七年語りCHAMBER OF SECRETS
02 傷口を繋ぐ糸

 

 ダリルへ
 元気にしてる? 僕らはいつも通りさ。ママは全く元気じゃないみたいだけど、僕らがいる限り倒れたりはしないね。残念。
 そりゃ僕らだってママに倒れてほしいわけじゃないけどさ、でもあの計画をするにはちょっとばかり休んでてもらったほうが良いよな?
 君の大嫌いなハリーを迎えに行くってのに、ママを後ろにぶら下げてたら、連れてこれるものも連れて来れなくなっちまう。ダリルの言うとおり、大人同士で話がつくのを待ってたら夏休みが終わっちゃいそうだよ。パパったら、ハリーの話をしてたはずなのに、いつの間にかエレクトロフォンとかいうマグルの道具について夢中になってる。ママはママで、そんなパパに腹を立てるのに夢中さ。何せ僕らとロンとジニーが廊下で話を聞いてるのにも気づかないぐらいなんだから、困るよな。まあ気づいてたらウィーズリー家は五人家族になってただろうよ。
 そうそう、うちにもハリーが大嫌いな奴が一人いるんだ。きっとダリルと気が合うんじゃないかな。末娘で我儘なとこも君そっくりさ。名前はジニーって言うんだ。ジニーにも君のこと話したけど、ホグワーツに行けたらよろしくって。あいつまだ自分がホグワーツから手紙が届いたって気づかないんだよ。部屋の机の上に置いても、顔の前で広げても「あたしホグワーツにいけるかしら」だ。凄いだろ?
 でも僕たちが立てた計画のことはすぐ嗅ぎ付けてきちゃうんだよね。ほんと目ざとい奴。一緒に迎えに行きたいって大騒ぎさ! ハリーをぶら下げてくるだけでも怒られるだろうに、ジニーをその隣にぶら下げて飛んでみろ。僕ら九月からあの世に通う事になるだろうね。

 さあ、一週間後だ! それまでママとパパがあの調子なら、僕らでハリーを迎えに行く……ダリルを連れにいけないのは残念だね。
 本当に良いのかい? 僕らんちじゃ君がマルフォイの家の子だなんて、一年ちょっと気にするだけさ。ハリーと一緒に泊まりに来ればいいのに。君が面白がりそうなものが沢山あるんだぜ。それにフォードアングリアの席はあと一つ残ってるし。
 実に残念だ。屋根の上の特等席に君を座らせたかったよ。

 友情をこめて、フレッドとジョージ。この汚い文字はジョージ。←嘘、僕だったらもうちょっと優雅なGを書くね。

 フレッドとジョージへ
 如何やったら優雅にGを書けるのかしら。とりあえず文字が汚くても綺麗でも、この手紙を書いているのはダリルです。
 とりあえず手短に返信しておきます。いつ貴方達に手紙送れなくなるか分からないし、お父様はまだ私をホグワーツへ戻す気にならないようなので、屋根の上に私を固定するための方法を探すのに毎日忙しいのよ……。
 貴方達がレディの扱い方を心得ていないらしいのは実に残念です。アンジェリーナとアリシアがいたら、きっと貴方達を屋根に縛り付けて、私が席に座れるようにしてくれたでしょう。全く持って嘆かわしいわ。
 私にこんな仕打ちをするんですもの、どうせ貴方達は可愛い妹、ジニーのことも箒の先にぶら下げて飛ぶのでしょうね。

 友情をこめて、ダリル。

 ps.貴方達がダリルという名前のスペルを知らないのか、それとも文字を崩しすぎているだけなのか私には分かりかねます。

 ダリルは手紙を書き終えると、洋箪笥のほうへ向かう。手に持っている封筒を洋箪笥のなかにある引出しのなかへ入れた。
「ここなら絶対お父様も、誰も見ないでしょうよ……」
 引出しのなかには靴下や下着等の細かな物が入っており、ルシウスもナルシッサもまず触れない。また衣類であるからして、屋敷僕妖精達も自発的に弄ることは出来なかった。キィーリレルがどんなにダリルへ馴れ馴れしくしたとしても、これで手紙の差出人が誰かルシウスへ告げ口することも出来ないだろう。ダリルは引出しをしめて深いため息をついた。

 ルシウスの怒りはまだ解けていない。

 結局ルシウスはダリルが寝込んでる間一度も見舞いには来なかった。病気が治ってから二日も仮病で寝込んでみたものの、これ以上病気を装ってみてもルシウスの怒りは解けないと気づいたダリルは普段通り暮らすことにした。
 普段通り……つまりはまたルシウスの目を掻い潜って「血を裏切る者共」と文通しだしたのである。ダリルだって馬鹿じゃない。あんな形でバレるというのは心外であったが、保険も掛けずに行動していたわけじゃなかった。ルシウスの気分を害するだろうことをまた始めるのは気が進まないけれど、一週間も大人しくしてたのだから反省としては十分だろうとダリルは思った。ルシウスだって怒ってるかもしれないが、ダリルだって怒っている。何の因果で「絶対ハリーとは仲良くしません」とまで約束させらねばならなかったのだろう。
 マグルの家で暮らしているとはいえハリーの両親は魔法使いだし、素行や成績が悪いわけでもない。
 ハリーは友達として――ペンパルとしても――百点満点だ。彼と仲良くするのに何の不満があると言うのだろう。ダリルはルシウスに不満の理由を問うたが、結局明確な答えは返ってこなかった。兎に角ダメだと押し付けるばかりである。ダリルはカチンときた。きちんとした理由があるのなら反抗などしないものを、そうやって押しつけるだけだから心から従えないのだ。

 彼が例のあの人を倒したから――だから気に食わないのでしょう。お父様はあの人の配下でしたものね。

 そう言ってやりたいのは山々だったが、ダリルは無駄な口答えを避け、ルシウスの望む返事だけを口にし続けた。
 ルシウスの本音を指摘しても何も変わらないとか、ルシウスの怒りを買うだけだという気持ちもあった。しかし一番は口に出すことでルシウスの口から肯定の言葉を聞きたくなかったからだ。死喰い人だった、ヴォルデモートに仕えていたと聞きたくなかった。

 ルシウスは未だにダリルへヴォルデモートの話も、死喰い人だった過去についても語らない。ホグワーツに入るまでは真実を聞いても動じない自信があったが、今となってはそんなものはなくなっていた。愛する父親。かの人の口から死喰い人だったと――ヴォルデモートの手足となって働いていたなどと打ち明けられたら、触れられる事を拒んでしまいそうな気すらした。

 クィレルが死ぬ理由を作ったヴォルデモート。
 己の命を永らえさせるために賢者の石を狙い、ユニコーンの魔力を喰らい、ダリルに服従の呪文を掛け、ハリーを殺そうとした。

 ダリルは闇の魔術が――ヴォルデモートが如何いうものか身をもって知ってしまった。
 人の心を塗りつぶし、人と人の間に不和を生み出す術を知る悪魔だ。ダリルはクィレルの本心が何処にあったのか未だに知らない。だからホグワーツでヴォルデモートがしたことはクィレルの罪となってしまった。クィレルが賢者の石を狙ったのだと言う事にしておくのが一番最良なのだと、ヴォルデモートという名前がどれ程魔法界を揺らすか知っているダンブルドアは知恵者として少数よりも多くを選んだ。
 いつか罪が晴れる時がくる。クィレルはただヴォルデモートに利用されただけの被害者なのだと知れる時が来る。
 ダンブルドアはそう宥めてくれたが、ダリルは心から納得することは出来なかった。クィレルに冤罪を被せるぐらいなら、自分が賢者の石を狙った事にしてくれたらとさえ思った。あの日自分がクィレルの部屋に行かなければ、クィレルは行動を起こさなかっただろう。起こしたとしても自分に服従の呪文をはねつける強い意志があれば、ハリーはクィレルに殺され掛けることもなかった。ひょっとしてダンブルドアがもっと早く辿りついていたら、クィレルは今も生きていたのかもしれない。
 ダリルだってクィレルと一緒だ。ヴォルデモートに見張られていなかった分クィレルより自由に動けたはずだ。なのに自分の無知からヴォルデモートがユニコーンを喰らうのを手伝い、ダンブルドアをホグワーツから遠ざけさせてしまった。
 ダンブルドアはダリルが悪いわけではないと言う。クィレルが無実なのと同じなのだと言う。
 それでもクィレルが悪者にされるのは辛い。尤も一番辛いのは自分もその一端を負ってしまったという事実だった。
 愚かさ故に手伝ってしまったのだから、それは意図的な悪意より悪いとダリルは思った。

 ルシウスもダリルをそうやって利用するのだろうか。
 ヴォルデモートが望めば、望んだ事のために自分も知らず知らず人を傷つける手伝いをさせられるのだろうか。
 それとも私が理解していないだけで、もうさせられているの?

 死喰い人であった過去なら許せる。受け容れられる。でも今もそうなのだと言われたらダリルはルシウスを受け入れられない。
 勿論ルシウスのことは愛している。幼いころからずっと自分の成長を見守っていてくれた人。愛していないはずがない。愛しているし、ルシウスが望んでいるなら何でもしてやりたいとも思っている。家族として、娘として抱く当たり前の愛情を感じている。

 ――だけど、人を傷つける手伝いはしたくない。
 どんなにルシウスがそれを望んでいても、誰かの幸せを犠牲にした幸福には浸ってほしくない。

 ダリルはホグワーツで一年、人から遠巻きにされる生活を送ってきた。
 ドラコがグリフィンドール寮生と仲が悪いからだとか、ルシウスがああした性格をしているからだとか、パンジー達が自分と一緒に居る時に他寮生達を笑うからだとか、自分が引っ込み思案だからだとか色々考えてきたダリルだが、クィレルの死で一つの事実に気付いた。
 まるで自分のことを死喰い人でも見るように生徒達。それは何故だろう。父がマグルを嫌うからなのだと気づいていてさえ、如何してダリルは自分の父親が死喰い人だったと、伯母が例のあの人の信奉者だったと……それが一番の理由だと考えつけないでいたのだろう。自分に注がれる視線は父に注がれるもの。伯母に注がれるもの。皆がダリルも同類だと思う事に何の不思議があるだろう。
 親族がヴォルデモートの配下だったから、人を傷つけたから、ダリルの同級生達の伯母や伯父や、それとも両親を殺したから……。
『なんで、なんで――如何して、如何して、なんで教授が死ななきゃいけなかったの!』
 同じことを誰もが思って来た。奪われてきた。そしてダリルがまた奪うのではないかと恐れていた。
 気付きたくない事実だった。

 今までダリルは皆と仲良くしたいと思って来た。
 そりゃ当然嫌いな人とか苦手な人だっているけれど、それだってただ自分と合わないだけで、違う誰かにとってはそうではないのだろうと思っていた。スリザリンとグリフィンドールは対立しているとは分かっていた。だからグリフィンドールの皆に受け入れられないけど、自分が害を為さねばいつか仲良くしてもらえると思っていた。実際友達は出来た。何もかも上手く行くと思っていた。

 ダリルは、フレッドたちだけでなく、ルシウスやドラコとも上手くやっていきたいのだ。なのにルシウスはグリフィンドール寮生達と仲良くするのをよく思わない。止めたがる。ドラコも怒りはしないものの、積極的に関わろうとはしない。
 ダリルだってもう十二歳だ。嫌いだというものを無理に押し付けるわけではない。二人が嫌いだと言うならそれで良い。
『それに私、ドラコと仲が悪いからって皆と仲良くしてもらっても嬉しくないわ』
『お前はそんなことだから友達が一人もいないんだ』
 それでも周囲の反応を見ていると、選ばなければならないのだろうかと感じる。
 スリザリンかグリフィンドール。家か友達どちらかを選んで、どちらかを切り捨てるのが正しい行いなのだろうか? 馬鹿らしいと、ダリルはそう思う。選ぶ必要はない。自分が好きでいるのを否定する権利は誰にもないのだ。フレッドとジョージだって、アンジェリーナだって、自分が家族を好いているのは知っているじゃないか。
 でも、でも――と心の奥がざわめく。

『――本当に生きているわけではないから、殺すことも出来ん』

 ヴォルデモートが戻ってきたら? ルシウスがヴォルデモートの側について、人を殺す手伝いをする。例えばアンジェリーナやジョージ、フレッドを殺そうとしたら? ヴォルデモートはハリーを殺そうとするだろう。ハーマイオニーだって……彼女はマグル生まれだ。
 グリフィンドールの友達を殺した父親と会って談笑することは出来ない。例え愛していても、それだけは無理だった。

 今もどこかを漂い続けているだろう悪夢を伴った霞。
 ダリルは目にしたことのない恐怖を思うと不安になる。それを思うと、前のようにルシウスへ従順に振舞うことは無理だった。
 そして父親の怒りが長引くにつれて、ダリルは何か心中にある不吉なものの存在感が増していくのを感じた。
 ジョージとフレッドからの手紙はダリルの不安を晴らしてくれる。

 九月からまたいつも通りの平和な日常が戻ってくるのだと、彼らの手紙を読んでいると心からそう思う事が出来た。
 ダリルは愛おしそうに引き出しを撫ぜてから洋箪笥の扉をパタンと閉める。
 そうして傍にある窓を覗きこんで人気がないのをよくよく確認すると口を開いた。父親は魔法省、母親は魔法洋裁店へ出かけている。
「ドビー」

「はい! ドビーでございます!!」
 ドビーが快活な返事と共にダリルの前に現れた。
 いつもドビーが現れると、ゆったりとした笑みで迎えてるダリルだが、今日はやれやれと言いたげな顔をしていた。
「如何しましたか? ドビーめはお嬢様が悲しそうにしていると、お寂しいのです……!」
「大丈夫よ。お前が悪いわけじゃないの。お前の顔を見たら……ふっと気が緩んで、キィーリレルのことを思い出してしまったのよ」
 ダリルの台詞にドビーがばつの悪そうな顔をしたが、ダリルは気付かなかった。
「あの子ったら魔法が下手な上に記憶力も悪くて――ドビー、如何したの?」
「ドビーは……ドビーはお嬢様に申し訳ないです」
 愚痴を止めてドビーのほうを見やればドビーはその大きな耳を力なく垂れさせ、すっかりしょぼくれていた。
「キィーリレルをここに連れてきたのはドビーです……」
 ドビーはこれ以上情けないことはないと言いたそうにぼやく。ダリルは目を丸くした。
 ここで生まれたわけでない以上は外からやってきたのだろうと思っていたが――否分かってはいたが、誰かキィーリレルを連れてきた者がいるなどとは考えていなかった。考えついていれば、犯人を探してやろうぐらいには思っただろう。
 ダリルはしょげているドビーを慰めるべきか、詰るべきか迷った。
「きっとお嬢様の気に入るとドビーはお考えになりました。お嬢様はドビーめにとってもお優しくていらっしゃいます……」
 ドビーの台詞にダリルは気まずいものを感じた。ダリルがドビーに優しくする一番の理由は彼が自分の役に立ってくれるからなのだ。今だってこうして、ダリルがグリフィンドールの友達と文通するのを手伝ってくれている。
 それに、本当にダリルが優しいと言うのなら、ルシウス達にドビーは役立たずではないと疾うに宣言していただろう。

「そう、ドビーだったの」
 もごもごとダリルが切れのない相槌を返した。
「もう何年も主人がいないと言っていて、ドビーはとても気の毒になりました。お嬢様と同じ、その……」ドビーがちらっとダリルを見やった。ダリルはドビーが何を言いたいか理解したので、コクリと頷く。ドビーが自分に罰を与え始めないようにと許可を出した。「魔法を使えない少女が主人で、まだ忘れられないとおいおい泣いていたのです……。それでドビーめはキィーリレルがお嬢様を気に入ると思われて、お嬢様はこんなドビーにもお優しくていらっしゃるから、キィーリレルのことも」ドビーが忙しく視線を動かし始めた。
「ドビー、私の前で自分にお仕置きをすることは許しません」
 ピタっとドビーの動きが止まった。それでも不安そうに耳をパタパタ動かしている。
「怒っていないわ。お前が私のことを思って連れてきてくれたのでしょう。それで何故お前を怒らなければならないのかしら?
 私が魔法を使えないのも、ドビーが私を優しいと思ってくれているのも本当のことですもの」
 ダリルはふーっと浅いため息をついた。

『その通りでございました。何しろキィーリレルと古いお嬢様は大大大親友でした!』
 実際キィーリレルは役立たずというだけに留まらず、人の仕事を増やしもしてくれたが、あれからダリルの上に馬乗りになったりはしていない。ハリーと文通をしているのを盛大に暴露してくれもしたし、それでルシウスを怒らせてしまったし――まだルシウスは怒ったままだが、このままキィーリレルを責めていても何も発展しないのは理解していた。
 自分がハリーからの手紙を出しっぱなしにしなければ良かっただけだ。ダリルはぎゅっと眉根を寄せると、それでキィーリレルを許すことにした。そうしてまだ悲しそうな顔をしているドビーのほうへ視線を合わせる。
「お前達が我が家に仕えていてくれる限り、私はお前達の良い主人でいたいと思うわ」
「お嬢様は悪い方ではありません……」
 ドビーがおずおず挟んだ言葉にダリルはにっこり微笑む。
「有り難う。――でもお前がキィーリレルを連れてきたのだから、私がキィーリレルと上手くいくよう手伝って頂戴ね」
「勿論でございます! ドビーは一生懸命お嬢様の手伝いを致します!」
 ぱっとドビーの顔が明るくなった。
 ダリルは懇意にしている屋敷僕妖精を悲しませずに済んだことへほっとした。
 そして話が落ち着いたところでドビーを呼び出した理由を思い出す。キィーリレルへの愚痴で大分話が逸れたが、嫌な気分はしなかった。
「それと、机の上の手紙をフレッドとジョージのところへお願いね」
 ダリルの言葉と共に手紙がふわふわと浮き、ドビーの手の中へと宙を飛んでくる。ドビーは手紙をぱしっと受け取った。
「分かりましたでございます!」
 来た時と同じようにハキハキ答えると、そのままぽんと姿を消してしまった。
 ドビーならヘマをしないと信頼しているので、ダリルもこれで確実に二人のところへ手紙が届くたろうと安堵する。
 今返信を出したばかりだと言うのに、もう二人からの手紙が待ち遠しかった。

『ダリルよ、ヴォルデモートが戻ってこないという確証はないのじゃ。
 故にきみは自分の価値を理解し、それを再び彼に利用されぬよう気をつけねばならない。人を救うものは同時に人を損ねるのじゃよ』
 ダリルにとってはダンブルドアの賢さも恐怖を覚える種類のものだった。
 彼がクィレルの名誉を損ねたということもあり、彼女はあの知恵者を信頼しかねていた。だからダンブルドアが自分へ向かって告げた台詞の一つたりとも理解してないし、しようともしておらず、この発言も同様だった。
 ただダリルはヴォルデモートの再来を予告されたことだけが恐ろしかった。

 手に入れたばかりの日常――グリフィンドール寮の友達とふざけ合う日々――が恋しくて堪らず、早く戻りたいと望んだ。
 死を知ったダリルにとって一人で考え込む時間が限りなくあるのは恐怖に繋がっている。
『甘やかに人を誘うが、開けることは出来ず、越えることも出来ない。
 人は気がついたらこちらからそちらを見ていて、そちら側にいる君はこちらに進もうとしている』
 そんな風に考えられるのは死者だけだとダリルは思った。
 叶わないと知っていても人は扉を開けたいと望むし、越えて大事な人をこちらへ連れ戻したいと思うだろう。死者が彼岸にいると理解するまでの時間をこちらにいる者は悲しみ続け、取り戻すために向こうへ進み続けるのだ。

『魔法を使えない少女が主人で、まだ忘れられないとおいおい泣いていたのです』
 役立たずの新しい屋敷僕妖精。馴れ馴れしくて厄介に手足をつけたような子。
 でも自分と同じ喪失を知っていると思えば、大大大親友とまでは行かずとも、仲良くなれる気がした。
 

傷口を繋ぐ糸

 
 


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