七年語り – CHAMBER OF SECRETS
07 片羽根の独占欲
「リー!」
人ごみのなかへ紛れて十分は流されただろうか。視界に馴染みのあるドレッドヘアを見つけたダリルは声を張り上げた。フレッドとジョージも「おーい」と呼ぶ。彼らは人ごみから頭が出ているから、叫ぶ必要がないのだ。ダリルはすっかり人の波に埋もれている。フレッドとジョージがダリルをしっかりと掴まえていなければ、今頃はノクターン横丁あたりまで流されていたに違いない。
リー・ジョーダンはちょっと周囲をキョロキョロ見てから、赤毛を頼りに三人のところまでやってきた。
「ダリルの声しなかったか?」
リーも背が高い。
大気圏で会話する三人の真ん中でダリルはぴょんっととび跳ねた。「踏み台を持ってくるべきだったわ!」もう一度ぴょんっ。
「今何か……何かがとび跳ねたよな」リーが目を見開いた。
「トビウオの一種だろ」
「私はいつから魚類になったのかしら」
ダリルはぴょんぴょん飛び跳ねながら憤慨してみせたが、三人はケラケラ笑うだけだった。
ダリルの背延びについて嫌と言うほど笑った三人は、膨れつらのダリルを宥めながら再び歩き出した。
「ダリル、夏休み如何してた? 手紙の返事くれないんだもんなあ。今日は蛇連れてないの?」
「うーん。多分死んじゃったの」
リーがはーっと深いため息をついた。
「へーえ! もったいないなあ。赤い目で鱗が黒なんて滅多にあるもんじゃないぜ……」
タランチュラやら毒蛇やら不穏な生き物ばかりを好むリーと、子猫や子犬を好むダリルとは動物関連の話で盛り上がった試しがない。
「私、リーが魔法動物ペットショップ開いても絶対に行かないわ」
ダリルはうんざりしたように首を振った。
フレッドとジョージの夢は悪戯専門店を作りたいということだったが、リーはリーで彼らと同様将来は店を持ちたいと考えているようだ。尤も「DJなんかも良いな」と言っているので、十四歳相当に将来の夢は無限にあるという感じだった。
将来の夢というものについて一度も思い馳せたことがないダリルにとって、夢を語る三人の姿はなんだか眩しい。しかしそれとこれは別問題であり、例え友達がやってる店だったとしても、蛇がうじゃうじゃいるようなところには行きたくない。
「どうせだったら可愛い子猫を一杯扱えばいいのに。そっちのほうが絶対に流行るわ」
ダリルが口を尖らせて言うと、リーは肩を竦める。
「そう、今じゃどこのペットショップ覗いても猫やら鼠やらカエルばっかりだ。だから蛇とか蜘蛛を扱った方が逆にお客を呼びやすい」
「そういうもの?」
「そうさ。ダリル、そういうことを思った事ない? これだけ一杯店があるなかで残る店と潰れる店があるのって不思議だろ」
ジョージが年長者らしい噛み砕いた言葉で話してくれたが、ダリルにはリーの言ったことがよくわからなかった。蛇なんて飼いたがる人いるんだろうか。例え純血思想のスリザリン寮生であっても人間だ。飼うなら可愛いもののほうが良いに決まっている。
それにリーの言っていることと、ジョージの言っていることは如何関係があるんだろう。
よく分からなかったが、ダリルは一応「んー」と洩らしながら考えてみた。
「そうねえ、競合店がある場合は古い店のほうが残るんじゃないかしら。長くやってればそれだけ贔屓にしてくれる常連客が多いもの」
そう言った瞬間リーの向こう側からフレッドが顔を出した。
「ち、ち、ち……全く分かってないね」
「競合店が超のつく老舗だったって、新しい店が生き残る術ってのはあるんだぜ」
ジョージがダリルの顔に指を突き付けて言った。
「最初はまず隙間を見つけることだな。数件の店で取り合うには客の数が少なすぎて、かやの外って商品を見つけるのさ。あとはサービスとか……兎に角コツコツ、他の店との差を作っていくってことだな」
「それで固定客が増えてきたら徐々にメジャーな商品を置いて行く」
フレッドとジョージの瞳がキラキラしてきた。いつもは人でなしに碌でなし、問題ばっかり起こしているトラブルメーカーだけど、時々こんな風に真剣な話をしている二人のことはちょっとカッコイイかなと思う。リーも同様だ。普段おどけてばかりの三人だからこそ、真面目になると凄く良く見える。ダリルのことなど忘れ、熱心に商売について語り出す三人へダリルはクスクスと笑みを零した。
マグルの学校には経済学部があるらしいとか、ちょっと潜り込めないかなとか、魔法界で経済学が発達しないのはやっぱり魔法が関与してないからなのかなとか、とりとめもなくダリルのよく分からない話題で盛り上がる。
黙って聞いているのも楽しいけど、ずっと無視されるのもそれはそれで寂しいのだ。三人が目指す店のものらしいけばけばしい看板を目にしたダリルは三人の会話に割って入ることにした。「私はトビウオと違って喋れるってのを忘れないでよね」
「わかったって。今度下働きさんにも分かりやすいように教えてやるからさ」フレッドがにやっと笑った。
「せめて雇われ店長にぐらいはしてくれなきゃ」
「支店が出来たらな」ちょっと現実的なジョージは本格的にダリルを雇う事を視野に入れているようだ。ダリルは嬉しくなった。
「ああ良かった。これで今年は試験の結果を気にせず、貴方達と遊べるってわけだわ」
「よく言うよ、五位さんが」リーがからかうように言った。
「あら、貴方達……は、如何だか知らないけど」
「なんだその間は」ダリルはジョージの文句に答えなかった。
「一年時の試験結果って殆ど皆似たりよったりよ。私は六位の子と三点差だったし、十位の子とは七点差よ。飛びぬけて凄いのってハーマイオニーだけだわ」ダリルはふーっと感嘆の息をついた。「彼女ってすっごく素敵よね?」
「そんなに好きなら俺達にじゃなくて、ハーマイオニー本人に言ってほしいよ」
フレッドがやれやれと首を振った。
「ン? ダリルはまだハリー達と仲良くなってないんだ? フレッド達とベラベラ喋ってるから、もうすっかり仲良くなってるものと……」
「ウーン、なんていうか、上手く……その、タイミングが掴めなくって」
リーの問いかけに、ダリルはふいっとそっぽを向いた。
ハリーにミス・レターの正体を打ち明ける機会は完璧に失ってしまった。それに、ハリーの傍にはハーマイオニーとロンがいて、今更自分がちょっと仲良くなったところで何が如何なるのだろうという思いもあった。もう嫌われていないことは分かっているのだから、それで十分じゃないかという気持ちもある。ハリーにはハーマイオニーとロンがいるし、自分にはフレッドとジョージがいる。
ダリルは隣を歩いているジョージの腕に抱きついた。
「まあ良いの、私は皆にハーマイオニーの話を聞かせるのが好きなのよ」
「良い迷惑だぜ」
「その内世界中にハーマイオニーって女の子の伝承が出来るだろうな。ハーマイオニー、その娘は五億単語の本を一瞬で読み終わり、癒術に長け、世界に知らぬ薬草はないほどの知恵者であり、後の世では癒術の神とかになってるに違いないね」
フレッドの台詞にジョージとリーは吹き出したが、ダリルはツンと済ました顔をしていた。
「ハーマイオニー神殿第一号は貴方達の部屋に作ることにしたわ」
「良いぜ。来年は是非とも遊びに来てもらわなくっちゃな」ジョージが茶目っけたっぷりにウインクして見せた。
四人は笑いながらギャンボル・アンド・ジェイプスいたずら専門店の扉を潜った。
お世辞にも広いとは言い難い店内を圧迫する巨大な棚には、ありとあらゆる悪戯グッズがギチギチに押し込まれていた。四人は時折――というより常に人とぶつかりながら棚沿いを横ばいで移動する。ふくふくと太った子供が友達らしき少年へ自慢げに悪戯グッズの説明をしているのを見たジョージが「あんな子供の頃から糞爆弾なんて使うもんじゃない」と眉を顰め、フレッドが「僕らが子供の頃は何かを爆発させるのに、既製品になんて頼らなかった」と頷いた。一瞬ジョージを見直しかけたダリルはモリーの苦労を思い、心を痛めた。
「貴方達、あんなに良いお母様なんだもの。もっと大事にしたほうが良いわよ」
「勿論さ!」ジョージが心外だとでも言いたそうにダリルを振り返った。通りを歩いていたときと同じ並び順で、今は縦に進んでいる。
「ま、俺達の店が軌道に乗ったらママも大喜びだろうよ……家に風穴を開けさせ続けた苦労が報われるんだから」
そもそも風穴を作らなければ良いのにとダリルは思ったが、悪戯は彼らのライフワークだ。
嬉々として糞爆弾をカゴに放り込む三人を見て、ダリルは様々な事を考えた。「ダリルも買えよ」右隣にいるリーが糞爆弾を手に取ろうとしないダリルを可笑しなものでも見たかのような顔で見ている。
「新学期になったら、フィルチを引きつける役は当番制にしましょうね」
沢山のことを考えたが、一番に出てきたのはこれだった。「お前専用のファイルを作らねばならん」とフィルチが唸ったことをダリルはまだ覚えていた。
「俺達、君のためを思って生贄役を押しつけてるんだぜ?」
フレッドがダリルを宥めるように言った。
「そうそう。リーの大声で人が寄ってきてさ、そんときにダリルお嬢様がフィルチの口一杯にドクター・フィリバスの長々花火なんて突っ込んでてみろ……」ジョージはドクター・フィリバスの長々花火――火なしで火がつくヒヤヒヤ花火をうっとり見つめている。
蛙卵シリーズ(石鹸、ヌガー、花火、ドリンク、クラッカー等々)をかたぱしからカゴに放り込んでいたリーがジョージの台詞に反応した。
「それ面白いじゃないか。やってみようぜ。人を集めるのは任せてくれよ! これならダリルも花形で、バッチリ気に入るだろ?」
「そんなことするぐらいなら永遠に下働きで、落とし穴でも掘ってるほうが良いわ!」
この四人が悪戯をする際にダリルへ押しつける仕事というのは、生贄役の他に、(ジョージが言うには最も大事で、その出来により作戦の成功が掛かっている)落とし穴作り、(フレッドが言うには肝心要の)ターゲットの行動範囲の調査係、そして(リーが言うには計画の花形である)紐を張ってターゲットを転ばせる係などだ。
「やったな」フレッドがヒューッと口笛を吹く。「ダリルが、フィルチが出てこられないぐらい深い穴を掘るってよ」
「えーえ。掘れたとしたら、一番に落とすのはフレッド、貴方だわ」
棚からごっそり消えていく糞爆弾の行方を思って、ダリルは深いため息をつくのだった。
ポケットに一杯の糞爆弾を買った三人と、結局何も買わなかったダリルは、ギャンボル・アンド・ジェイプスいたずら専門店を出た向かいにあるアイスクリームパーラーでアイスクリームを買い(ダリルはピーナッツバターのアイスクリームにした)、ぶらぶら通りを歩きだした。
アイスクリームが然程大きくなく、一段のものなのは、四人一様に手持ちのお金が少ないからだった。ダリルはそもそも現金を持ち歩かない性質だし、他の三人のお金は全部悪戯グッズに吸い上げられている。三人にとっての一大イベント、悪戯グッズの仕入れが終わってしまえば、あとはすることも買うものもない。四人はウインドーショッピングなんかで暇をつぶしていた。(ダリルはあのマネキンがある通りへ三人が行かないよう必死にガードしていたので、結構忙しかった)
「お前ら待ち合わせまであと二十分あるんだろ? 次は箒でも見に行くか」
こんな隠居老人のような時間の過ごし方は勿体ないと思ったのだろう、リーがチョコレートのアイスクリームを舐めながら提案した。
「待って」
コーンを齧る口を止めて、ダリルが口を挟む。「ドラコとお父様も今日箒を見に行くのよ」何とも言えない顔で呟いた。もしもルシウスに四人で一緒にいるところを見つかったら、ホグワーツに戻れないどころの話では済まなくなるに違いない。
フレッド達と合流してからもう四十分が経つ。ダリルがナルシッサのところを離れてからは、もう一時間ちょっとだ。
「あー、そうか」リーがちょっと残念そうにぼやいた。
「ごめんなさいね」
申し訳なさそうにダリルが眉尻を下げる。いちごのアイスクリームを舐めていたフレッドがダリルの頭をぽんぽん叩いた。
「良いよ。俺達だってあいつらとは遭遇したくねーもんな」
「ま、そんな超面白いってことじゃあない……」
アイスのコーンを口に放り込んで、ジョージがオブラートに包んだ言葉を洩らす。
「まだ親父さんは俺達が嫌いなの?」
リーは父親がアフリカ系の人で、イギリス魔法界のことに疎いからか、アーサー・ウィーズリーとルシウス・マルフォイの確執をよく分かっていないようだった。だからして去年一年リーがダリルを遠巻きにしていたのは「陰気っぽかったから」という単純な理由に起因する。
そんなわけでリーは今日もよくわかっていないんだなあと思わせる呑気な台詞を口にしていた。
「俺達と喋ったらホグワーツに戻さないだってよ」
「ほんとにヤバかったら俺んち来ていいぜ。母さんが喜ぶだろうよ。娘が欲しかったって俺を突きながらいっつも言うんだ……」
「リーが女の子だったら随分カッコよかったでしょうね」
漂い始めた気まずさを誤魔化すようにダリルが微笑んだ。
「今はどうなんだ、今は」
「ちょっと気の良いお兄さんって感じ」
「やれやれ、今のままでカッコイイ我々とは大違いじゃないか」
「貴方達はカッコいい以前の問題な気がするわ……」
勝ち誇ったように宣言したフレッドに向かって、ダリルがさらっと棘を送る。ジョージが変な顔をした。
「待った、待てよ、まさか俺とフレッドを一纏めにしちゃいないよな?」
「碌でなしも人でなしも殆ど同じようなものじゃない」
「なんだよそれ」
「フレッドのほうが人でなしで、ジョージのほうが碌でなしだって思ったから、二人の区別つけるときにはそれで判定してるの」
「そりゃいいや! これでもう“どーっちだ”に悩まされないで済む」リーがばんざいをした瞬間、チョコレートのアイスクリームが道の端で寝ていた犬の上に落ちた。
人間スピーカーに伝わったということは、もうホグワーツ中に広まったも同然だ。
「俺達の楽しみをダリルが奪っていく」ジョージが嘆いた。どっちが自分か当てるよう人に強いるのも、古くから続く二人の楽しみだった。
「あら。フレッドのしたことでジョージが叱られずに済むのよ。大いに歓迎するべきことじゃない?」
「相棒、そろそろトイレトレーニングをしたって良い年だよな?」
ジョージはダリルの台詞であっさり寝返った。
勿論どっちだって要領の良さも、ちゃらんぽらん加減も同じなのだが、それでも人でなしのほうが逃げ足は速い。ジョージの台詞にフレッドが頬を膨らませた。言葉に出来ない焦燥感のようなものを感じて言葉がキツくなる。
「自分の尻ぐらい自分で拭くさ。お前が俺の尻と自分の尻の区別を付けてないだけだろ」
ジョージがその台詞に気分を害したのがフレッドには分かった。
だから、ちょっとほっといてくれたって良いのに。フレッドとジョージはほんの少しそんなことを思った。ダリルのことは勿論嫌いではないし、一緒にいて楽しい。しかし時々カチンと来ることを言ったり、今までずっと――少なくともダリルを仲間に入れるまで――二人きりで上手く行ってた関係がダリルの些細な台詞で崩れたり、動揺して、喧嘩しそうになってしまうことが何度かあった。
青空の下、四人の間に暗雲が立ち込めかけたのを、軽やかな笑い声が遮る。
「ほら」
ダリルがブルーグレイの瞳を悪戯っぽく輝かせ、変な顔をするフレッドとジョージのほうを見ていた。
「フレッドのほうが人でなしだわ」
そういう酷い事を言って、クスクス笑う。なんだか邪気を抜かれてしまって、二人はもう一度顔を見合わせると、頬を掻いて、ダリルへ抱いた爪の先ほどの悪意を忘れようとした。
「俺たちゃ別にフレッドがこうだ、ジョージがああだなんて、区別付けて欲しいなんて思っちゃいないんだけどな……」
それでも中々忘れきることは出来ないものだ。フレッドがぽつんと零した台詞にジョージは眉を顰めたが、ダリルはまるで気にしなかった。アイスのコーンが入っていた袋を畳みながら、人ごみのなかで誰かを探して、ダリルの視線が動く。あっという間に、瞳に満ちていた輝きはくすんでしまう。この四十分で三人はその一連の動きを幾度見ただろう。
「でも、付くものよ。双子でも別個の人間なのだから」
探し人が見つからないのだと三人には分かっていた。こんなに多くの人が行き交い、偶然の再会を期待出来る場所で、なのにいなかったのだ。彼女は視線を宙に溶かし、焦点の定まらない瞳で尚も遠くを見ようとしている。
「一緒に生まれても、一緒に死ぬことは出来ないわ――結局人は一人で死ぬし、誰かを置いて逝くのよ」
ダリルは夢を語ったことのない唇で死を語る。その声音には何とも壮絶なものがあった。
傍らにあるはずの雑踏が遠く、ダリルを中心に静寂が満ちていく。それを如何すれば良いのか三人が持て余す中で、唐突に明るい声を出したのはダリルだった。「だけど双子って得ね! 他の人が一人で生まれてくるなかで、最初から絆を持って生まれてくるもの」
先までの瞳が、声音が、何もかも嘘だったかのようにクスクス笑いながら呟いた。
「……そういやダリルも双子だったっけ。マルフォイとは似ても似つかないよ」
リーがコーンを伝い、指に垂れてきたクリームをぺろっと舐める。
「男女の双子よ。そんなに、フレッドとジョージのようには行かないでしょう」
「ふうん。男女の双子は前世で心中した恋人同士の生まれ変わりなんて言うよな」
茶化すように言うと、フレッドはアイスのコーンをパリパリ食べ始めた。
「そうねえ、それに近いものはあるのかもしれないわ」
「でも、そういうの聞いちゃうと、ちょっと、双子って良いよなあって思うよ」
「リーは代わりに友達が一杯いるし、愛してくれる家族がいるなら双子や女に生まれなくとも幸せじゃない。それにねえ、」一呼吸置いて、急にダリルが真面目な顔をしてみせた。「それに、女だったらフレッドかジョージと付き合うことになっていたかもしれないわ」
「エチケット袋持ってるかしらん?」リーがしなを作って、ダリルに耳打ちした。
「おーい、聞こえてるぞ」
「モテモテな俺達を捕まえて何を言うんだか……」
ファサと前髪をかき上げるフレッドを見て、ダリルが吹き出した。
「いやね、それってロックハートの真似?」
「色男なとこが似てるだろ? ママが大ファンなんだよ」
「それで思い出したわ! 本屋に行って、ロックハートのサイン会に並ばないと!!」ダリルがポンと手を打った。
「なーる。お袋さんが本屋に来いって言うわけだ」
「ひょっとしてハーマイオニーも、それで今日にしたんじゃないか?」
「あの才女があんな馬鹿馬鹿しい本読むわけないって。ダリルだって読んでないだろ?」
「読んでるわ」
これにサインして貰うのよ。ダリルが取り出した「バンパイアとバッチリ船旅」を見つめたまま、三人は暫し馬鹿面を晒していた。
七年語り – CHAMBER OF SECRETS