七年語り – CHAMBER OF SECRETS
32 クリスマスの魔法
クリスマス・イブもダリルはヴォルデモートと過ごしてきた。
そんなダリルが、クリスマス当日の朝に山盛りのプレゼントを見たからと言ってはしゃげるだろうか。はしゃげない。
沈んでいるダリルとは反対にジニーは大喜びでプレゼントの包みを破っており、ダリルのベッドの足元にある山を見たジニーは目を丸くして「凄い量ね……」と言っていた。そのまま「お父様の知り合いが多いから」と笑って済ませておけば良かったものを、ダリルはパンジーからの包みを開けるとジニーに見せた。彼女からのプレゼントは滅茶苦茶に崩れたクリスマス・ケーキだった。ご丁寧にケーキの中にはナイフが埋め込まれている。ダリルはチリ・ソースまみれのケーキを捨てて、ナイフを貰っておくことにした。「“お友達”からのユーモアなの――これを食べて死ねってことよ」とぼんやり言うと、ジニーが「スリザリンの人達のことなんて気にする事ないわよ」と慰めてくれた。ヴォルデモート以外に慰められるのは久しぶりであり、嬉しくも思ったが、ジニーに弱音を吐いた自分が恥ずかしくて堪らななかった。
スリザリン寮生からの贈り物の大多数はパンジーからのものと同じ趣向に走ったものが多く、幸いにしてと言うべきか、実際にダリルへ怪我を負わせればと困ったことになるのは向こうなので、実害のあるものはなかった。尤も“幸いにして”というよりは成るべくしてなのかもしれない。マルフォイという家名はダリルを救いもするし、傷つけもする。その現実を突きつけられるようで、怪我をすることはなかったが、心は強く疲弊した。何もかも見なかった事にしたいが、家同士の付き合い上、礼状は送らねばならない。ダリルは本物と見紛うような鼠の死骸の模型の尻尾を摘まんで持ち、それに鼻をくっつけた。匂いはないので、やはり偽物らしい。送り主であるミリセント・ブルストロードからのカードには「貴女が悪戯に凝っているようなので、愛を込めて」と書かれていた。
「きゃあ! ダリル、何てものを!!」
洗面室から戻ってきたジニーが、ダリルが鼻をくっつけている鼠の死骸の模型を見て悲鳴を上げる。
恐らくミリセントが望んでいたのはこういう反応なのだろうが、実際に悪戯に使えそうということで、スリザリン寮生から貰った贈り物のなかでは一番マシだとダリルは考えていた。フレッドとジョージに見せてやろうとダリルは思ったが、「信じられない! クリスマスに、なんて人達なの……!!」と憤るジニーの手によって、ミリセントからの贈り物はゴミ箱に捨てられてしまった。
「ダリル、スリザリン寮生からの贈り物は全部私に開けさせて頂戴」
ジニーは憤然と有無を言わせぬ口調で宣言し、ダリルへの贈り物の約半数を処分した。中には家同士の付き合いがないスリザリン寮生からの贈り物もあり、届いた贈り物の半分はクリスマスにかこつけた嫌がらせの品だった。
二人はすっかり普段と立場が逆転してしまった。ジニーはダリルの心配をして、ダリルはジニーへ「自分がスリザリン生に嫌われているのは承知しているし、全然平気なのだ」という釈明を三十分も続けなければならなかった。
年下の、しかもこの間まで酷く落ち込んでいたジニーへ甘えるのは自尊心が傷つくような気がしたが、心から自分を案じてくれるジニーを見ていると心が癒されるような気もした。それにジニーからのクリスマス・プレゼントは素晴らしかった。グリフィンドール・カラーに彩られたストライプ模様のミトンは自分に似合わないのではないかと思ったが、ジニーはハッキリと否定した。
「その、私はママほど上手じゃないから……ダリルみたいに市販品を買えば良かったわね」
裾から毛糸がはみ出ているのを見たジニーは顔を赤らめたが、ダリルはジニーをぎゅっと抱きしめた。
ダリルの贈ったものはふくろう通信で注文した、ジニーによく似合う萌黄色のマフラーだ。ダリルは自分が魔法を使えるようになったら、来年は絶対に手編みのマフラーを贈るとジニーに誓った。ダリルからのマフラーを付けたジニーは、クリスマスの妖精みたいに可愛かった。後で聞くところによるとフレッドとジョージから散々「クリスマス・ツリーのてっぺんに飾ってやろうか」とからかわれたらしい。
らしい、というのはダリルはジニーと違って朝食のために外へ出なかったからだ。クリスマス・ディナーの席にも出るつもりはなかった。どんな御馳走が出ても、ベアゾール石と、リストに載っているものしか食べれないのだし、皆が和気あいあいとしているなかにポツンと座っているのも嫌だった。ジニーはかなりしつこくダリルを誘ったものの、結局ジニーはダリルに見送られることになった。
ジニーが朝食へと出かけていくとダリルは一人になったが、然程寂しくはなかった。ジニーから贈られたミトンが手を温めていたし、“残りの”半数の開封作業は楽しかった。モリー・ウィーズリーは手編みのセーター(クリーム地で、胸のあたりに黒い小鳥が編み込まれていた。)を贈ってくれたし、アーサー・ウィーズリーはドアの取ってみたいな、“話電”とかいうものの“話の受け手”を贈ってくれた。「父親が五月蠅かったらこれで殴りつけると良い。奴を凹ませるに十分な硬さだろう」と書かれたカードを見て、ダリルは久しぶりに笑った。アーサーからのカードに出てきたルシウスだが、今年の贈り物はサマー・コートだった。配色は相変わらずスリザリン・カラーだ。
ジョージ・フレッドからは連名で愛の妙薬が贈られてきて、ダリルはドキっとしたが、「これを僕らに飲ませてくれ。少しは君が単なるチビでなく見えるかもしれない……」と書いたカードを読んでホッとした。セドリックとの件はまだバレていないらしい。
皆からの贈り物を見て、どうせなら自分ももっと洒落たものを贈ればよかったなとダリルは思った。ダリルが家族とジニーとハーマイオニー以外に贈ったものの殆どは消耗品――お菓子の詰め合わせとか、悪戯グッズとかだった。
ハーマイオニーに贈ったのは「上級ルーン文字翻訳法」だ。ルーン文字に興味があると聞いたので、自分の書庫から取り寄せた。勿論ダリルが嬉々として読んでいたわけではない。ルシウスの書庫が一杯になったので、押しつけられたのだ。一時期ルーン文字に凝った時に買ったものだと記憶しているが、三年も読まないのであれば要らぬだろうとキィーリレルに命じて送らせた。どうやらドビーの教育は上手く行っているようで、ダリルからの手紙を受け取って、その指示に従うということは出来るようになったらしい。
ハーマイオニーからの贈り物も本だった。「古代の魔法使い達の知恵と暮らし」という本を贈ってくれたのは、ダリルが魔法史を好いているからだろう。贈り物を貰ったことより、ハーマイオニーに嫌われたわけではないと知れたのが嬉しかった。一方ロンとハリーは当たり障りのない贈り物をくれ、好意を推し量る事は難しかった。尤もダリルとて二人に贈ったのは似たようなものだし、貰えるだけホッとした。
ミス・レターへ
メリークリスマス!
いよいよ今日、マルフォイの悪事を明かしてくる! 君が石になっちゃう前に、頑張るよ。
ポリジュース薬(しかもクラッブ・ゴイル入り)を飲まないといけない僕の分も、君が楽しいクリスマスを過ごしていることを祈ってる。
友情を込めて、ハリー。
ハリーからミス・レターへの贈り物は、今年もリボンだった。去年に「リボンは好きだけど、あまり持っていないから嬉しい」と礼状に書いたのを覚えていたのだろう。今年のリボンはクリスマス・カラーに柊の模様が編み込まれた瀟洒なものだった。ハーマイオニーあたりに色々と聞いてみたのかもしれない――なんて思って、ダリルは口元に笑みを浮かべた。
アンジェリーナとアリシアとリーから贈られたのも、リボンだった。ハリーと仲違いして以来ダリルはハリーから貰ったリボンを本に挟んで持ち歩くことが増えていて、どうもそれを見られたようだ。アンジェリーナとアリシアは「リボンの贈り主なんて忘れて、新しい恋をしなさい」とほんのり的外れなカードをくれたし、リーは「リボンは後生大事に持ち歩くものじゃなくて、髪を結ぶものだぞ」と御尤もなアドバイスをカードに書いてくれた。どうもリーはダリルがリボンを大事にしているのを見て、リボンを一つしか持っていないからだと思ったらしい。リーは自分に関心があるふりして実はないのか、それとも単に考え方が人とズレているだけなのか、どちらなのだろう。
仲の良い三人からの贈り物を開けて、ナルシッサとドラコからのものを開けてしまえば、あとはもう礼状を書くだけだと思ったが、最後に大きな包みが残っていた。送り主の名前がない。まさかヴォルデモートからだろうかと恐れおののいたが、一番可能性として高いのはスリザリン寮生からの嫌がらせだろう。名前が書かれてないから、ジニーに渡し損ねてしまったのに違いない。最後に嫌な物が残ったなあと思ったが、これだけ良い事があった後ではそれも仕方がないかと、ダリルは半ばあきらめ気味にペーパーナイフを包み紙に付きつけた。
黄色の包みを破ると、メリークリスマスと書かれたカードが箱の上に乗っていた。ダリルは手にとって、カードをひっくり返してみる。やはり送り主の名前がない。まあ、カードの表紙に己の名を書く人もそうはいないだろう。赤地に緑と金の模様、メリークリスマスという題字の周りをコマドリが飛び交っていた。嫌がらせとして贈ってくるには可愛らしすぎるカードだ。贈り主はセンスが良いのだろう。
尤も幾らセンスが良くっても、そのセンスの良さを見せつけるのが嫌いな相手とくれば、無駄な美点だとダリルは思った。
「メリー……祝う気にはなれないわね」
ダリルはふうとため息をつきながら、メリークリスマスという文字をなぞった。ダリルの指に驚いたコマドリ達が枠の向こうへ消えて行く。カードを捲ると、ダリルがこの二週間で何よりも乞い求めた人の筆跡が刻まれていた。
ダリルへ
メリークリスマス!
君は今頃ホグワーツかな? フレッドとジョージも残るようだし、君がクリスマスを楽しんでいることと思っている。
クリスマスぐらいは危ないことをしていないといいなと思うけど、どうせ君のことだから、また何かしているんだろうね。
包みのなかはポラロイド・カメラとアルバムだよ。何を贈ろうか色々考えたけど、実用的なものを贈ることにした。
カメラのほうは僕が昔使っていたものだから若干古臭くて、ごめん。僕が子供の頃に祖父が買ってくれたもので、気に入って使ってたから傷が多いと思う。でも修理に出したからそこそこ綺麗になってるはずだし、結構映りは良いんだ。
このカメラで碌でもないものや、如何でも良いものとかを映して、フィルムを無駄に使うことに掛けては天才的だってよく父さんに笑われたよ。でも今になって、そういう、カマキリの卵とか、かびたパンの写真を見返すと昔の自分は馬鹿だなあって楽しい気持ちになる。
君が子供の頃の僕よりはまともなものを映してくれることと、撮った写真を見た時に今の僕と同じ気持ちになってくれることを祈ってる。
愛を込めて、セドリックより
カードを持つ指が震えた。感情がごちゃごちゃになった。一週間ずっとダリルのことを避けていた癖に、なんで何事もなかったようにクリスマス・プレゼントを贈ってくるのとか、私カードしか出してないとか、しかもそのカードは凄く当り障りのないものだとか、自分がこんな素晴らしいものを貰って良いんだろうかとか、あの女の子にも同じような物をあげたのかなとか、包みに送り主ぐらい書いてよとか、喜びと嫉妬と後悔とほんの少しの怒りがダリルの頭の中でぐるぐる回る。喉が詰まり、言葉の代わりに涙が落ちた。
ダリルはごしごしと目じりをこする。最近、涙腺がかなり弱くなっていると思って、クスクス笑って、またボロボロ涙が零れてきた。
泣きながら、カードを抱きしめながら、ダリルは片手で箱を開ける。中にはセドリックの言うとおり、所々に傷のあるカメラと、革の表紙に黄と赤と金の模様がある新品のアルバムが入っていた。ダリルはカメラを手にして、カードと一緒に抱きしめる。
その二つを手にしたまま立ち上がった。よろよろと机まで赴き、座りもせずに礼状用の便箋を広げて、羽根ペンを掴む。
セドリックへ
貴方はカマキリの卵やかびたパンよりずっとまともなものです。
ホグワーツに戻ってきたら貴方の写真を撮らせて下さい。アルバムの一ページ目に飾りたいから。それから、ごめんなさい。大好きです。貴方と話せない間、どれだけ寂しかったでしょう。ごめんなさい。書きたい事は一杯あるのに、指が震えて文字が書けない。
ダリルは机にカードとカメラを下ろし、口元を手で覆った。嗚咽が漏れる。震える指で、ぎこちない文字で続きを綴った。
愚かなことだと頭のどこかで客観的に感じていたが、付け足さずには居られなかった。
『僕をちょっとでも大事に思うなら、もっと自分を大事にすると約束してくれ』
少なくとも、この問いにイエスと答えられない自分にこんなことを書く資格はない。セドリックにどれだけ甘える気なのだと己の指を咎めながら、しかしダリルは綴りきってしまった。そして綴った文章を見返せば、自分の本音は明白だった。
――三年後に貴方と同い年になった私は、十五歳の私は貴方とアルバムを捲ることが出来るでしょうか。
セドリックを失ったら、生きて行けない。セドリックと不仲でいるのは、ドラコとのそれと同じぐらいに苦しく、こんな日々が永久に続くなら、もう何もかも如何なっても良いとさえ思えた。セドリックと一緒に写真を撮って、数年後の未来にそれを覗いて、あんなことがあったね、こんなことがあったねと笑ってみたい。セドリックの隣に私以外の女の子が立っているのは嫌だ。だけど誠実になることも出来ない。我儘で不実な子供だけど、セドリックが好きだ。早く大きくなりたい。せめてセドリックと釣り合う年齢になりたい。見捨てないで。お願いだから、どうか私を見捨てないで、私の手を離さないで、一緒にいて、きちんと出来ないし、今までやってきたように分を弁えて諦めることも出来ない。駄々をこねる子供のようにセドリックの隣にいたいと、望みだけが思考を埋め尽くす。その見返りに己が出来ることや、我慢しなければならないことは何も浮かばない。ただ好きで、傍にいてほしいということしか考えられない。
体中を浸す幸福感を切り裂いたのは、窓の外に垂れるつららより鋭い男の声だった。
「そんな、ボロくさい安物のカメラがそんなに嬉しい?」
足元に血の池でも出来たのでは――と思うほどに素早く、且つ体が冷たくなる。文面を覗きこむダリルの顔は真っ白で、はっとカードとカメラのほうへ視線を動かせば、あるはずのカメラがなく、振り向けばいるはずのないヴォルデモートが立っていた。
ダリルはカードを抱きしめて、一歩後ろに下がる。ガタリと机が軋んだ。机が邪魔で、これ以上遠ざかれない。ヴォルデモートがダリルとの距離を一歩縮めれば、もう二人の間には猫一匹分の隙間さえなかった。
「あなた、なんで」ダリルはうわごとめいた疑問を口にする。
ヴォルデモートはふうとため息をついて、カメラを片手で弄びながら見下すような笑みを浮かべた。その赤い視線は飽く迄も冷たい。
「アニメーガスの姿でいるのと、いないのはどっちが楽だと思う」机に手を付き、ダリルを逃げれなくする。ダリルは軽く仰け反った。
「それは――そうだけど」
頭は真っ白で、ヴォルデモートの言っていることもよく分からない。兎に角ヴォルデモートが今目の前に存在しているのは現実で、一番重要なのはセドリックからの贈り物がヴォルデモートの手の中にあるという、それだった。
ダリルがヴォルデモートの手の中にあるカメラに手を伸ばすと、ヴォルデモートがひょいとダリルの手の届かないよう腕を上げる。
「返して」眉を吊り上げて、ダリルはきっとヴォルデモートを睨みつけた。
「そんなにあの男が好きなのかい――ガキの癖に」その声音には昨日までの優しさは微塵も込められていない。それもそうだ。最初から、この男はダリルを利用したいだけで、ダリルが生きようと死のうと如何でも良いのだから。心から自分を案じてくれるジニーやセドリックとは比べるべくもない。一瞬でもこの男に気を許した自分を、ダリルは苛立たしく思った。
「嫌がらせ目的だったとしても、そのガキにキスしたのは誰なの」ダリルは仰け反るのを止めて、背のびする。ヴォルデモートの体にぴったりくっつくこととなったが、今のダリルには如何でも良いことだ。ヴォルデモートが動かないのをこれ幸いと、ヴォルデモートの肩に掴まってつま先立ちする。それでも、まだ届かない。ダリルは片足で背後の椅子を引き寄せようとした。台があれば楽々届くはずだ。
ダリルの意識が背後の椅子へ向かったことに気付くと、ヴォルデモートはダリルの足を蹴って床に転ばせる。
「もう一度して欲しい?」カーペットの上に片手をついて倒れたダリルに覆いかぶさり、ヴォルデモートが哂った。
不意にしゅるとヴォルデモートの首に何か巻きついた。それに気付くや否や視界をブルーグレイが埋め尽くす。唇を温かなものが掠めて行き、気付けば手の中が空虚になっていた。ヴォルデモートがダリルの行動を理解するよりも、ダリルが彼の腹を蹴るほうが早い。
「お断りよ」
セドリックからのカメラをぎゅっと抱きしめて、ダリルは突然の鈍痛に顔を顰めるヴォルデモートの下から這いだした。
ダリルは大急ぎで立ちあがって、二メートルの距離を置いてからべーっと舌を突き出す。この際アルバムとカードと、他の人から貰った贈り物の無事を確保するよりも、このカメラの無事を確保することのほうがずっと大事だ。
ダリルが自分に舌を突き出してるのを見て、ようやっとヴォルデモートは全てを悟った。ダリルは自分の隙を作る為にキスして、カメラを手からもぎ取った途端に腹を蹴ったのだ。この二週間ずっと自分の膝の上でしくしく泣いていた少女の取る行動とは思えなかった。
ヴォルデモートは足縛りの呪いを掛けようとしたが、ここが現実である以上杖がなければ魔法を使うことが出来ないと気付く。普段使っているダリルの杖は今ダリルのローブのポケットに入っていた。ヴォルデモートがそれを奪うよりもダリルが部屋を出て行くほうが早いのは明らかであり、部屋を一歩出れば誰が通りかかるか分からない。瞬時にそれらの考えを脳裏に巡らせると、赤い瞳に悔しさを滲ませてダリルを睨んだ。ダリルは勝ち誇った顔をしている。ヴォルデモートのほうを見ながら後退し、既に手は扉の取ってに触れていた。
一つため息をつくと、ヴォルデモートは顔から感情を拭い去る。
どの道、夜になればダリルとは夢で会える。それに少し元気になったからと言って、二週間前の状態に戻るだけだ。焦る事はない。
「……どこへ行くんだい」
「貴方の事を調べに図書室へ行ってくるのよ」
ダリルはいつも通りへ戻ったヴォルデモートを、訝しんだが、どうせ二週間前に戻るだけだと結論づける。まだ自分を殺すことは出来ないだろう。
二週間前と同じ、自分を小馬鹿にするような視線で己を射抜くヴォルデモートへ、ダリルはにっこり笑った。
「私は貴方のマリオネットじゃないって、思いだしたから」
そう言ってヴォルデモートを見つめるダリルの瞳はキラキラと輝いていた。
「それじゃあね、また夜に会いましょう!」ヴォルデモートが己を追ってこないことを確信すると、ダリルは軽やかに手を振って、扉の向こうに身を躍らせた。パタンと扉が閉まり、トントンと階段を降りて行く音が遠ざかる。
ヴォルデモートは深いため息をついて、背後の机を振り向いた。書きかけの手紙が広がっている。
セドリックへ
貴方はカマキリの卵やかびたパンよりずっとまともなものです。
三年後に貴方と同い年になった私は、十五歳の私は貴方とアルバムを捲ることが出来るでしょうか。
何か策を講じなければならないとヴォルデモートは思った。
自由に動けない我が身がつくづく恨めしかった。“本体”に肉体さえあれば、こんな小僧さっさと殺してしまうのに――そこまで考えてから、ヴォルデモートは思い切り顔を歪めた。ハリーに掛かっている守護呪文を無効化させるには、記憶操作や服従の呪文の関与していない心からのものでなくてはならない。リリー・ポッターの掛けたものは命と引き換えにしただけあって、かなり強力なものであり、ダリルからの無償の愛情を得てからでもハリーを害するには幾らかの条件を満たさなければならなかった。
セドリックを殺せば、ダリルは永遠にヴォルデモートを愛さないだろう。のみならずダンブルドアに全て打ち明ける可能性すらある。
ヴォルデモートはジニーの机のほうを見た。“日記”が上手くやってくれれば良いが、頼り切るのは危険だ。しかしとりあえずダリルが二週間前の状況に戻ったからには、ハリーの守護を無効にさせる方法は別の事を探し、当初の目的を達成することだけを考えて動いたほうが良いだろう。ヴォルデモートは便箋を手に取り、ビリビリと破いた。
・
・
・
「嘘! あっそうね、今日はクリスマスですものね! やだ、わたしったら……ぜーったいに、またヴォルデモートに馬鹿にされるわ」
ダリルは施錠されている図書室の前で絶叫しながら納得していた。
七年語り – CHAMBER OF SECRETS