七年語り – EXTRA STORY
兄弟間におけるプライバシーの薄さ
「久々に皆で過ごせるのは嬉しいけど、やっぱりひと月近くもドラゴンと離れてるってのは性に合わないな」
「夏休み明けに出勤してみたら、ノーベルタちゃんに机を燃やしてたりしてな」
「いやいや、研究サンプルのドラゴンの糞が山と積まれてるかもしれないぞ――研究所のドアを開けたらプーンと鼻をつく愛しい匂い」
「ま、どの道明後日には帰るんだ。俺たちゃホグワーツの新学期が始まるし、チャーリーは妻子の下へ戻る」
「そしてビルは一足先に墓場へオサラバ、と」
「はあ……久しぶりに会ったってのに、お前たちは可愛くないな。少しはジニーを見習ったらどうだ?」
「俺たちが可愛くないだって? そんなだから二十一歳にもなって恋人がいないんだよ」
「落ち着け、フレッド。チャーリーの審美眼が鱗に覆われた女の子しか映さないのは今に始まったことじゃないでしょう」
「そりゃそうだけど、酷いわ! 俺たちはこんなに可愛いのにっ」
「久しぶりに会ったお兄ちゃんに可愛くないとか言われて、あたしショックー!」
「やだー! ジョージちゃんったらジニーちゃんそっくり! あたしも負けてらんない、もっと可愛くならなくっちゃ!」
「あのなあ。少なくともクリスマス休暇までは僕らに会えないんだぞ――なあ、ビル。ビル?」
「ああ、クリスマスなら僕は帰らない」
「そりゃ初耳だ。僕も今んとこ帰る予定はないけど、それはそれとして我が家の問題児たちに何かガツンと言ってくれ」
「ちょっと考え事をしてたんだよ。それよりジョージ、今朝からお前に聞きたいことがあるんだが……」
「俺に? フレッドじゃなくてか? 取り違えてる可能性がないか、額に手を当てて考えてみなよ」
「お前たちが、僕の寝てるあいだに寝巻きを交換したんでなきゃ大丈夫だ」
「そうかい。ならどうぞ」
「ああ、うん。……ダリルって誰だ?」
「相棒、落ち着け。コップを下ろして、胸元を拭ったほうが良い」
「あーあ、凄い勢いでこぼしたな……テルジオ、拭え! で、急にダリルとかいう子が如何したんだい。ビル、彼女と何かあったの?」
「いや、ジョージの寝言に女の子の名前が出てきたから」
「友達だよ」
「まあ……単なる友達だな、俺は。なあ、相棒?」
「個人主義的な見解を有難うよ、フレッド・ウィーズリー。へその緒も分け合った仲だってのに、あっさり裏切りやがって」
「なんだ、同じ女の子を好きになったりはしないのか」
「僕も……へえ、なんか意外だな。そのダリルって子のこと、フレッドは全然気にならないんだ?」
「一緒にいて面白い。五月蝿いけど鬱陶しくはない。顔は、まあ客観的に言ってかなり可愛い。俺にとっちゃ、そんだけだな」
「待てよ、好きなわけじゃない。一回寝言に出てきただけだろ? 決め付けるのはよしてくれ。寝言で名前呼ぶだけで好きってことにされちまうなら、フレッドはフィルチの子を授かってるだろうよ。第一寝てる時と起きてる時の俺、どっちのほうが全うだと思ってるんだ」
「そうか……悪かったよ、ジョージ。僕の勘違いだ」
「でも何とも思ってないんだったら、夢になんて出てこないと思うけど……フィルチの名前呼ぶのとは違うじゃないか」
「やめろ、チャーリー。寝言で、ダリルって子のことを可愛いって褒めてたからって、勝手に決めつけた僕がいけない」
「うわ、えげつねえやり口」
「ち、ばか、な、い、全っ然悪いと思ってないだろ、ビル、久々にあった弟に、なん……なんでだよ……」
「久々に会った弟が可愛いからだよ」
「ビル、あんまりいじめてやるな。ジョージも、落ち着けよ。好きな子のことを可愛いって褒めるのは悪いことじゃない」
「そりゃ、ホグワーツで散々浮き名を馳せてたビルやドラゴンマニアのチャーリーは……良いだろうさ」
「僕だって毎日ノーベルタを褒めてる。そうすると、鱗がツヤッツヤになるんだ」
「やめろ。ダリルの皮膚は鱗に覆われてないし、どんなに怒り狂ってたって火は噴かない。ドラゴンと一緒にしないでくれ」
「オーケー、分かった。ダリルは火を噴かない。彼女を知る上で重大な手がかりだ」
「僕が言いたいのは、ドラゴンだって女の子だって同じだってことだよ」
「おいおい、ドラゴンを専門に研究しようって奴がそんなことを言うのは大問題じゃないのか?」
「勿論生物学的見地から言って、ドラゴンと人間は大いに異なる。でも僕が言いたいのはドラゴンとだってコミュニケートする、」
「ドラゴンのことはもう良いだろう。ジョージ、ダリルについて僕らに教えてくれ。せめてノーベルタよりか人類に近いかぐらいはね」
「ビルもチャーリーも、二人共そろそろ止めてやれよ。そんなにダリルについて知りたいなら、ジニーに聞いたらいい」
「ジニー? 何で、ジニーの名前が出てくるんだ。お前たちは三つ子じゃあなかったはずだろう」
「部屋数の都合で、去年からジニーと同じ部屋なんだ。彼女、学年自体はロンと同じなんだけど」
「へーえ、二歳差か。ま、そのぐらいどってことはないさ。ビルなんて、いくつ離れてたっけ? ほら、去年付き合ってた……」
「ああ、五つ年上だった。二ヶ月で別れたけど、彼女がイスラム教徒でなければ大分違ったな。ダリルはイギリス人なんだろう?」
「同じ国に生まれてたって、バステト神を信仰してるよりずっと悪いかもしれないぜ」
「ダリルのファミリーネーム、マルフォイなんだ。ダリル・マルフォイ」
「正確にはダリル・クソ爆弾・マルフォイ」
「上等の悲劇が一篇書き上がるな」
「でも今時……そこまで家のこと気にする? まあ、スリザリン生が生まれを気にするのは知ってるけど」
「チャーリーはスリザリン家系の知り合いがいないからな。僕だってそう詳しいわけじゃないけど、純血主義者たちの時代錯誤は凄いよ」
「そう? ビルだって、スリザリン生の知り合いはいなかったはずだろ」
「うん。でも、やっぱり純血主義に被れた家に生まれた友達がいてね。去年マグルと結婚したんだけど、それと同時に勘当された。組み分けについてとやかく言われない家でも、平気で実子を切り捨てるんだから……マルフォイ家はもっと凄いだろうな」
「まあね。マルフォイの奴――小さいのも大きいのも、やたらダリルの行動に制限を掛けるんだ」
「原則的に、夏期休暇中の外出は禁止だったっけか?」
「ああ。スリザリン生以外と手紙のやり取りをするのも禁止されてる」
「どうせホグワーツに戻れば、何を如何しようと無意味なのにな。娘を地下牢に押し込めてまで洗脳しようなんて、ご苦労なこった」
「そうか……」
「だからな、ビル。俺は……ダリルがあんまりに狂った環境に置かれてるんで心配なだけなんだ。エジプトに来る前も、」
「ダリルがハリーのことをやたら気にかけるんで、ヤキモチ焼くのに大忙しだったよなあ」
「フレッド」
「如何した? お前だって、いつもダリルと一緒になって、アンジェリーナのことでからかってくるじゃないか」
「そっか。二人共、もう十五歳なんだよなあ。ちょっと前まで庭小人そっくりだったのに……」
「うん、そうだよな。そうか、マルフォイの血が入ってるなら外見は期待出来る。写真はないのか?」
「さっきから黙ってると思ったら、そんなこと考えてたわけ?」
「弟の成長を実感する機会なんて掃いて捨てるほどあるじゃないか。今は、弟が惚れてるらしい女の子の容姿が気になる」
「あるわけないだろ。馬鹿馬鹿しい。もう俺は寝るからな」
「フレッド、今度僕がイギリスに帰ったときに紹介してくれよ。性格の良いマルフォイってのには、俄然興味が湧く」
「そんならジニーに頼むと良い。すぐにダリルとのお見合いの席を整えてくれるはずだ」
「滅茶苦茶な性格だぞ」
「ジョージ、寝たんじゃなかったのか?」
「笑いながら階段を踏み外して落下するし、お菓子を作ったのなんて言って吐瀉物みたいな塊寄越すし、何より我侭だ」
「必死な弟は可愛いなあ」
「ビル、いい加減にしろよ」
「ちょっとぐらい虐めたって罰は当たらないさ。殆ど一年ぶりに会ったんだし、弟の好きな子を横取りするみたいに思われてるんだから」
「ふーん。そんなら、僕もダリルについて根掘り葉掘り聞いてみようかな。ジョージとフレッドには、随分手を焼かされたからね」
「くそっ、パースと一緒の部屋にすりゃ良かった。そうすりゃ、今頃サンドバッグにされるのはペネロピーだったってのに」
「それはもう飽きた。今はダリルが気になる。色素の薄い子ってタイプだな、それにかなり可愛いんだろう?」
「……横取りしないんじゃなかったのかよ」
「しないしない。まだピラミッドに未練があるし、幾ら僕でも十歳近くも年下の子と遠距離恋愛はちょっと躊躇う」
「フレッド、アンジェリーナって子はドラゴンで喩えるとどんな感じの子なんだ?」
「いっちばん凶暴な奴を思い浮かべてくれよ。そして、それに性的興奮を覚えるかどうか股間に手を当てて考えてみろ」
「なくはないな」
「ほら、ビル! ダリルのことなんかより、すぐ下の弟が道を踏み外しそうになってることのほうがずっと大事だろ。如何にかしろ」
「チャーリーはこれで正常なんだ。問題ない。ダリルのスリーサイズ……十三歳じゃ出るとこも出てないか」
「俺は寝るぞ。ジョージ、これにこりたら新学期からは心を入れ替えるんだな。二度と俺をからかって遊ぶなよ」
「ルシウス・マルフォイも、性格は兎も角として容姿は良い。今度、ジニーに写真を送ってもらうかな」
「ビルも早いとこ新しい彼女作りなよ。独り身で寂しいんだろ」
「いいや、可愛い弟たちがいればそう寂しくもないさ。お前たちが帰ったら、ゆっくり探すよ」
「帰りたい」
「おっダリルが恋しいか」
七年語り – EXTRA STORY