七年語り – EXTRA STORY
男親の無礼講
「貴様に付き合ってると……肝臓が幾つあってももたん」
「ルシウスが下戸なだけじゃないかい」
「五月蝿い。貴様がザルなんだ――大体、ミランダはどうしたのかね。いつもなら止めてくるだろう、遂に逃げられたか。良い気分だ」
「今にも吐きそうな顔で? 娘たちとフランスに行ってる。君こそ今夏はどこにも行かないの? まあ先年もその前も、ずっとイギリスにこもってたっけ。君って、家から出て外の空気を吸う事ないんだろうね」
「阿呆が、私はウェールズに別宅を買った覚えはないぞ。しかもこんな狭い家、貴様の趣味は実に悪いな」
「僕の家は魔法省だよ。我が家のインテリアコーディネーターは妻だ。君の家だってそうだろう」
「ナルシッサの趣味は良い。あれは目利きの才能があるんだ。だからか、ドラコも美術品の鑑定を得手としている」
「へえ。父親たる君は、学生時代ガラスの指環を五十ガリオンで買わされたのに」
「当時付き合ってた女が買え買え五月蝿かったんだ」
「僕なら似たデザインのを適当なとこで買ってくるのに、そういうとこだけはあれだよね。馬鹿なのか」
「なんだなんだ、君達。こんなところでこっそり楽しんでたのか」
「ああ、サイラス。二週間ぶりだな」
「ルシウス、奥方は帰ったぞ。それに、その台詞は出会いがしらに聞いた」
「……は? まだ十時にもなってないというのに、さては誰かと喧嘩したのか」
「酔ってるんだ」
「見れば分かる。ダラス、ルシウスに何杯呑ました。笑ってないで、答えろ」
「ファイアウィスキーを七杯は煽ってたかな。僕は途中からはちみつ酒に変えたんだけど、ルシウスは気づかなくってね。ほら、負けん気が強いから」
「昼間か」
「真夜中の二時だ。ナルシッサは、帰る前に顔を出していったんだろうな」
「ああ。彼女、酒の匂いが嫌いだからなあ。ちょっと覗きにきたけど、酷い顰め面で帰って行ったよ」
「サイラス、ダラス、馬鹿にするな……幾ら何でも、時計ぐらい読める」
「公私の区別をきっちりつける癖で、これだけ後悔したことはないよ。ルシウスにサインして欲しい書類が山とあるのに」
「ルシウスを潰せるのは君ぐらいだな。どれ、私もここで呑むか。向こうの連中はルシウスの比ではないぞ」
「あーあ、ミランダがなんて言うかな。勿論“ナルキソスの眠り”は壊れてしまったんだね?」
「酒宴のど真ん中にあるガラス製の像だ。どうなるか想像もつかない君ではあるまい」
「食卓に置かれて邪魔だったんだ。折角ホグワーツから帰ってきた娘の顔を網膜に焼付けようと思っても、それが透明の男性器ごしに見えちゃ顔を背けたくなる。僕は同性愛の気はないからね」
「これだけルシウスに付き纏ってか」
「サイラス、ダフネとアステリアが誰の娘だと思ってるのかな」
「そういえば君に似てないと言えないこともない。おい、ルシウス。ダラス、本当にたった七杯しか呑ませてないんだろうな?」
「ウォッカが余ってたから、少し混ぜたよ」
「ダリルは部屋か?」
「どこへ行くんだ、ルシウス。ここはダラスの家で、君の愛娘は遠く離れたウィルトシャーの空の下で寝てる」
「如何しようか、家まで送る?」
「送ってみろ。この分じゃ、寝てる娘の部屋に入って大騒ぎだぞ」
「良いじゃないか。仮にも親友の娘なのに、僕はダリルの顔も知らない――ドラコに似ていたな、とは覚えてるけど」
「今は全然だよ。ナルシッサに似てきた。会いたいならルシウスにそう言えば良い。言ったところで見せては貰えんがな」
「それは幸いだ。ルシウスに似てたら嫁の貰い手もないだろうから。何、見せてって言ったのかい」
「言った」
「何だって?」
「ダリルは、嫁にはやらん……家に置いておくんだ」
「これだ。それにしても、ザビニ夫人がいないのは幸いだったな。この状態では既成事実を作られかねん」
「面白そうじゃないか。呼ぼうか? きっと飛んでくるよ」
「止めておけ、今はルシウスと穏便な仲でいたい」
「何、悪巧みかい」
「まあ、ルシウスにとってはな――セオドールの嫁に欲しいんだ」
「ドラコを? 君って同性愛に寛容なんだな」
「茶化すな、ダリルのほうだよ。中々に可愛らしい。もう十歳でも若ければ、私が求婚したいぐらいだ」
「……やらんぞ」
「分かった分かった。まあ水でも飲め」
「ダリルはやらんからな」
「ソファに崩れ落ちても尚娘の話題には反応するあたり、凄いよね。でもサイラス、彼女スクイブなんだろう?」
「いや、それがそうじゃあなかったらしい。何でも体質か何かの関係で、発芽が遅かったようだ。そうでなければホグワーツに入学できるはずもあるまいよ」
「ふうん。スクイブ疑惑にグリフィンドール寮生、幾ら可愛くても倍率は低いだろうね。うちにも男がいればなあ」
「同い年の娘がいるじゃないか。ドラコの婚約者だって空席だろう?」
「駄目駄目、ルシウスのところになんて……それはまあ同居はしないだろうけど、正直愛娘をマルフォイ家にやる気にはなれないね」
「ドラコとダリルが……私は、あれらがいるのに、如何して貴様の娘など貰わねばならんのだ。要らん、もって帰れ」
「この酔っ払い、やたら流暢で腹立つな」
「酔っ払いの言う事を真に受けるなよ。ギリーウォーター、どうだ?」
「あれは、前髪を下ろすとナルシッサに似ている」
「貰うよ。昔は酔わすと親の悪口がナイアガラの如く出てきて面白かったのに、結婚した途端これだから嫌になる」
「ああ、君達は同室だったな。うちのセオドールもドラコと同じ部屋だ」
「そんなら、ドラコのほうから紹介して貰えば良いのに。まあ、セオドールだってまだ結婚なんて考えられないか。ダフネだって全然だよ。最近じゃあ僕と口も聞いてくれない」
「そういう年頃だろう」
「ダリルは、私とデートしてくれるぞ」
「言っておくけど、僕だってアステリアとなら毎日でもデート出来る。ダフネは……まあミランダ寄りなんだ」
「どちらにせよ娘がいるなら良いじゃないか。私なんて、早く夏季休暇が終わらないものかとそればかり考えてるよ。どうやらセオドールも同感らしい。今日は遅いからと口にした途端『三日? 一週間? 羽根を伸ばしてきなよ』なんて言うんだ」
「ダフネと同じ反応だね。うちの娘と婚約しない? 上手くいくかも」
「ダリルは寂しいと言う」
「もっとファイアウィスキー持ってこようか」
「ドラコも……父上に、教えて貰いたいところがあったのにと言っていたな。あれらは私のことが好きなんだ、ナルシッサ似だな」
「好き嫌いに遺伝は関係ないと思うんだけど」
「やはり、息子を引き合いに出されると少しばかり苛立つな」
「そうだろう。ダリル嬢が早く誰ぞと結婚して、ルシウスを見捨てれば良いのに。あと五年ぐらい待てばショゲウスが見れるのかな? 楽しみだな」
「幾ら私でも、ダリルとは結婚出来ん」
「セオドールと結婚したら、彼女からお義父様と呼ばれるわけだ。楽しみにしておこう」
「独身なんだから、そんなに彼女が気に入ったならサイラスが求婚すれば良いじゃないか」
「いや、妻はエレンだけだな。息子の嫁に欲しいんだ。いい加減華が欲しい……男所帯は飽きた」
「華が欲しいだけなら、ルシウスの娘でなくても良いだろう。自由に恋愛させたら如何だい。僕はそのつもりだよ」
「いやいや容姿も然ることながら、茶目っ気があって可愛いんだ。君も彼女を見れば、ルシウスの溺愛の理由がよく分かる。
私も、偶然ダイアゴン横丁で出くわした時に数分話しただけなのだが、表情がコロコロと変わって、実に魅力的だ。セオドールも今はまだ子供だから分からんが、大人になれば私に感謝するぞ――早いとこ縁談を纏めなければならん」
「あとファイアウィスキー二杯で了承してくれるかもよ。ねえ、ルシウス?」
「やらん」
「強情だな。よし、呑ますか」
「呑まそう呑まそう」
「ドラコとダリルはどこだ、おやすみのキスもしてない」
「これを録音して、我に返った時に聞かせてやりたいよ。いつもドラコのあそこが駄目だ、ここが不安だって言ってるのにね」
「ばかばかしい、私はナルシッサと帰るぞ。ダリルを風呂に入れてやらねばならん」
「奥方は君を置いて帰った。あと、まさか十三歳になった娘と一緒に風呂に入ってるわけじゃなかろうな?」
「ばかいうな」
「だろうね。アステリアだって、もう三年も前に僕とのお風呂を断ってきた」
「こないだホグワーツからかえってきて……ひとりで、ふくも、さいきんは一人できる」
「戯言か告白か、どっちだろうね」
「さあな。どちらにせよ、早いとこイエスの返事を貰いたいところだ。次のクリスマスには彼女を家に招きたい」
「きっとルシウスもついてくるよ。そしてヤドリギの下でセオドールにキスをするだろうね」
「ダラス、このベッドはなんだ」
「ルシウス、それは机だ。そしてここは僕の書斎だ。ローブを脱ぐな」
「あつい」
「ザビニ夫人が残念がるな。同性でも、酔ったルシウスは見ものだと言うのに」
「ナルシッサが苛立つのも分かるよ。酔ったルシウスは独り占めしておきたかったんだろう」
「家へ帰るぞ、私には妻子がいる」
「たまには親友に付き合ってくれたって良いじゃないか。君に惚れる女は山といるが、君の友達なぞ僕ぐらいだよ」
七年語り – EXTRA STORY