好きなんだろう」
「好きよ。大好き」
「なら、」
「皆のことは好き。でもドラコがいなければ、私は呼吸も出来ないわ。分かるでしょう? だから聞くの。何故、ハリーに怒ったの?」
「……お前が、自分の好意に期限を設けることが出来るからだ」
「そうね。ドラコは、そんな器用な事出来ないわね」
「お前だって、出来なかった」
「何だか語弊があるみたい。別に、一年先の未来でハリーを嫌いになってしまおうって考えているわけじゃないわ。ドラコは気に入らないでしょうけど、ハリーのことはいつまでも大好き。でも数年先の未来でハリーの傍にいるのは止めるの」
「僕は、そこまで望んだわけじゃない」
「知ってるわ」
「……そんなら、勝手にしろよ。今まで通り、僕は勝手に怒るし、お前に小言も聞かせる。お前はそれを適当にはぐらかして、僕の寛容さや父上の愛情に付け込んでれば良いじゃないか。今までみたく、そうやってけば良い」
「そうね。そうしてようと思ったわ。でも、止めたの」
「もう、良い」
「止めたのよ、ドラコ」
「――良いって、そう言ってるじゃないか!」
「ハリー、私が何を考えてるか薄ら分かるみたい。いいえ、分かるというより、何か感じてるんでしょうね。私が自分可愛さに確約しないから、それで怒っていたの。キスされそうだったんじゃないわ。目を覗き込んでたのは、私が嘘ついてないか探るためよ」
「もう良い。分かった。……お前とポッターの間には、結局何もないんだな」
「ドラコのせいじゃないわ。私が決めたの。でも、だから、ドラコの傍からは離れないわ」
「僕は、お前に一緒にいてほしいわけじゃない」
「それじゃ、勝手に一緒にいるわ。ドラコの寛容さに付け込んで、離れないわ」
「……グリフィンドール塔へ帰るんだろう」
「ええ、今日はね。明日も、明後日も、グリフィンドール塔で眠るわ。そして、その間は貴方の嫌いなハリー達と、楽しく過ごすの」
「そうか。そのまま、僕がお前ごと嫌いになってしまうまで楽しんでろ」
「ま、酷い。ハリーに嫉妬して、ここまで連れてきた癖に。さっきのドラコ、とっても強引だったわ」
「お前の言い方だと、何か僕が妹に良からぬものを抱いてるみたいじゃないか」
「皆無だったら、かっとなったりしないわよね」
「な、この、この大馬鹿女。さっさと、あの白痴どもと馴れ合ってろ」
「はいはい。言われなくても、もうすぐ夕飯ですもの。ダリルはお兄様の大嫌いなグリフィンドール塔へ帰らせて頂きます」
「二度と外に出てくるな」
「もう、虫の居所が悪いみたい。本当に帰ってしまうわよ。後で梟を飛ばしてきたって、返事は書いてあげないんだから」
「……お前はイギリス一の大馬鹿者だ」

「そんなの産まれた時から知ってるわ。ドラコだって、それでも産まれた時から一緒にいるじゃない」
 

縛りたかったわけじゃない

 
 


七年語り – EXTRA STORY