七年語り – CHAMBER OF SECRETS
11 同日、真逆の結論
通路を歩いていると、フレッドに言われた通りやけに騒がしかった。幾ら数カ月にぶりに会う友達との会話が盛り上がるとは言え、ここまでの喧騒になりはしないだろう。尤も誰もがダリルと同じように、軟禁まがいの夏季休暇を過ごしていたなら話は別だが。
フレッドとジョージは二人で何事か話しこんでいる。にやにやと笑いながら、酷く楽しそうだ。ダリルはむっと頬を膨らませた。自分の手を握ったままでいるフレッドの頬を抓って、自分の方を向かせる。
「それで、何があったの?」
しかし答えたのは二人ではなく、直ぐ傍のコンパートメントに腰掛けた少年の声だった。
「見たかよ、すっげえ! クルマが飛んでたぜ」
ダリルは思わず彼らのほうを向く。少年二人が押し合いへしあい、全開にした窓から身を乗り出している。クルマとは何だろうと思ったものの、何かが空を飛んでいて、それが列車の中で話題になっているのだと理解出来た。そしてそれが二人がダリルに教えたかったことなのだろうとも気付き、二人を振り向く。フレッドとジョージは少女のように瞳を煌めかせながら、にっこり笑っていた。
「皆の証言を集めるとこうだ……」
「トルコ石色の車である。我々が図を書いてみせると、フォード・アングリアだと言う。何よりもハリーとロンがいない……」
ジョージが勿体ぶった台詞を、フレッドが引き継ぐ。
如何言う事だと、言われたことが理解出来ずに二人の顔をじっと見上げたままでいたダリルだが、スリザリン寮生らしき少年が自分を付き飛ばして行ったのに我に返った。突き飛ばされたからではない、それは三人が狭い通路に広がっていたからで、仕方のないことだ。
問題はその少年が口にして笑っていた――「終にポッターは退学だな」という台詞に反応したのである。
「私、ちょっと行くわ! 後で会いましょう」
自分を付き飛ばして行こうとした少年と口論を始めたフレッドの手を振り払い、ダリルは通路を掛け出した。フレッドを冷やかしていたジョージが慌てて声を掛ける。「何処に行くんだ? 俺達のコンパートメントは十号車にあるから、きちんと来いよ!」
ダリルのトランクを掲げて言うジョージへ「分かった、ごめんなさい」とだけ告げて、ダリルはハーマイオニーを探し始めた。
車両の間を区切る扉を一つ、二つ越えて、コンパートメントをひとつひとつ覗く内、灰色の優しげな瞳と視線がかち合った。彼の友達らしき三人の顔がちょっと強張る。そんなに酷いことをした記憶はなかったが、自分の友達を落とし穴にはめたのだから、良い印象は抱かれていないのだろうなとダリルは思った。コンパートメントの中にいたのは、前年の学期末に自分が初めて悪戯を仕掛けた相手だった。
ハッフルパフのシーカーで、学年首位の嫌な奴。しかもモテる。フレッドとジョージが言っていた彼に纏わる情報の中に名前はない。
「ダリルじゃないか」
――だから彼に自分の名前を知られていたことで、少し動揺してしまった。名前を聞いておくのだったと悔いる。
「あ、ええと」
ダリルはコンパートメントの入り口に手を掛けて、自分に声を掛けてきた青年へなんて返すべきか戸惑っていた。それの何が可笑しいのか、青年がクスクス笑いだす。ダリルはちょっと顔を赤くした。動揺が見え見えの返事をした自分が恥ずかしかった。
「蛙の卵ヌガーだらけだった人? それとも学年主席の癖に落とし穴なんて古典的な罠にはまった間抜け?」
案の定彼はダリルが自分の名前を知らないと勘付いてしまったらしい。からかいの言葉にダリルはそっぽを向いて見せた。
「貴方がそんな風に呼ばれて平気でしたら、蛙の卵ヌガーでハンサムを台無しにされた人さんとお呼びしますわ」
口を尖らせながら言うダリルにまたも青年が笑う。
「それはちょっと嫌だな――セドリック、セドリック・ディゴリーだよ」セドリックがダリルに手を差し出した。
「よろしく、セドリック」
ダリルはにっこり笑って、セドリックの手を握り返した。クィディッチの選手をやっているだけあって、手がガッシリしている。
握手が終わるとセドリックが自分のズボンのポケットを探り出した。
「あ、それでさ。これ」
薄灰の女物のハンカチをダリルに見せる。ダリルのハンカチだ。そういえば、彼を落とし穴に嵌めた時渡したかもしれない。
「返してくれなくても大丈夫だったのに」ダリルはもごもごと呟いた。落とし穴に嵌めただけでも申し訳ないのに、名前も知らないで、しかもハンカチまで返して貰っては、こちらの立つ瀬がないというものだ。なんて親切な人なのだろうとダリルは思った。
「ハンカチは幾つあっても困るものじゃないよ。それに僕がレースのハンカチを持っていても、変じゃないか」
ダリルはハンカチを受け取った。セドリックにそこまで言わせておいて、嫌だと受け取らないのであれば、セドリックのほうが悪い事になってしまう。ダリルの知りうる限りディゴリーという家名は魔法界の名家の内にないはずだったが、否だからこそなのかも知れない――セドリックはダリルが知る誰よりも紳士的で、人に気を遣わせないよう苦心しているように見えた。
「そうね。じゃあ、また貴方があの人達のターゲットにされた時のために取っておくわ」
「あの二人がやんちゃをやらかす度にそんなことしてれば、ハンカチが足りなくなる。そうだ、今度は僕がハンカチを貸そうか?」
セドリックが大真面目な顔をして言うので、ダリルは声を立てて笑った。
「誰にでもじゃないわ。セドリックみたいにカッコイイ人にだけよ」
「ハンサムは得だよ。僕が穴の中でへたばってても、誰もハンカチなんてくれないものな」
セドリックの前にいた青年が二人の会話に交じった。この四人のなかで話の盛り上げ役らしく、彼がウンザリしたような顔をしてみせると、あとの二人も笑った。ダリルは自分が嫌われていないらしき様子にホッとした。悪戯って傍から見れば面白いけど、ターゲットとその友達からすれば面白いものじゃないのね。しかし、何はともあれかつての被害者であるセドリックと良好な関係を築くことが出来そうだ。
「でも私の考えによればね、フレッドとジョージはセドリックがハンサムだから苛めたくなるんだわ」
「酷いな。それじゃ、二人の歯牙にもひっかけられない連中は全員ブサイクってことになる」セドリックの隣に座っていた青年が笑った。
「そんなことないわ」ダリルはマクゴナガル教授のように、断固とした口調で否定する。
そうしてからダリルはコンパートメント内に座っている、セドリックの友人三人をぐるりと見渡した。
「自信持っていいわ。私の見たところ、あの二人と大差ないもの。あの二人がハンサムか如何かの判定は貴方達にお任せするけど」
セドリックも、その友達も十分に良い話し相手になってくれそうだった。セドリックはジョークこそあまり言わないものの、人のからかいを大真面目に受け取ることが多くて、彼の友人との掛け合いは、全く、一度は聞いておく価値があるというものだ。
ダリルは彼らに誘われるがままにコンパートメント内にはいり、お喋りに夢中になりかけた。
「なあハリーが今列車に乗ってないの、何でか知ってる?」
――なりかけたが、背後から聞こえてきた会話にダリルは自分が何を探していたのか思い出す。ハリーだ! 噂が本当か確かめなければならないと慌てる。まさか背後をハーマイオニーが通って行くわけもないだろうが、ダリルは急いた気持ちになった。
「如何したんだい」セドリックの問いかけにダリルは口を開く。
「セドリック、ハーマイオニーを見なかった? その……いつもハリーと一緒にいる髪がふわふわした女の子よ」手で“ふわふわ”とハーマイオニーの髪形を真似て見せる。
「ああ。彼女だったら二両先のコンパートメントで、一人で座ってたと思うよ」
知っていないだろうと半ば諦めての質問だったが、セドリックはダリルの問いにきちんと答えてくれた。ダリルはぱっと顔を明るくする。
「有り難う!! じゃあまた話しましょうね、他の三人の名前もその時に教えて頂戴」
言うが早いか駆けるが早いか、「そんなに駆けると危ないよ」というセドリックの警告を背にダリルは再び移動を始める。
セドリックからの手がかりがあるので、コンパートメントを一つずつ確かめずに済み、あっという間に二両先の十一号車に辿りついた。
「あのっハリーがロンとクルマで飛んでて、退学って言うけど、ダンブルドア校長はそんな――そんな」
コンパートメントの四角い入り口から覗くふわふわの栗毛目掛けて飛び込んだダリルは、ぎょっとしたように自分を振り向く茶の瞳に、自分がどんなに愚かしい事をしたか悟った。ハーマイオニーはまだハリーとロンの騒ぎを聞きつけていないようだった。
「貴女、ダリル・マルフォイ?」
マルフォイという名字をハーマイオニーが口にしたことで、ダリルは真っ赤になった。そうだ。好きなのは自分だけで、ハーマイオニーは自分のことを嫌っていたはずだ。ダリルはこの夏季休暇中にすっかり忘れていた現実を思い出した。
ハーマイオニーは抱えて読んでいた本を膝の上に置き、何を言うでもなくダリルをじっと見ている。出ていけということだろう。
ダリルは澄ました顔を作り、踵を返す。
「ごめんなさい、人間違いをしてしまったみたい」
背中に当たる視線が痛い。それもそうだ。書店でアーサー小父様とお父様が騒動を起こす前に、お父様は彼女の御両親を馬鹿にしたようだったし、それまでもドラコが幾度となく彼女をマグル生まれと馬鹿にしている。彼らを止められなかったのに、好きだなんて言うのは虫が良すぎるだろう。それに二人で話したのは、彼女にしてみれば一年ぶりなのだ。「読書の邪魔をしてしまって申し訳なかったわ」
一歩遠ざかる。刹那、ハーマイオニーが口を開いた。
「ミス・レター、胸のボタンが外れていてよ。下着が見えているわ」
「えっ」ダリルは咄嗟に胸元のボタンを押さえてしまう。しかし確かめてみれば、きちんと留まっていて、その下の鍵も見えていなかった。
「やっぱり貴女がハリーの文通相手だったのね」
振り向くとハーマイオニーが呆れたとでも言いたげな顔でダリルを見ていた。まさか、こんな子供騙しに引っかかるとは思わなかったのだろう。自分でもこんなバカな手でバレるとは思っていなかった。机の上に手紙を出しっぱなしにしておいてバレた件と言い、自分はどれほど間抜けなのだろう。ダリルは一瞬眉を顰めたが、ハーマイオニーの視線を意識すると無理に微笑んで見せた。
「ハリーの文通相手もそういうあだ名をつけられているのね。凄く偶然だわ。でも私はハリーへ手紙を送ったことはないのよ」
「私にくれたノートと、ハリーに宛てられたミス・レターからの手紙の筆跡は同じだわ」
ダリルはこの場から逃げ出したい衝動に駆られる。根拠のない自分の言い訳と、証拠に裏付けられたハーマイオニーの追いうちとでは分が違いすぎる。ダリルの頭がパンクしそうになる。そもそも最初はハリーの飛び様があんまりに素敵だったから、それを、自分が言ったら受け容れて貰えないと思ったから――こんなに長く続ける気はなかったし、必要以上に関わる気もなかった。
何故こんなことになってしまったのだろう。ダリルは泣きたくなった。しかしハーマイオニーがハリーへ「ミス・レターはダリル・マルフォイだったわ」などと言わないよう、彼女にそうではないと思わせなくてはならないだろう。誰にバレても、ハリーには知られたくない。
「ハロウィンの日のこと? あの日なら、私は医務室に行っていて授業を受けていないの。親切な人もいたものね」ダリルは肩を竦めた。
「どうしてハロウィンの日だなんて分かったのかしら」ハーマイオニーの茶の瞳が活き活きと輝きだす。
「貴女が授業を休むなんて滅多にないことだわ」
他人ごとであったなら、ハーマイオニーの機転の良さや、賢さ等へ純粋な賛辞を送れただろう。しかし自分が彼女の討論の相手であれば、それどころではないどころか、その賢さが疎ましくすらあった。
ダリルが混乱しているのはハーマイオニーの目にも明らかだった。それでハーマイオニーは余裕たっぷりに指を付きつける。
「貴女の言い訳には少なくとも一つの矛盾点があるわ。貴女が授業に出ていないのだとすれば、私が出ていなかったことをどうやって知ったのかしら?」
「それは、人から聞いたのよ。それに授業に出ていない人がどうして貴女に授業概要を書いたノートを渡せると言うの」
「貴女のノート、とっても親切だったわ」
ハーマイオニーはダリルから貰ったノートを思い出して、しみじみ口にした。
「黒板に書いてないことや、そもそも言ってさえいないことまで書いてあったもの。おかげで私期末試験の頃にはすっかり覚えちゃったわ」
「……あの量を、全部? あれを書くのに羊皮紙を二巻きは使ったのよ」
道理で闇の魔法に対する防衛術のテストで百五十点などという途方もない点数を取れたわけだ。そのノートを取ったダリルは九十八点だったと言うのに、一体どんな回答をすれば百点満点のテストで百五十点も取れるのだろう。
ダリルが呆然と零せば、ハーマイオニーがクスリと笑った。
「嘘をつくのが下手ね」
その台詞は今日で二度目だ。ダリルは憮然とした表情でハーマイオニーの笑みを眺めていた。
過去はそんな自分を純粋なのだろうと、誉められていた気になったものだが、秘密が多くなった今となっては疎ましい短所だ。今のダリルにとって純粋さは愚かに繋がり、無垢は無知と同一だった。愚かで無知な自分を憂い、ダリルは深いため息を吐いた。
「私、行くわね。……ミス・レターのことは黙っていてくれると嬉しいわ」
最早ダリルに出来ることは懇願しかなかった。
スカートを翻して去ろうとすると、何かがダリルのスカートの裾に引っかかっているのに気付いた。入り口の金具にでも引っかかったのだろうと振り向くと、その先でハーマイオニーが顔を赤くして、ダリルのスカートを掴んでいた。
「お、可笑しいわね……去年、丁度一年前にコンパートメントを訪ねたのが私で、引きとめたのは貴女だったわ……」
人の笑いを誘う語り口だったが、ハーマイオニーは全く可笑しそうではなかった。ダリルもそうだ。笑えはしない。
ちょっとの沈黙が広がった。それは気まずさを感じさせるものではなく、思考を整理しなければならないと思う二人に必要なものだった。
互いに会話だけはまるでしてこなかったものの、相手に対するものは多く持っていて、それが一年前の初対面の時に抱いていたものと百八十度変わってしまったから、何から言うべきか戸惑っているのだ。
先に口を開いたのはハーマイオニーだった。
「去年、私とっても感じの悪い子だったわ……」
恐らく一年前の今日に、名乗ることもなくダリルのコンパートメントへ押し入った時のことを思い出しているのだろう。
「そんなことないわ!!」
ダリルは慌てて否定した。「如何して貴女が謝るの、貴女は何もしなかったわ。親切にネビルの手伝いをしていただけで」首元に巻きついていたレディがシュルルと舌を躍らせた。「その、機嫌が――悪かったのね。私が子供っぽかったのよ」
既に何が理由で彼女へ辛く当ったか覚えていなかったが、レディの存在で思い出した。ルシウスから渡されたペットが気に食わなくて、自分だって好きで連れてきたわけじゃないのにと、ハーマイオニーが知るはずのないことで憤っていたのである。
思い出した事実のおかげでダリルの頬が再び朱に染まった。
「酷いことを言ったのは私のほうだもの。高圧的な態度を取って、貴女を怒らせようとしたわ。それに貴女が私を嫌だって思って当然なのよ。私はその、貴女たちの嫌いなドラコの妹なのだし、私はドラコが嫌いじゃないわ。この間だってお父様が、」
「私のことを好きって言ってくれたわ」
ハーマイオニーがダリルの台詞を遮った。その顔も赤い。ダリルは目を見開いたが、やがて先よりも一層顔を赤くした。
『私にくれたノートと、ハリーに宛てられたミス・レターからの手紙の筆跡は同じだわ』
つまりダリルがミス・レターと知れれば、ハロウィンの日にトイレで話しかけたのが誰かも分かってしまうわけだ。ダリルは自分がストーカーまがいのことをしていたと自覚し、心から恥じた。しかも魔法の使えない自分が、学年一の才女である彼女へ偉そうなことを言ってしまった。ダリルはハーマイオニーの台詞を聞いて、今すぐ目の前の窓から飛び降りてしまいたい気分になった。
ハーマイオニーは話すうちに段々落ち着いてきたのか、頬の赤みはもう殆どない。
「貴女のお父様や、マルフォイが私を嫌ってるのは知ってるわ。私も勿論嫌い。大好きなママやパパをバカにするもの」
ダリルは彼女へ謝ろうとしたが、ハーマイオニーはそれを断わるかのように、大急ぎで続きを口にした。「でも貴女は、私のこと、好きって……好きって言ってくれたじゃない」
ハーマイオニーはダリルのスカートから手を離したが、ダリルは彼女から逃げたり、増してや目の前の窓から飛び降りもしなかった。真摯な瞳で自分を見上げるハーマイオニーのことを、じっと見返していた。十秒以上はそうしていただろうか。不意にハーマイオニーが視線を外した。トントンと指で膝の上にある本の表紙を叩き、二度三度口を開け閉めして、四度目に音が紡がれる。
「マグル生まれで、意地っ張りで、悪夢みたいな私でも貴女の友達になることは出来るかしら」
ダリルはこの気持ちを何て言えば良いのか――ハーマイオニーの言葉へ何と応えれば自分の気持ちが伝わるのだろうかと思った。
その台詞を聞いた瞬間だけはヴォルデモートへの恐怖も、自分の身の置き所への不安も、何もかも失せていた。フェリックス・フェリシスを飲んだ時の倍は幸福だと思った。闇も光もなく、ダリルはこの優秀な魔女に友として求められたことだけを感じていた。
「貴女は素晴らしい魔女だわ……」
ブルーグレイの瞳からぽろぽろと涙が零れた。
「凛としてて、はっきりしていて、賢くて、それでハリーとロンと仲良くなってからは凄くチャーミングになったわ」
真っ直ぐな誉め言葉に、ハーマイオニーが頬をぽっと染めた。
「貴女みたいになりたいってずっと思ってた――私の方こそ、ずっと、貴女と友達になれたらって、思っていたのよ……」
ハーマイオニーが本を傍らに下ろして、立ちあがった。ポケットのなかからハンカチを取り出して、ダリルの涙を拭う。そうしてぎゅっとダリルの手を握って、笑った。「貴女ってどんな風にしていても綺麗だけど、私は笑っているほうがずっと可愛いと思うわ」
「それに私たち、友達だって言うのなら、もう少し一緒にお喋りする必要があると思わない?」ハーマイオニーが真剣にそう言うので、セドリックのことも思い出したりなんかして、ダリルはくすと微笑んでしまった。
ダリルの笑みを見たハーマイオニーがにっこり笑う。
自分の笑みなんかよりも、ハーマイオニーの活き活きした笑みのほうがずっと可愛くて、魅力的だ。ダリルはつくづくそう思った。
自分の前に座れと椅子を指すハーマイオニーに従って腰を下ろしながら、ダリルは思い出した最重要事項をもう一度口にする。
「ハリーには私のことを言わないでね」ハーマイオニーのきょとりとした顔に念を押す必要があるとダリルは感じた。「絶対に、お願いよ」
「何故? ハリーだって喜ぶはずよ。貴女のこと、悪い子じゃないってこの間言っていたもの」
ハーマイオニーの台詞にダリルは顔を真っ赤にした。それを見て、ハーマイオニーが合点が言ったというような顔をする。
「貴女、ハリーのことが好きなのね」
「異性としてではないわ」
ダリルは大急ぎで否定したが、そうする必要はなかった。何故なら二人がいるコンパートメントの横を二人の少年が駆けていて、何よりもハーマイオニーはもう本を読んでいなかったから……ダリルへの尋問は読書よりも集中して行えることではないらしい。
「ハリー・ポッターが列車に乗らないで、車でホグワーツに向かっているんだってさ!」
そう耳にした瞬間のハーマイオニーの顔を、ダリルは一生忘れないだろうと思った。
七年語り – CHAMBER OF SECRETS