七年語り – CHAMBER OF SECRETS
19 ピノキオのみた夢
アンジェリーナは「如何して私、ダリルと同い年じゃないんだろう」と散々ため息をついたし、ダリルも「如何して皆と二学年も離れているんだろう」とつくづく心細く思ったが、授業がある日は勿論五人と別れ、一人で行動しなくてはならない。
土曜日曜ですっかり広まった噂が落ち着くまでにはまだ時間が必要だろうし、特にスリザリンとの合同授業のことを考えると憂鬱だった。なんでわざわざ仲の悪いこの二つの寮を、一緒の部屋に押し込むのか。
色々なことを考えては不安になったが、結局一人で行動せずに済んだ。
ハーマイオニーは「ずっと前から私、きちんと私の話を聞いてくれる相手と一緒に授業を受けたかったの」とダリルの手を掴んでくれたし、ロンは「口やかましさんがそう思ってたなんて知らなかったね。これで僕ももっと自由に授業を受けれるってわけだ!」と舌を突き出し、ハリーは「これでちょっとでもロンとハーマイオニーが静かにしててくれるんなら結構だね」と肩を竦めた。
何だかんだ言って、ハーマイオニーはロンに何かを教えるのが好きなのだとダリルは知っている。勿論ロンだって、ハーマイオニーに色々口出しされるのを疎むどころか、口に出さないだけで有難いと思っていることも分かっている。何よりも三人は、自分などを仲間にしないでいたほうがずっと気が楽で、楽しいこともダリルはきちんと分かっていた。
多分今までのダリルだったら三人に気を使わせるのが嫌で、その有難い申し出も断わっていただろう。シェーマスやセドリックが言ってくれたように自分が変わったからか、それとも単にそんな余裕がないだけなのか――ダリルは何にも気づかないふりをして、ハーマイオニーの腕を取った。去年の今頃は一人で、遠くから見ているだけだった三人と今一緒にいるのが不思議なようにも思えた。
三人のおかげでダリルは皆から如何思われているか気にせず授業に集中することが出来た。それにハーマイオニーが隣でああだこうだ教えてくれるというのは有難く、いつも以上に勉強が捗った。ハーマイオニーは週末の間にすっかり“魔力のないスクイブ・マグルにとっての呪文・魔法観”というのを理解し、ダリルの素晴らしい家庭教師となってくれた。自分の勉強量の加減もせず、ダリルに出された課題の手伝いをするハーマイオニーは全く超人と言って良いだろう。「君のほうに行ってくれて良かったよ」そう言ったのはロンだ。
ロンは自分のブラブラと折れかかっている杖を弄びながら、ダリルに言った。「君がいなけりゃ、僕のニックから首を千切ってバラす勢いだった」神妙な顔で告げられた台詞に、ダリルは笑うべきか同情するべきか悩んだ。ロンのニック――ではなく、杖はもうちょっとで使い物にならなくなるだろうが、それでも花火ぐらいの役には立つ。ハーマイオニーは「ちょっと弄ったらまた魔法が使えるようになるかも」と、いつもの知的好奇心を爆発させて、杖について調べまくっていたらしい。「杖の前は、僕の発音についてさ」ロンは仏頂面で愚痴った。
案外ロンは本気で、もっと自由に授業を受けたいと思っていたのかもしれない。
ダリルが今までどうやって魔法を勉強してきたか語ると、ハーマイオニーは感激したように「面白いわ!」とはしゃいだ。「貴女から借りた論文を書いた人って、多分魔法を使えると思うのよね、絶対に……スクイブから話は聞いたんでしょうけど、駄目ね。それに、スクイブって殆ど魔法教育を受けないで、マグルに溶け込むようにするんでしょう? それだとやっぱり魔法について知りたいと思わないでしょうし、それって凄い損害だわ。だって貴女みたいに、魔法を使ってみよう、勉強してみようっていう気概がなきゃ魔力と魔法の関係性って全然分からないと思うの。魔力のある人が魔法を使うのも、魔力のない人が魔法を使わないのも当然のことで、そうしたら比べることって出来ないじゃないね。比べられないと違いはわからないわ。勿論魔法を使えない人のための専門学校があるのは知ってるわよ。でも駄目! そのために作られた場所で勉強するんじゃ――勿論素晴らしいことだけど、何の発見も出来ないじゃない。組み合わせの問題よ。流れに逆らってみないことには……」そう熱っぽく語ると、ハーマイオニとトントンと机を叩いた。「研究に大事なのは異端であることだわ!」
別にダリルは研究のために異端になったわけではなく、異端だったので研究せざるをえなかっただけなのだが、ハーマイオニーはそんなこと如何でも良いと言ってのけた。彼女が好きなのは実のある問題らしく、鶏と卵のような抽象的問題には食指が動かないようだ。
輪のなかへ入ってみると、色々なことが見えてくる。
ハリーは二人へ優しいだけでなく、時々ヒヤっとするほど冷たいことを言った。ロンとハーマイオニーの仲裁役ばかりして大変なのだなとダリルはずっと思っていたが、ハリーに関して大変なのは二人のほうだった。ズンズン個人行動を取るハリーのことを常にロンとハーマイオニーが気遣っており、ハーマイオニーの心配症を悪化させたのはハリーかもしれないとダリルは思った。何しろフラっと消えては不意に戻ってきて、問いたださなければ消えた理由を言わない。たまに聞かれる前に言ったと思えば「マルフォイの奴と口げんかしてきた」とか「ちょっとロックハートの部屋の前にあるプレートからクジャクの羽根むしって来ちゃった」とか、ロンを喜ばせるような……つまりハーマイオニーをワナワナさせるようなことを仕出かす。ダリルはハーマイオニーが年度初めの宴会で言っていた「あの人ははちゃめちゃで、考え事の“か”の字も思いつかないような間抜けなんですからね」という台詞の意味をやっと理解した。
破天荒で、考えがないとまでは言わないが、思慮というものに欠けているのだ。
フレッドとジョージも勿論滅茶苦茶だけど、ハリーほどではないとダリルは思った。ハリーは一見大人しく見えるだけで、その実胸に熱いものを秘めており、頑固で、束縛を嫌い、他にとっては“勇気”のある行動を取るが、ハーマイオニー等彼を案ずる者にとって“無謀”な少年だった。ダリルはハーマイオニーに酷く同情し、なるたけ彼女の気分を落ち着かせるように努力した。
ロンはダリルの想像からあまりかけ離れてはいなかった。魔法族の家に生まれ育った少年の典型と言った感じであり、同じ魔法族の家に生まれ、フレッドとジョージと仲の良いダリルにとって付き合い易い少年だった。意外なのは悪戯をあまり好んでいないことで、「そりゃまあ面白いけど、僕まで二人みたいに滅茶苦茶してたらママが倒れちゃうよ」と肩を竦めた。
優しいというか、絆を重んじたり、情に厚いのだろうということは予想していた。しかし絆のためなら強い自制心で我を押さえることの出来る少年だとは知らなかった。今までダリルはロンのことを奔放なんだなあと思っていたが、それは単に明け透けな言動が多く、裏表がないからそう見えただけのようだ。ロンはぽろっとドラコの悪口を零してから、ダリルに「これからも多分、君の前であいつの悪口言っちゃうと思うけど」と忠告した。ダリルは人に何かを強いる気もないので、構わないし気にしない。そう告げるといつも通りドラコの悪口を言いだした。ハリーのほうは丸っきりダリルの許可を取らなかったのを顧みるに、やはりロンのほうが人の気持ちを汲むのに長けているのだろう。
一番イメージがガラッと変わったのはハーマイオニーだった。
ハーマイオニーは勿論ダリルが知っている通りの才女で、努力家だったものの、彼女は彼女で破天荒だった。好奇心が絡むとどんなことでも調べるし、彼女の好奇心を刺激するのは何も本の中のことだけではなかった。
賢く冷静で落ち着いた魔女――そう思っていたダリルはハーマイオニーが感情的なのに驚いたが、一番驚いたのはハリーとロンの破天荒へ全く動じず、それどころか時折乗っかることだ。この三人といると、ダリルは自分が如何に普通の感性をしているか理解出来た。
ドラコからは散々滅茶苦茶だとか、突飛なことを仕出かすと叱られたダリルでさえ三人と一緒にいると心臓が口から飛び出そうになる。
五人のところへ戻るとホッとした。やはり年上だからだろうか、勿論彼らだってグリフィンドール寮らしく突飛なことも仕出かすが、ハリー達ほどのことはしない。落ち着いているし、加減を知っている。
「ロニー坊やは、うちんなかじゃ結構ハチャメチャだろ」
授業が終わって、草臥れた様子で五人と合流したダリルにフレッドがそう言ってにやりと笑った。
つまりそういうことだとダリルは思った。つまり――あの三人は皆グリフィンドール寮のなかでも飛びぬけてハチャメチャなのだ。
あの三人と一緒にいると必ず最後にはくたくたになるが、代わりに周囲の噂は全く耳に入ってこなくなった。
仰天したり、狼狽したりするのに忙しくてそんなこと聞いていられない。
二週間が過ぎ、ようやっとダリルが三人の破天荒に慣れた頃、ダリルがスクイブだという噂も落ち着いてきた。からかってもダリルは反応しなかったし、段々「本当にスクイブだったらホグワーツには入れないだろうな」という考えのほうが広まってきたのである。
勿論まだスリザリン寮生は騒がしかったが、その騒がしさも他の寮生を落ち着かせた理由の一つだった。とことん皆スリザリンが嫌いなのだなあとダリルはしみじみ思った。スリザリン寮生のおかげで、事態は思ったより早く収束へ向かっていた。
まあ、スリザリン寮生達が騒ぐのが、一番の問題でもあるのだけれど。
ただでさえ最悪なスリザリン寮生との合同授業で一番最悪なのは魔法薬学だ。スリザリン寮生がひっつけ魔法を掛けたヒキガエルの死体をダリルの頭にぶつけたのをハーマイオニーが抗議しても、スネイプは「気のせいであろう」とまともに取り合わなかった。
そればかりか「そうやってヒキガエルをのっけていると魔力があるように見えますな。それにのっぺりした顔に上手くメリハリが出来たんじゃないかね」というユーモアまで披露してくれた。そして「授業に無関係なものを持ってきたことで、グリフィンドールから五点減点」、スネイプはダリルがヒキガエルの死体を自分の頭の上に乗せたがっていると思ったらしい。ある意味授業に関係あるとハーマイオニーは見当違いな反論をしたがったが、ロンとハリーとダリルは諦めて、ハーマイオニーの怒りを静めるよう努めた。
「中世とかだったら流行ったかもしれないわ」
ダリルが自分の額にちょっと垂れてるヒキガエルの足を見ながらぼやくと、ようやっとハーマイオニーが笑ってくれた。
元々ダリルは魔法薬学が苦手なので、スネイプは水を得た魚のようにダリルから減点しまくった。あんまりに滅茶苦茶な理由で叱り、減点することさえあったので、ハリーが同情するぐらいだった。ダリルが一日中ヒキガエルを頭に乗っけて過ごした日以来、それまでは「どんなに嫌な奴でも教師だし、ハリーを守ってくれたじゃない」と三人がスネイプの悪口で盛り上がるのをたしなめていたハーマイオニーが、ダリルがぎょっとするぐらい厳しい言葉でスネイプを批難するようになった。
「だって貴女に唯一絶対誰にも負けない長所があるとしたら顔だけなのよ!! それを笑い物にして、酷いわ!!」
ダリルがたしなめると、ハーマイオニーは憤慨したように叫んだ。ハリーとロンがその台詞を聞いてバンバン壁を叩きながら大笑いしていた。本当に自分が凄く美人なら、もうちょっと同情とか、そういうものをしてもらえるのではなかろうか。ダリルはハリーとロンの足を踏みながら、激昂するハーマイオニーを宥めた。「あの……そりゃ勿論、誉めてもらったのか分からないけど、だけど別にそこまで、ねえ?」
一応前年度は学年五位だったし、馬鹿というわけではないだろう。そういう気持ちでもってハーマイオニーの意見に逆らいたがったが、ロンとハリーはハーマイオニーの意見に同調した。「君を見てると、顔で得してきたことが沢山あるんだろうなって思う。だって君って気まぐれで強引で変わってるし我儘なんだもん」そう言ってロンが笑った。ロンはダリルの許しを得るために「その悪癖をカバー出来るぐらい綺麗なんだから良いじゃないか」と三十分かけて説得しなくてはならなかったし、ダリルはその日から美容に関する本を読むようになった。
「私の取り柄って顔だけなのかしら」
ダリルがフレッド達五人にも聞いてみると、概ね同意した。フレッドとジョージとリーは首を縦に振りすぎて首の筋を痛めたほどだ。大広間へ向かう途中でセドリックに遭遇してので、同じ質問をしてみると笑いすぎでまともな返事をくれなかった。その後彼の友達から貰った手紙によるとセドリックはそれから十五分は笑っていたとのことで、ダリルはセドリックに絶縁の手紙を送った。ついでにドラコにも同じことを問うた手紙を送ると、即座に「今頃気づいたのか」という返事がきたので、これにも絶縁の手紙を返した。
本当に性格ブスだったら誰も仲良くしてくれまいとは分かっていたが、ダリルは性格美人になるおまじないという本も読み始めた。そんなダリルを見てフレッドとジョージとリーはからかい、アンジェリーナは真剣に心配した。「良いんだよ! ダリルは我儘で気まぐれで強引で訳がわからなくて優柔不断でドジで衝動的に動いて人の気持ちを汲もうとしないぐらいが可愛いんだから!!!」
追加されてる。ダリルは思った。アンジェリーナ、悪癖が追加されているわ。
アンジェリーナの台詞に膨れながら、ダリルはスクイブだなんてバラさなければ良かったかもしれないと思った。
ダリルのことをレディー扱いしてくれるのはスリザリン寮の男子学生だけだった。勿論今はスクイブ扱いされているわけなのだが。
「良いじゃないか」そう言うのはリーだ。「この間、レイブンクローの友達がダリルのこと可愛いって言ってたぜ」その言葉にアリシアが頷く。「そうそう、皆言うじゃない。お人形さんみたいに可愛い! 一体貴女、どうやって仲良くなったの? 私も仲良くなりたいわ!!」
アリシアの言葉にダリルがぱっと顔を明るくした。
「そう言われてたけど、貴女のことを色々教えたら、やっぱり遠くから見てるだけで良いって言われたわ」
「あー。俺も、この間ダリルがフレッドからとび蹴りの仕方を教わってる最中に階段から落ちた話をしたら同じ事言われたな」
「ああ、良かった!」ダリルは涙目でアリシアとリーを睨んだ。「人の恥部を撒き散らしてくれる友達がいて、私ってホント幸せだわ!!」
スクイブと知ったら皆腫れもの扱いをするのではないかとダリルは思っていたが、そんなことはなかった。
六人の仲は一層深まった気がするし、ハリー達ともグっと仲良くなったものの、ダリルはすっかりおちょくられ役となっていた。ハッフルパフ寮生やレイブンクロー寮生も、最早ダリルのことをスクイブだとは噂していない。今は外を歩いてると「ああ、この間自分の掘った落とし穴に落ちた子か」とか「やっぱり外見が可愛くて、性格も凄く良いってないのね」とか好き勝手言ってくれる。
「魔法が使えるようになったら、真っ先に舌結びの魔法を使えるようにするわ」
ダリルは友人達全員にそう宣言した。
しかし相変わらずマクゴナガル教授からは「準備が整ってから面談したいそうです」と返されるだけで、物事は全く進んでいない。
友達は増えたものの、魔力は全く戻らないまま暦は十月になった。
七年語り – CHAMBER OF SECRETS