七年語り – CHAMBER OF SECRETS
05 夢のない眠り
ダリルへ
大っ成功だ!!! ハリーったらすげえ部屋にいたぜ。手紙じゃ上手く教えられなくてもどかしいよ……牢獄みたいなとこに押し込められてたんだ! 全く、僕らが迎えに行かなかったらハリーは餓死してただろうね。ホント何もかもバッチリ上手く行った。荷物も全部積み込んだし、マグルがハリーを捕まえようとしたけど、その時にはもうハリーは車んなかさ。あんなに面白いことってそうないぜ。ママに見つかって死ぬほど怒られたけど、愛嬌だな。失敗の内に入らない。しっかし如何してばれちまったんだろう……。
夜中起きてたから、眠くて堪らないよ。もしも文字が読めなかったりしたらそのせいだと思ってくれ。
今頃この手紙を読んでる君は膨れてるんだろうな。今、ジニーが僕(今日手紙を書いてるのはジョージ。まあフレッドの文字よりきちんとしてるから分かっただろうね?)に纏わりついて騒いでるから、きっと君も同じような反応見せるんだろうなって二人で話してた。
別に僕ら君達からハリーを取り上げるつもりなんてないし……少なくとも感謝してもらって良いはずだぜ? 僕らとロンがハリーを連れてきたおかげで、ジニーはこれから毎日ハリーを観察出来るんだし、ダリルは僕らが書いたハリー観察日記を受け取ることが出来る。不幸なのは僕らさ。ママにはとんでもないことを仕出かしたって叱られ、ジニーには私を置いてハリーを迎えに行っちゃうなんて酷いって罵られ、当のハリーはロニー坊やに独占されてる。君もジニーも文句を言いたいならロンに言や良いのにさ、僕らってほんと貧乏くじを引くぜ。
僕らだってたまにはハリーを独占したいとか言って君やジニーに絡みたいよ。そうすりゃ自分達がどんなに鬱陶しいか分かるってもんだろ。ジニーがこの手紙覗いた瞬間静かになった。たまには君も役に立つ。「もっと私のことよく書いてよ!」だってさ。役に立つと思ったけど、今度は違う事で騒ぎだした。君達で梟便を送り合えば良いのに、如何して僕らを間に挟みたがるんだい。
ジニーは燃えるような赤毛が美しい女の子。ちょっと引っ込み思案だけど度胸はある……もっと可愛く書いてとか言われたよ。これって美点だよな? まあ適当にすっげえ美人でおしとやかで優しい女の子を想像しておいてくれ。僕ら嘘はつけない。
君の方は如何? まさかハリーってほどじゃないだろうけど、ほんとのほんとにホグワーツに戻る許可が出ないってなら迎えに行くぜ。
友情をこめて、ジョージとフレッド。
ジョージとフレッドへ
お疲れ様。上手く行ったみたいで、本当に安心しています。
私のほうもとても上手く行きました。お父様の機嫌がそれなりに回復したようなので、無事にホグワーツへ戻れそうよ。
あと、驚かないでね。その……すっごいラッキー、新学期の買い出しに私も行って良いって! 嘘みたい。如何しよう私今すっごく興奮してる。私一度もダイアゴン横丁に行ったことがないの。それでひょっとすると自由時間が作れそうよ。もしもお父様が一緒だったら難しいと思うけど、私の考えじゃお母様と一緒に行動出来ると思うわ。お母様だったら簡単に撒けるもの。でも上手にやらないと、またホグワーツに戻っちゃ駄目なんて言われたら堪ったもんじゃないでしょう? だけどこの機会を逃すなんて惜しい事絶対出来ないわ!! 同じ日にダイアゴン横丁へ行きましょう。もう私退屈で干上がっちゃいそうなの。絶対に一緒の日に行きましょうね? いつに行くか決まったらすぐに手紙を頂戴。すぐによ。一行で良いわ、何日の何時にどこにいるか教えてね。約束よ。教えてくれなかったら千年恨むから。
出来ればジニーにもちょっと会いたい。きっと可愛い女の子なんでしょうね。貴方達が碌でもない賛美をしなくたって、きちんと私分かるわ。貴方達の妹ですもの。でもきっと貴方達が家族全員でいるところに私が行ったら、貴方達のお父様やお母様は困っちゃうでしょうね? それにハリーはドラコのことが嫌いだし、(私が名前で呼んでるってことは内緒よ!)ロンも嫌がると思うの。
絶対に内緒よ? 分かってるわね? その……勝手にハリーやロンに好意を寄せてるなんて、絶対に内緒よ。言ったら万年恨むわ。
ああ、でも良いの。もう兎に角貴方達やアンジェリーナ、アリシア達に会いたくて堪らない!! 貴方達が私と同じ生活を送ったらきっと憤死してしまうでしょうね。そのぐらい、私この夏季休暇中退屈だったのよ。もう貴方達に会えるならホグワーツに戻れなくなっても構やしない。絶対にダイアゴン横丁を一緒に歩きましょうね? 楽しみすぎて眠れないわ。絶対に絶対にいつ行くかすぐに教えてね。
友情をこめて、ダリル。
ダリルへ
今度の水曜日の午前十時に銀行前で落ち合おう。
君の嫌いな奴がそろい踏みなんで、怖くなっちゃうかもな――ハーマイオニーも来るぞ!
例の二人組より友情をこめて。
貴方達へ
水曜日が来るまでに死んでしまいそう。一日が一秒で終わったら良いのに。
友達より。
ダリルは洋箪笥の前に座り込んで、フレッドとジョージからの手紙を読み返す。ふーっと笑顔で息を吐いた。
ギルデロイ・ロックハートのサイン会が水曜日に行われるということもあり、日程の調整は上手く行った。ルシウスとドラコの手前露骨な好意を口にしないものの、ナルシッサだってロックハートのことが嫌いではないのだ(つまり好きということ)。「ねえお母様水曜日にロックハートのサイン会があるのよ。絶対に行って、サインを貰わなくっちゃ」ダリルからサイン会の情報を聞いたナルシッサは「列に並ぶなんてはしたない……」と言いながら、洋箪笥の奥から引っ張り出してきた「鬼婆とのオツな休暇」をダリルの手に押しつけた。ルシウスやドラコに見られたくないものを洋箪笥に隠すというのは二人の共通点らしい。ダリルは手紙の隠し場所を変える必要性を感じた。
ロックハートの書いた本の中では「バンパイアとバッチリ船旅」が一番ハラハラして面白いというのがダリルの意見だったが、ナルシッサは「鬼婆とのオツな休暇」のほうが全体的に粋で、機智に富んでいると反論するのが常だった。ナルシッサとダリルの話が盛り上がりを見せるのは珍しい。ルシウスとドラコがロックハートを嫌っているのもあり、ロックハートが絡むと母娘は仲良くなった。
そんなわけで――ホグワーツへ戻るのに母親の取りなしを得ようと必死になったぐらいだ――水曜日にダイアゴン横丁へ行くという話はナルシッサのおかげでスムーズに決まった。ルシウスとドラコは特にいつ行きたいとかいう希望はないのである。ナルシッサが素知らぬ顔で「水曜日に行きましょうか」と言えば抗う人はいなかった。ルシウスとドラコは理由もなく水曜日になったのだと思っている。ナルシッサはロックハートのサイン会に行きたいから水曜日に決めたのだと思っている。バッチリだとダリルは思った。
当日はどうせ男同士・女同士で別れるだろうから、無事に二人と落ちあえるだろう。サイン会に並ばないといけないからとか言えば簡単に一人で行動していいという許可が下りるに決まっている。ダリルはルシウスとドラコがロックハートを嫌ってて良かったと感動した。
ロックハートって素晴らしいわ。手紙から視線をあげたダリルは傍らにある「バンパイアとバッチリ船旅」を見やる。表紙の中で悪戯っぽいウインクを飛ばすロックハートに向かって、きらきらした視線を向けた。ロックハートがいなかったら二人と会うのにもう三週間も我慢しなきゃいけなかったでしょうね……。そう思うとダリルはますますロックハートを素晴らしい人だと考えるのだった。
それでダリルは「バンパイアとバッチリ船旅」を抱きしめて、床に就く。明日は何もかも上手く行くだろう。フレッドとジョージとちょっと話して、ロックハートのサインを貰い、ナルシッサにサインを渡せば機嫌が良くなるだろうし、ルシウスとドラコには何も気づかれない。自分が本当に欲しいのがロックハートのサインではなく、グリフィンドール寮の友達との時間だなんて誰が気付くだろうか。
明日が楽しみすぎて眠れないと思ったが、ベッドに入って三分とするとダリルの瞼は落ち、やがて安らかな寝息が部屋に満ちた。カーテンは閉められ、星も月もダリルの眠りを妨げることは出来ない。夢もとりとめのないもので、暗い部屋を訪れることはなかった。
不意に静かな室の端にギィと軋んだ光が差す。線のように細い明かりがカーペットの上に落ち、その一番下で黒い鱗が廊下からの光を受けて鈍く輝いていた。蛇がどうやって扉を開けたのか……ダリルが起きていたら一層己の飼い蛇を不気味がっただろう。
ここ最近レディは邸内を自由に這いまわり、ダリルの傍にいることが少ない。最初の頃は「梟に食べられてしまえば良いのに」と相変わらずの嫌悪を露わにしていたダリルだが、傍にいなくなってから二週間、三週間が経つと「どこかへ逃げたか梟に食べられてしまったんでしょうね」とレディの存在を忘れてしまった。最近はルシウスもレディについて言及することがなく――というか単に二週間ほど無視されていたために会話自体なかったのだが――もう一年も面倒を見たのだし、寿命だとか何とか言い訳は出来るだろうと、ダリルはレディを失うことを恐れなくなった。こんな事ならもっと早くヘドウィグに食べさせちゃえば良かったわとすら思った。
勿論完全にレディという蛇がいたことを忘れてしまったわけではないが、今のダリルにとっては過去の話となっている。しかしレディはまだ邸の外へ逃げたわけではないし、ましてや梟に食べられたわけでもない。
昼の内は自由気ままに邸内を移動し、夜になるとこうしてダリルの部屋を覗きに来る。それはあたかも自分のペットが籠から逃げ出してないか確かめに来る主人のようだった。ダリルとて邸内であれば自由に動き回れるものの、彼女が望むところへ行く事は出来ず、不自由を感じている。それに比べてレディは自分の望むところへ行け、不自由を感じることはない。
所詮移動範囲は同じなのだが、意識としては大分異なっていた。
レディは細い光のなかから闇へ身を躍らせると、するするとカーペットの上を移動する。柱を伝ってベッドに上がった。
ダリルはレディなど疾うに死んでいると思い、安心しきった寝顔を見せている。レディはじっと赤い瞳でダリルを見つめて、二度三度瞬きした。そうしてから来た時と同じように扉のところまで戻り、パタンと静かに光を閉ざした。
この得体の知れぬ蛇は主人が部屋にいるのを確認すると、眠りもせずにまた邸内を彷徨い始めるのが常だった。
翌朝ドラコが「何を抱えて寝てるんだ」と怒鳴るまでダリルは目覚めず、またその時も己の飼い蛇について思い出しはしなかった。
七年語り – CHAMBER OF SECRETS