七年語り – EXTRA STORY
わたしのすきなひと
私の好きな人は何でもできる人です。運動も勉強も得意で、ハンサムで、しかも優しくて、友達も沢山います。ついこの間から付き合い始めましたが、すぐに勉強を怠けたり、運動神経が切れていたり、我儘で、人望に欠ける私には勿体ないような人です。
付き合っていることを内緒にさせてごめんねって言っているけれど、本当は少しホッとしてます。セドリックのことを独り占めしたいなと思うときもあって、他の女の子と一緒にいるとむっとすることもあるし、この人は私のなのよと言いたくなることもあるけど、それは多分したらいけないことだと思うので、皆が知らないのは良いことだと思います。きっと皆が一歩引いたら引いただけ、セドリックと皆の間に空いた空間を私で埋め尽くしてしまうと思うから、ほんの少しの人しか知らなくて良い。如何してこの子はセドリックに付きまとうのと言われているぐらいで、きっと丁度いいんです。セドリックは優しいから、周囲に関係が知れたら自分の感情よりも義理を通すでしょう。
だから他人のそれよりも曖昧で良い。気持ちだけで繋がっていてと望んだから、気持ちが無くなったらすぐに離れて構わない。私は我儘で、無神経で、人を振り回してばかりだから、セドリックが少しでも私より好きな子が出来たら離れてってくれれば良いと思います。
『……その子供は、君がどんなに尽くしても応えない』
私は我儘で無神経だけど、なるべくセドリックのことは振り回したくないなと、思っているの。
でもセドリックを振り回すのは私だけじゃありません。ジョンとかいつも一緒にいる人たちはそれほどじゃないけど、顔見知りぐらいの仲の人からよく色々押し付けられてます。よくないと思います。よくないと思うけど、セドリックから「手伝おうか」とか申し出ているので、よくないと思うのとは言えません。というか言っても言いくるめられてしまいます。セドリックが言うと「そうなのか」と思ってしまうので、とてもよくないと思います。セドリックはとても良いです。でも説得力とか、人を無理に納得させるのはとてもよくないと思います。クィディッチ・チームのキャプテンだからと言って、練習で怪我した選手の板書を手伝う必要はありません。僕の指示が間違ってたからとか言ってましたが、ウッドだったら選手の背をバシっと叩いて「次の練習の時までに治しておけよ!」と言うだけだと思います。というか言ってました。フレッドとジョージがぎゃあぎゃあ喚きながらアンジェリーナにノートをせびってました。ええと、これはウッドが大らかだとか大雑把だとか面倒見が悪いとかではなくて、その、別に良いんだと思います。セドリックが頑張らなくて良いんです。セドリックだって自分の勉強があるだろうし、箒磨きとか、読書とか、教授たちに質問しにいったり、友達と話したり、基礎トレーニングとかもしてるし、したいだろうに、自分の時間を削って一生懸命しなくても良いのになって思うんです。でも、そういうところがとても好きです。
人から頼られたり、頼まれたりしてるセドリックは少し嬉しそうです。私は自分の時間が減ることの何が楽しいんだろうとか、そんな風に思ってしまうのだけど、嬉しそうにしているセドリックは可愛いです。自分の時間を削っておいて、他人に押し付けることもないセドリックは天使のようだと思います。セドリックほど他人に気を遣わせない人を私は他に知りません。それとなく人の罪悪感を解くのがとても上手で、だから色々な他人から何度でも頼まれごとをされます。それで頼みごとをした方もセドリックのことを利用するでもなく、心から申し訳なさそうにしたり、有り難がって、いつでもセドリックの助けになるよと笑います。セドリックに嫌がらせを出来る人はいません。
セドリックは最近勉強をする時に眼鏡を掛けます。遠くはよく見えるんだけど近くがねと言っていたので安心です。眼鏡を掛けているセドリックは可愛いです。レポートを書いていると、普段高見にある頭が手の届く位置にくるので触りたくなります。集中力があるので、セドリックは何も言いません。ポスポス触ってもレポートを書いています。内容は難しくてよくわかりません。ハーマイオニーならセドリックと常に有意義な議論を交わせるのでしょうが、私は得意不得意に幅があるので、話せる教科とそうでないものがあります。というか話せる教科でもセドリックに教わってばかりです。二歳年上というだけで、こんなに違うというのは不思議な感じがします。いつも一緒にいるフレッドとジョージが勉強の話をしないからかもしれません。あの二人はあの二人で頭がいいけど、やってることがやってることなので賢いという風には感じません。そんなことを悶々と考えながら頭を撫でていると、セドリックが顔を上げます。困ったように笑いながら「ちょっとくすぐったいかな」と言うので、大人しくセドリックを見るだけにします。一度集中が乱れると中々集中出来ないらしく、チラっと私の方を見てくれます。困ってるのが可愛いです。もう一度頭に触ろうかなと手を伸ばすと、大体避けます。「如何して避けるの」って言うと、「いや、髪ぐしゃぐしゃになるから」と言うので、次から櫛を持っていくことにしました。大人しく触らせてくれるようになりました。
セドリックの髪質は少し硬くて、触っていると大型犬を撫でているような気分になります。早くまた素手でワシャワシャ出来るようになりたいです。「頭の形が撫でやすくて可愛い」って言うと、「なんで女の子は何でもかんでもすぐに可愛いって言うかな、もう」って言って少し顔を赤くします。困ってます。可愛いです。「私は、男の子ではセドリックにしか言ってないもの」って言うと顔を押さえて俯いてしまいます。触れたら引っ付いて無理にでも顔を覗き込むのだけど、今は無理なので悔しいです。時々セドリックが「厄介背負ってると、少し大人しいよね」って爽やかな笑顔で言ってます。誕生日になったらお父様にマジックハンドを買って貰おうと思います。
困ってるセドリックが好きです。だからセドリックの負担にならない程度に困らせたいです。
少し難しい顔をして、考え込んでる時のセドリックも好きです。
人といるときは凄く柔和に見えるけど、一人でいる時や黙ってる時は凄く気難しそうです。いつだったか中庭に人だかりが出来ているのに何かと近づいたら、真ん中でセドリックが寝てました。世にも不愉快そうな顔で唸ったりしているのは、実際怖いと思います。ハンサムな分一層怖くて、周囲でヒソヒソと起こすか放っておくかの議論が交わされてました。その時間、四年生は授業があったはずなんです。自由時間だったのは二年生以下だけで、だから自主的にサボってるのか、鐘に気付かず寝過ごしてるのか判別がつかなかったんでしょうね。皆がヒソヒソやってるなかで一人唸ってるのが面白くて、最初は我慢していたのだけれど「それは……だめだよ……」と呟いたのに噴き出してしまいました。夢の中でも真面目なのねと思ったら笑いが止まらなくなってしまって、最終的に私の周りからも人がいなくなりました。「えっなんで笑ってるのこの人」みたいな目で見られても、笑いが収まりません。そうこうする内にセドリックが私の笑い声で起きました。私の姿に「え、ダリル? なん、だんしりょ」とか狼狽してから、周囲を見渡して真っ赤になってました。授業をサボったのは久しぶりだったみたいです。起こさなかったの怒られるかしらと思ったけど、私よりもジョン達のほうが罪が重かったようです。そりゃそうよね。三人は手遅れにさせないことが出来たのだから。それで三人は三日もセドリックから口を利いてもらえませんでした。
起こさなくてごめんなさいって謝ったら、良いよって言ってくれました。「僕も次は起こさないね」って笑うので、ちょっと怖いなって思います。でもちょっと怖いセドリックも好きです。「セドリックが怒ると、子猫が威嚇してるみたいね」って言うと、「僕と君の抱く子猫像には若干の差異があるみたいだね」って真顔で言います。好きなものが威嚇してるのは、怖くありません。
セドリックはドラコにも少し似てます。何だかんだ我儘を聞いてくれることとか、たまに口うるさいところとか、お説教してくるところとか。ドラコに言われるとつい言いかえしたくなります。でもセドリックに言われると納得します。あとドラコにもセドリックにも飛びつきたいけど、キスしたいのはセドリックだけです。セドリックに褒めてもらうとドキドキします。ドラコはそもそも滅多に私を褒めません。ドラコ可愛いです。間違えました。セドリック可愛いです。ドラコも可愛いです。「思う存分独り占め出来るから、二人兄妹で良かったわ」って言うと、セドリックが「ひょっとして僕要らない子?」って呟きます。セドリックがお兄さんだったら凄く良いなあと思うけど、血が繋がってたらキス出来ないのでお兄さんなセドリックは要りません。そう言うとセドリックが赤くなって俯きます。なでなでチャンスです。割と最近はブロックされます。俯きながら「その……お兄さんと本当、仲、良いよね」とモゴモゴ言いだします。「いや、それだけなんだけど」と、小さく手をパタパタ振ります。可愛いです。可愛いけど、フレッドやジョージとのことを疑われる前に双子の兄との仲を疑われる自分がどうしようもないと少し冷静になってしまって、素直に可愛いって思えないです。「セドリックもあの人と仲良いわよね」って言うと固まります。可愛いです。
時々セドリックは「ジョンと僕、どっちが好き」と見え透いた質問を口にします。ジョンって言う確率は一割もありません。そういう九割の質問を口にします。絶対に、ドラコやフレッドやジョージやハーマイオニーなんかの名前は口にしません。当たり前に「セドリックのほうが好き」と言います。私の答えにホッとするセドリックを見ていると、私は酷い子だなあと思います。セドリックが自分を選んでくれた幸運を、私はよくよく分かってます。でもセドリックは、私ほどではないのでしょう。幾度好きと言ったら、不安が晴れるのかなと馬鹿げたことを考えます。本当は、嘘でもその場しのぎでも“貴方が一番好き”と言えば良いと分かってるのに、私は言いません。
頭がいいところが好き。クィディッチが得意なところが好き。ハンサムなところが好き。優しいところが好き。皆から信頼されているところが好き。義理堅いところが好き。お人よしなところが好き。他人に気を遣わせないところが好き。真面目なところが好き。少しうっかりしてるところが好き。大人っぽいところが好き。ちょっと硬い髪質が好き。困ると苦笑いするところが好き。照れると顔を隠すところが好き。考え事すると不機嫌そうな顔になるのが好き。それを指摘されると少し落ち込むところが好き。頭が良いのに変なところで抜けているところが好き。意外と男友達には乱暴なところが好き。本音が顔に出やすいところが好き。私にそうからかわれて、嘘をつこうと頑張るところが好き。結局すぐにバレて悔しがるところが好き。お説教してくれるところが好き。ちゃんと注意してくれるところが好き。ドラコに嫉妬するところが好き。やましいことなんてないのに、それっぽいこと言われるととりあえず焦るところが好き。誠実なところが好き。口にする台詞のひとつひとつが好き。クィディッチの話になると活き活きするのが好き。私の台詞を待ってくれるのが好き。だけど、私が嘘ついても追及しないところが嫌い。私のこと責めないところが嫌い。結局許してしまうところが嫌い。九割の質問をするところが嫌い。嘘。好き。
セドリックの灰色の瞳に映ってる私が好き。セドリックと一緒にいるのが好き。セドリックの温度が好き。
ごめんなさいって、思います。私は我儘ね。それに考えなしの、偽善者で、無責任な人だと思う。というより馬鹿なのだと思う。でもね、もしもセドリックに好きって言った後でも、きっと私はトムへ同じことを言う。馬鹿だから。必要とされたら、応えたくなってしまう。
――傲慢だから、他人の幸福を自分の物差しで測ってしまう。
嘘ばっかりでごめんなさい。隠し事ばっかりでごめんなさい。貰ってばっかりでごめんなさい。寄りかかってばっかりでごめんなさい。子供でごめんなさい。一番だって言えなくてごめんなさい。セドリックには私がいなくても良いなんて少しでも思っててごめんなさい。そう思ってるのに引き留めてごめんなさい。結末のある未来があって、ごめんなさい。
そう口にするのはもっと残酷で身勝手なことだ。
「手の届く範囲のなかで、セドリックが一番好きよ」
本しかないじゃないかと笑うセドリックに、私は羽根ペンと結婚した魔女の話をする。そうやって時間が過ぎて、セドリックのレポートは未完成で、一日が終わる。同じことを繰り返したい。千九五回繰り返して、もっと繰り返して、そうして未来を過ごしたい。
貴方が世界で一番好きだと言える未来に暮らしたい。
七年語り – EXTRA STORY