七年語りCHAMBER OF SECRETS
06 素晴らしい休日

 

 その日のダリルはフレッドとジョージに会う前からもう上機嫌だった。

 いつも人が使うのを見ているだけだったフルーパウダーを初めて使うことが出来たし、魔法使いや魔法戦士、様々な半人外で賑わう漏れ鍋はダリルの好奇心をいたく刺激した。さっさと漏れ鍋から出て行きたがる両親やドラコの後ろをわざとゆっくり歩きながら、ダリルはカウンターで軽食を取っている人の方を観察した。しかし「ドラコ、見て、私鬼婆って初めて見ちゃったわ……本当に人を食べるのかしら」と耳打ちした途端ドラコはダリルの手を握り、早足で歩きだしてしまった。鬼婆に「何を飲んでるんですか? 赤いけど、やっぱり人の血なのかしら」なんて聞かれちゃ困ると思ったのだろう。ちょっと不満に思ったものの、ダリルの機嫌はすぐに回復してしまった。

 初めて訪れたダイアゴン横丁の素晴らしさは漏れ鍋と比べるべくもない。不思議な服装をした人や異国の人、漏れ鍋に居たような半人外や明らかに人外のものであろうと思われる生物、話にしか聞いたことのない店――ドラコが手を握ってさえいなければすぐに迷子になってしまっていたに違いなかった。「あのお店は何を売っているのかしら、ねえドラコ気にならない?」「気にならない。父上と母上を見失うだろう」ドラコはきゃあきゃあとはしゃぐダリルを引きずり、一家はようやっと贔屓にする洋服店の店先に辿りついた。

 そこからはもうダリルの自由時間と言って相違ない。ダリルの予想通りルシウスとドラコは店内に入ることなく二人で消えてしまったし、ダリルはナルシッサと共に店内でパーティ用のドレスを見ていたが「お母様、そろそろサイン会のほうへ行かないと……きっと人が一杯来るもの、開始時間に行ったら間に合わないと思うわ」その一言で全て予定通り、何もかも上手く行った。

 家を出たのが九時半だったため、ダリルが一人になった時にはもう時計は十時を指していた。しかしダリルは到底急ぐことは出来なかった。芋を洗うような混雑を見せる路地を通り抜けることは困難だったし、それよりずっと困難だったのは――店先に並ぶ梟達や見たこともない不思議な植物、それに細かな刺繍が施された帳面、店と店の間でアクセサリーを広げる露天商等の誘惑を振り切ることだった。
 ダリルは「この夏流行! 妙齢の魔女の魅力を増させるガーリーファッション」という看板に意識を奪われ、フラフラとショーウインドーに張り付いた。ナルシッサが見たら悲鳴をあげて倒れてしまいそうなほどに大胆な衣装だ。七十センチ幅の布で胸と股間と隠したマネキンがダリルにウィンクを送る。ダリルはショーウインドーに当てていた手を自分の顎の前に置き、下ろす。何とは言わないが、相変わらず育っていなかった。自分がこの服を買うにはあと五年は早いだろうな。勇み足で硝子戸の向こうへ消えていく妙齢の魔女達を見ながら、ダリルは思った。ダリルがショーウインドーから離れるとマネキンは口を尖らせたが、すぐに違う魔女へ笑顔を振りまき始める。
 とある事情で我に返ったダリルはついでに今の自分が碌にお金を持っていないことも思い出し、誘惑の多くを無事振りきることが出来た。どんなに欲しいなと思っても買えないのでは仕方がないではないか。看板を見ながら、グリンゴッツ銀行が何処にあるか探る。誰かに銀行の在りかを聞いておけば良かったと思ったが、悔やむ必要はなかった。グリンゴッツ銀行はダイアゴン横丁にあるどの店より大きく、真っ白に光を吸いこむ壁色で、ちょっと人ごみから抜ければそれが銀行なのだとすぐに分かった。
 時計は十時四十分。目的地が分かってほっとしたのもつかの間、ダリルは待ち合わせ時間を思い出して青ざめる。もういないかもしれない……そう思えばさっきショーウインドーになぞ張り付いていた自分を引っ叩きたくなった。

 幸いな時に幸いなことが重なるというのもあるものだ。ダリルは露知らぬことではあるのだが、ハリーがフルーパウダーでノクターン横丁に出たためにウィ―ズリー一家も予定を大きく遅れて行動していたのである。
 故にダリルが泣きそうな顔でグリンゴッツ銀行に辿りついたのは丁度一同が大理石の階段を下りてくる時と同時だった。ダリルは遠目にもよく目立つ赤毛を見つけて思わず二人のほうへ駆け寄った。
「フレッド!! ジョージ!! 来たわ……!! 良かった、もう何処かへ行ってしまったんじゃあないかって思ったの」
「ダリル!」
「そりゃ奇遇だな。俺達も君がどっかの牢屋にでも閉じ込められてるんじゃないかって思ってたところだ……」
 勢いをつけて抱きつくと双子のどちらかが――ジョージがダリルを受け止めて、フレッドがケラケラ笑った。階段の上から下にいる人に抱きつくなら兎も角、下から上にいる人に抱きつくのは随分と危なっかしいことだ。それをまるきり考えず突進してくるダリルが二人には可笑しかった。二人の前ではダリルはそういうところを見せた。勝気で我儘で向こう見ずな妹分との、二月弱ぶりの再会は大分劇的だった。

「それで貴方はどっち?」
 散々ハグし、ジョージの胸へ頬をこすりつけていたダリルだが、ふっと顔をあげると首を傾げてそう口にした。
「抱きついておいてそれか……どっちだと思う?」
 ジョージの横でため息をついたフレッドがにやっと笑った。
「人でなしがフレッドで、碌でなしがジョージね」
「その見分け方は役に立たないって何度言や、君は分かってくれるんだい?」ダリルに抱きつかれたままジョージが苦々しそうに言う。
「なんだか喋り方が一層乱暴になったみたい。前は僕って言ってたわ」
「そりゃ俺達だって日々成長してるんだ。君のどこかとは違ってな」
「子々孫々、末代まで恨むわ」
 ダリルがじっとりとフレッドを睨んだ。しかし当のフレッドは素知らぬ顔で階段を下っている。ダリルはジョージにしがみついたまま呪詛を紡いだ。先ほどのマネキンと言い、どうしてこんなにも惨めな思いをさせられねばならないのか。
「……身長のことだよ」
 自分が言ったわけでもないのにジョージがばつの悪そうな口調でぼやく。
 ダリルはにっこり笑った。
「こっちがジョージね。向こうの人でなしがフレッドよ」
「ママ、今の台詞を覚えておくと良いよ。ダリルの言うとおりさ、人でなしが俺で碌でなしがジョージだ……全くこんなに見分けやすい特徴が他にあるかってんだ。なあ?」フレッドが背後にいる母親へ振り向いて笑った。
 その台詞でダリルは自分の周囲に誰がいるのか気付いた。ばっと周囲を見渡すと背後でウィーズリー夫妻、ロン、パーシー、ジニー、ハリー、ハーマイオニーとその両親に至るまでダリルのほうをまじまじ見つめていた。階段を下っているのはフレッドとジョージ、そしてジョージにしがみ付いていたダリルだけだった。あとの皆は階段の中腹で立ち止まっている。よっぽど驚いたのだろう。
 ダリルは耳まで真っ赤にした。慌ててジョージに捕まっていた手を離す。「そ、私――ちょっと夏が、」もごもご言いながら後ずさりしようとした瞬間、カクっと体が浮遊する。
 悲鳴が喉で破裂したのと同時にフレッドがダリルの背を支えてくれた。
「ホグワーツに戻ったら後ろ向きに歩く方法を教えてやんなきゃな」
「あ、ありがとう。でもそれは遠慮するわ」
「習っといたほうが良いんじゃないか? 俺達が知ってるだけで階段から転げ落ちそうになったのは十回あるぜ」
「その内五回は貴方達が私を押したのよ……!」
 ヤバイ! フィルチだぞ、ずらかれ!! その台詞と共に生贄へ仕立て上げられたことがあの五日間で何度あっただろう。それまで反省室ともフィルチとも無関係に生きてきたダリルは最後の五日間ですっかり彼の部屋の常連客になってしまった。
 ジョージが差しだしてくれた手を取って体制を直すと、ダリルは改めて自分の方を見ている皆のほうを向いた。何を言うべきかと口をパクパクさせていると、ミセス・ウィーズリーがキッパリ言いきった。
「まず、階段を下りましょう」
 正に鶴の一声だった。その台詞を切っ掛けに皆の金縛りが解け、ダリルもジョージとフレッドに手を引かれながら階段を下った。(ちらちら後ろを気にしていたら、フレッドが「ダリルお嬢様の顔面にクッションを付ける作業はまだ進んでないのかい?」と茶化した。)
 そしてあっという間に長い階段を下り終え、銀行前の広場でちょっとした沈黙が落ちる。

 こんなはずではなかった。ダリルは気まずさと共に思う。ジョージ達が言うには「どうせこっちも別行動になるからひょいっと来て、ぱっと行っちまおうぜ」だった。だからダリルは二人が皆から別れたところに合流するつもりで、なのに何を……ダリルはそわそわと視線を動かした。ロンとハリーとハーマイオニーがちらっとハーマイオニーの両親を見ているのが分かる。本物のマグルだ。ダリルは好奇心をそそられたが、そっちを見ないようにした。ウィーズリー夫妻は顔を見合わせて、ちょっと首を傾げている。

 何を言うべきかとまごまごしているダリルの脇を、ジョージが肘で突っついた。
「ほら、純血主義者だってのをアピールする絶好の機会だぜ?」
 耳元での台詞だったが、耳打ちと言うには声が大きすぎた。ダリルは顔を真っ赤にして、ジョージの頬を抓って引っ張る。
「私は純血主義者じゃないわ!! 私が此処にくるのにどんなにか苦労したと思ってるの――私、夏中お父様にずっと尋問されてたのよ。今度グリフィンドール寮の人達と喋ったらもうホグワーツに帰さないだなんて言うのよ! 行きたくもないパーティに行って、やっとお父様にご機嫌を直してもらったんだからね……!! くそつまらないパーティだったわよ。私の大っ好きな純血主義の皆さんが集まって、皆、スリザリンの男の子達が私の事どんな顔で見るか分かる? こんなよ」ダリルはパーティで会った少年のしかめっ面を真似してみた。
「くそつまらない……!!」ジョージがダリルの肩をばんばん叩いて笑い始めた。
「相棒、聞いたか? “糞”だってよ……終にすっげえつまんないダリルが糞面白いことを言ってくれたよな」
「貴方達、反応するのはそこだけなの?!」
 ダリルはゲラゲラ笑っている二人に食ってかかった。と、背後からも押し殺した笑いが漏れる。手のひらで口を押さえて小刻みに震えるアーサーをモリーが睨んでいた。ダリルはまたぱっと赤くなって、黙り込んだ。
「ヒ、奴さ――アハハ、奴さん、怒らないとヒヒッ……まともに喋れないんだ」
 ジョージがダリルの頭をぽんぽん叩きながら言った。否言ったというより、笑ったというほうが正しい。笑い声に邪魔されてそれは言葉としての体を保っていなかった。しかし何を言いたいかは十分に分かる。
 ダリルははっとジョージのほうを見やった。くいっとフレッドがダリルの耳を引っ張って、今度はきちんとした小声で耳打ちした。(あいつは碌でなしだけど、人でなしの俺と違って気が利くんだ)そう言ってフレッドはバチンとウインクしてみせた。ダリルがクスリと微笑む。

「ママ、パパ、紹介遅れてごめん。この子、俺達の新しい友達さ」
「ハリーやロニー坊やと同じ学年で、グリフィンドール寮生だぜ」
 フレッドとジョージがダリルをウィーズリー夫妻のほうへ押しやった。ダリルはおずおずと頭を下げる。
「ダリル……」ためらいがちに言葉が途切れたが、フレッドとジョージが茶化したのに背中を押された。(「今日は全然怒ってないな……」「なーに、蛙卵石鹸でもぶつければいつもどおりさ」)「ご立派な息子さん達にいっつもお世話になってます!! ダリル・マルフォイと申します!!」
 ダリルはきょとんとしているアーサーと頬を引き攣らせたモリーへにっこりと微笑んだ。
「お父様がいつもお世話になっていますわ。お父様ったらいつもミスタ・ウィーズリーのことになると子供みたいになってしまうんですのよ。一番面白かったのは去年の九月一日に頂いた梟便ですわね……お父様ったら如何してもマグルの格好はしたくないと散々喚いて、私とドラコ、危うくホグワーツ特急に乗れなくなるところでしたわ」ダリルのブルーグレイの瞳がきらきらと輝いた。
 あの時は困ったものだけれど、そのおかげでハリーに出会えたことを思えば全く有難い手紙だった。それに普段は大人ぶっているルシウスが「ウィーズリーの指図を受けたくない」と子供みたく駄々をこねていたのは、今になって思い返せばとても愉快なことだ。
 ドーパミンが出過ぎているのか、ロンが「そのまま乗り遅れちまえば良かったと思わないか?」とハリーに呟いてるのもまるで気にならなかった。

 ウィーズリー夫妻の内、先に口を開いたのはアーサーだった。
「なるほど、なるほど、道理で君がスリザリンに入らなかったわけだ……」
「私、組み分け帽子には何処でも好きなとこへ入んなさいって言われましたわ」ダリルの台詞にハリーがちょっと目を開いた。「双子の兄がいるからスリザリンへ行こうとも思ったんですけど、行かなくてよかったって思ってます」
「ほう、如何してだい」
「スリザリンの寮監が大嫌いなんです」ダリルは何でもない風に告げた。「陰険な人って大嫌い」そう言うと、何が面白いのかフフフと笑い始めた。「やだ、初対面の人に嫌いな人のことなんて教えちゃったわ」ダリルはケラケラと笑いながらジョージとフレッドのほうを振り向いた。「でも嫌いなんだから仕方ないわよね。あの人って本当に陰気で陰険で、髪の毛もやり口もねちっこいわよね?」
 ダリルはホホホと華奢な笑い声を零し続ける口を手で押さえながら、フレッドに寄りかかって身を捩る。
 何故急にハイテンションになったのだろう。フレッドとジョージは顔を見合わせた。怒ると思っていることをガーッと言う癖があるのは分かっていたが、パニックになると笑い上戸になるのは知らなかった。

 困惑している風な息子二人を余所に、アーサーはじーっと笑っているダリルを見つめていた。
「確かルシウスはセブルスと親しかったように思うがね」
「あら」ダリルがぴたっと笑いを止めて言う。「お父様はお父様、私は私ですわ。スネイプ教授は私のことがお嫌いなんです」
「なるほど、なるほど」
 二言ぼやくと、アーサーもにっこり笑った。
「確かに君とルシウスは別個の人間だ。私も人の親だからね……君の言いたい事はよくわかる……」
「アーサー」
 モリーがアーサーを小突いた。
「あなたったら、挨拶もしないで話しこむなんて」
 憤然と言うモリーもダリルがルシウスの娘であることを気にしないことにしたらしい。夫を叱ってから、ダリルへにこっと微笑んでくれた。
「分かっているよモリー。ちょっとだけだ。なあ?」アーサーが眉尻を下げて同意を求めるので、ダリルはまた笑ってしまった。
「私こそ、最初はすっかり忘れてましたもの」
 クスクス笑うダリルをアーサーがまたじっと見つめる。そうしてからダリルの向こうにいる息子を手招きした。
「パパ、何だい」ジョージが首を傾げた。
「それでお前たち、どっちがこのお嬢さんと付き合ってるんだ?」
 ジョージが絶句した。フレッドも一拍置いてから、顔を引き攣らせる。そりゃ会うなり抱きついたり、過度のスキンシップを取っていればそういう風に見えるのかもしれない。でも二人はそれがダリルの癖なのだと知っている。子犬が主人に絡むようなものだ。つまり恋愛的な意味は全くないし、二人もそんなつもりで一緒にいるわけではない。だいたい異性として見るには五日間はあんまりに短すぎた。フレッドとジョージはロミオじゃないのだ。それに二人ともまだ恋だの彼女だのに興味はない――まあ年齢としてはそろそろと言ったところだろうが――そう思うと一層恥ずかしかった。パパ、単なる友達だよ! それに彼女まだ十二歳だ。フレッドが必死に考えた訂正の言葉を口にしかけたが、ダリルがそれを遮った。鈴を転がすように可憐な笑い声が響く。「やだ小父様ったら」

「ジョージもフレッドも碌でなしに人でなしだけど、二人とも大好きですわ。どっちかを仲間はずれにして遊んだりしてません」

 アーサーがダリルを見てから、ちらっと息子達のほうを見た。
「私がお前達の年齢の頃には掃いて捨てるほどガールフレンドが、」
「いなかったわね?」
 モリーが言葉尻を引き取った。「ホグワーツに入った時から私一筋だったってプロポーズしたのをすっかり忘れて、これなんだから……」不愉快そうに言うモリーのほうへアーサーが向き直った。ごにょごにょと何か言い訳か、愛の言葉でも囁いているに違いない。

「ああ、付き合ってるってそっちのほうだったのね」
「まあ良いや。今の内にずらかろう」フレッドがダリルの手を引いて人ごみのほうへ歩き出した。
「私まだ小父様と小母様から挨拶されてないわ」
「ママ達のこと知りたきゃ僕らがスリーサイズから、プロポーズの台詞まで教えてやるよ」
「それとっても聞きたいわ!! 是非教えて貰わなきゃ。恋愛結婚なのでしょう? どこでプロポーズしたの?」
 ダリルはぱっと表情を明るくしてジョージにせがんだ。
「そんなこと――あることないこと人に吹き込んだら、二度と家に入れませんよ!!」モリーの声が三人の背後から追って来た。ダリルはジョージの耳に囁く。(凄く耳が良いのね)ジョージが頷いた。(ママは俺達の話なら五千キロ先にいたって聞こえるんだ)
 モリーは騒ぎながら通りに溶け込んでいく三人の背に待ち合わせ場所と注意事項を叫ぶと、今度こそアーサーからの言質を取り(「勿論、言い寄る女はいたけど私はずっとモリー一筋だったとも」)、それでその場にいる全員が自由行動を始めた。



「なんか、鼻の先にぶら下げてた糞爆弾がどっか行っちまったみたいだよな?」
 人並みをかき分けるロンがハリーにぼそっと呟いた。
「ン、」ハリーははっきりしない返事を口の中でくぐもらせる。ハーマイオニーは何も言わなかった。
『私とドラコ、危うくホグワーツ特急に乗れなくなるところでしたわ』ついさっきアーサーに向けて悪戯っぽく言った台詞。
『運べるわ』一年前にホグワーツ特急の入り口で、肩肘張って、ハリーを威嚇するように言った台詞。
『私……ホグワーツ特急で、貴方に……』三ヶ月ほど前に図書室で、ハリーの言葉に大粒の涙を零しながら言った台詞。
『有り難うハリー、私とっても嬉しかった!』夏季休暇の初めにホグワーツ特急の入り口脇で、とびきりの笑顔と共に言った台詞。

「悪い子じゃないさ――彼女、グリフィンドールに入りたいって思ってたんだ」
 あら、そんなこと言っていたかしら。ハーマイオニーがハリーの言葉に首を捻ったが、ハリーは聞いていなかった。
 頭の中で組み分け帽子の台詞が木霊する。『君は偉大になれる可能性があるんだよ。そのすべては君の頭の中にある。スリザリンに入れば間違いなく偉大になる道が開ける……』

 ハリーはスリザリンが嫌だったからグリフィンドールに入った。何かを強く望んだわけではなく、ただ嫌だとしか思わなかった。
『私、組み分け帽子には何処でも好きなとこへ入んなさいって言われましたわ』

 ――彼女は何故グリフィンドールへ入ろうと思ったのだろう。
 輝くように笑うダリルが望んだものが何だったのか、ハリーはとても気になった。
 

素晴らしい休日

 
 


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