七年語り – EXTRA STORY
気に食わない食卓

 

「父上も母上も、寝るまで帰ってこないって本当だろうな」
「きっとよ。だって、今日はグリーングラスのおじさまが来るって仰ってたもの。お父様が酔い潰れるまで帰してくれないと思うわ」
「そうか……」
「ドラコにグリンピースの煮たのあげるわ」
「自分で食べろ」
「ドラコ、食事中にどこへ行くと言うの」
「庭木の手入れをしてくる」
「お皿を持って? 埋める気でしょう。そのグリンピースと、ニシンの燻製」
「母上の薔薇園を美しくするためだ」
「そんなの植えたら薔薇のつぼみからニシンの尻尾が生えてくるわよ」
「お前だって、その、脇に広げたナプキンは何だ」
「フ、フローにやるのよ。フローのおやつよ!」
「犬がグリンピースやニシンを食べるなんて聞いたことがないぞ」
「ニシンは肉の仲間よ。魚の肉だもの、犬は肉が好きなのよ」
「牛かブタ、もしくは鶏のな」
「私、もうお腹いっぱいで食べれないわ」
「殆ど出て来た時と同じじゃないか」
「ドラコだって、ジャガイモを突いたぐらいじゃない。ニシンの味がジャガイモについてて、嫌なの」
「パンも食べてない」
「今日はパンを食べたい気分じゃないの。コーニッシュ・パスティが食べたいわ」
「昼も全然食べなかっただろう」
「お父様とお母様がいないのよ。ねえドラコ、無理に食べなくたって良いわ」
「馬鹿言え、お前の偏食を許したのが知れてみろ。父上に叱られるのは僕だ!」
「何よ、今日の夕飯をそっくり庭に埋めたことでは叱られないって言うの? お母様が良い養分になると喜んでくれるとでも思っているのかしら。そんなら、私だってシャベルを持ってくるわ。お昼に出た、インゲンの煮たのとハムも埋めたい」
「まさか、お前」
「だって全部残せば屋敷僕が告げ口するに決まってるわ。フローが、食べてくれなかったの」
「それは何も食べなければ、報告するに決まってるだろう――おい、お前今朝から何を食べて生きてる」
「紅茶を飲んだわ」
「何も食べてないってなら、そのグリンピース全部、お前の口に突っ込むからな」
「……えい」
「ナプキンに移すな! あーあ、もう食べられないじゃないか。まあ、別に良いさ。僕のグリンピースがある。ほら、早く言うんだ」
「クッキーを食べたわ。あと、デザートのトライフルをつまみ食いしに行ったの」
「菓子だけでエネルギー補給する奴があるか。ただでさえお前の取り柄なんて顔ぐらいなんだから、何か真っ当な栄養を取らないで如何する。肌が荒れるぞ」
「お父様とお母様が帰ってきたら食べるわ。ドラコだって、そうでしょ」
「それは……残せば母上がお怒りになるし……」
「お母様、自分の嫌いな茄子は絶対食卓に並べないのに」
「まあ、母上がメニューを考えているわけだから」
「お父様なんて、朝ごはんの度に何か一口でも食べなさいって言っていたけど、そう言う自分はコーヒー啜ってるだけなのよ。酷いわ」
「父上も母上も大人なんだ。成長期の僕らの体とは違う。それに、お前も朝食をとるようになって分かったと思うが、何か食べた方が頭が動くだろう」
「もう寝るだけだもの、頭なんて動かなくて良いわ。トライフルを食べましょう」
「僕は、」
「庭へ埋めに行く?」
「……僕も、もうデザートで良い。お前のナプキンに、グリンピースとニシンを入れさせてくれ。これだけ減ってれば告げ口もされないだろう」
「フロー、これ食べるかしら」
「庭に埋めれば良い。天文学の宿題も、まだ終わってないしな」
「そうね。私、あとは星座図を描くだけよ。それにしても、今日は酷いわ。ちっとも食べられるものがないなんて」
「トライフルは食べられるじゃないか。それに、昼食でもケーキが出た。ケーキは好きだろう、何で口をつけなかったんだ?」
「ご飯の前に、クッキーを食べすぎたの。ほら、早く移しちゃって」
 

気に食わない食卓

 
 


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