七年語り – EXTRA STORY
貴方が欠けて未完全な幸福
「だから魔法史の本を探しに行くなんて馬鹿は止めたんだ」
「レポートに必要だったんだ――大体、何でお前が、ダリルと奴の密会場所を知ってるんだ」
「でも、ここまで専門的な本は要らなかった。だろ? でなきゃお前の妹が全世界の前で彼氏とイチャつきたがってるか、どっちかだ」
「馬鹿言え。幾らダリルでも、父上が黙ってないぞ」
「お前は如何なんだ。黙ってないのが父親だけなら、さっさと挨拶でも何でもしてくれば良いじゃないか」
「馬鹿か」
「さあ、馬鹿は誰なんだかね」
「お前だ。僕がダリルのところまで歩いて行って、やあと手をあげたとする。それで奴がにこやかに手を振ってくれるとでも思うのか」
「突然笑い出した後に泣いて、激しく怒り出すんじゃない」
「僕の妹をまるで分裂病患者みたいに言うな」
「じゃあ、彼女は分裂病に苛まれているんだ。ディゴリーもよくそんな女と付き合えるよ」
「付き合ってるんじゃない」
「君の妹は単なる顔見知りの膝に座って、互いの指を絡み合わせてクスクスする趣味でもあるのか?」
「そんな――そんな、それは」
「それに彼女自身が付き合ってるって言ってた」
「は、おま、何だと? ダリルが?」
「自分の彼氏だって、ダイアゴン横丁で会った時に認めた」
「僕の双子の妹だぞ。お前の……お前は他人だろう。あれは、あいつは僕のダリルだぞ」
「お前って本当にシスコンだよな」
「シスコンじゃない」
「じゃあ僕のダリルって言うセリフは何だよ」
「お前のじゃない」
「当たり前だ。あんな厄介、頼まれたってごめんだね」
「それは厄介だが、でも、顔は良い」
「自分と同じ顔の妹をよくもまあそこまで褒め称えられるよ」
「顔は良いだろう。同意しろ」
「分かった。顔は良い。それは認める」
「なんで他人のお前が、片割れである僕を差し置いてダリルからあの男のことを打ち明けられているんだ」
「でも、その発狂が然程でないことから見るに、お前も知ってただろう」
「手紙を漁った。ディゴリーにも釘を刺しに行った」
「うわ」
「手紙は不可抗力だった!」
「妹の彼氏に『自分の妹と付き合うなよ』とか、余程のことがない限り言えないだろ普通」
「ダリルは普通じゃないんだ。ディゴリーへの助言は親切心からだ。父上がこのことを知ったらディゴリーは死ぬ」
「お前の家って……」
「ダリルが、放っておくと、すぐああやってそこらの男の膝に乗るからだろう」
「お前、自分の妹を何だと思ってるんだ」
「僕はまだダリルから打ち明けられてない」
「じゃあもう今出てって、今度から密会はもっと別のところでやると良いって助言してこいよ」
「今か!?」
「あ、」
「何だ。如何した。ディゴリーと別れたか。そうなるだろうと思った。あいつに彼氏なんて出来るはずが、いや長続きするはずがない」
「残念ながら――というかディゴリー達に接触しないなら、ここから離れよう。キスしてる」
「……はあ?」
「待て。おい、」
「離せ」
「今出て行くのが一番可笑しいだろ。キスしてるんだぞ。絶対に、賭けても良い。このタイミングで出てったら、お前の妹ブチ切れるぞ」
「父上がここにいたら図書室に火を放つぞ」
「お前達はダリルを殉教者にでもするつもりか。落ち着け、杖を下ろせ。想像はついただろ」
「僕だって、父上とも、母上とも、僕とも、僕とだって口にはしたことないんだぞ。母上が大事にするよう言っていたから」
「彼氏が出来ればするんだよ」
「あの男はダリルと結婚する気さえないんだからな」
「あるほうが怖いだろ。僕らまだ十三歳だ」
「お前の父親だけでなく、お前もダリルと結婚する気になってきたのか。やめろ」
「言われなくても。良いか? 僕とお前は同い年だ。お前の妹も同い年だ。僕らは十三歳。ディゴリーは二歳上。家の都合なんて関係ない付き合いで、結婚願望なんてあるほうが可笑しい」
「あの男――善良そうな顔をして、ダリルに手を出していながら婚約する気さえない」
「キスだけだろ……握手と何が違うんだよ。なあ、帰っていい? 僕、他人のラブシーンを覗き見する趣味はないんだけど」
「神聖なる学び舎でキスか!」
「声を落とせ。妹に嫌われたくなかったらな」
「有り得ないだろう」
「嫌われたくないなら、キスの一つ二つで騒ぎ立てるなよ。五月蝿い」
「ダリルが僕を嫌うはずがない」
「ああ、ちょっと気持ち悪いって思うぐらいだろうな」
「気持ち悪い? 僕がか? ダリルが僕だったら、もう十分は前に割って入ってきて、イチャついている僕と誰かの仲を引き裂いてるぞ。それなのに自分のことは棚上げで僕のことを『気持ち悪い』だと!?」
「知るか。お前達兄妹は、一体何なんだよ」
「ずっと一緒だったんだ、産まれた時から。それなのに、彼氏が出来たことさえ打ち明けてこない」
「『ハーイ、ドラコ! スリザリンは如何? そうそう私、彼氏が出来たの』とか言ってこられても困るだろう」
「構わない。そう言ってくれれば何の気兼ねもなく父上に密告できるからな」
「そんなだから打ち明けてこないんだよ。諦めろ。僕があいつで、お前みたいな姉がいたとして、絶対に打ち明けない」
「じゃあ何だ? お前なら父上に密告しないだろうと思われるほど信用されているのか?」
「まあ、自分のことに関心がないのだろうという意味では信頼されてるのかもな」
「僕のことが大事すぎて打ち明けられないのか」
「彼氏とキスすることの次あたりには大事に思われてるんじゃないの」
「まだキスしてるのか」
「僕に出歯亀しろって?」
「しろ」
「お前、ほんとそういうの止めてくれる」
「父上が来月末に他国の魔法省高官を招いてガーデンパーティを催す。“予定の空いている”友人に招待状を送ると言っていた」
「……もうキスはしてない。でも引っ付いてるし、ディゴリーはお前の妹の腰に手を回してる」
「まだ十三歳だぞ」
「知ってる。女は早熟だからな。それにディゴリーは十五歳だ」
「ダリルを大事にしたいって……結婚はまだ考えられないけど大事に思ってると、そう言ったんだぞ」
「キスして、抱きしめて、そう言う風にってことだろ」
「本当に、本当に僕は大事にしてたんだ……」
「まあ……そういうの、僕は一人っ子だから分からないけど」
「四年ぐらい冷戦状態だったし、カッとなってスクイブとか産まれ損ないと言った。八つ当たり半分で、客が来てる時は恥ずかしいから部屋にこもってろとか言ったりもした。それでも、」
「お前の妹、それでよくお前と仲良くしてられるな」
「本当に大事に、してたんだ」
「お前みたいな兄も、あいつみたいな妹もいなくて良かったって、心からそう思うよ」
「家から出したくなくて……ホグワーツに行くって言った時も大ゲンカして、僕と一緒にホグワーツへ行くとか言いながら、ポッターにちょっと優しくされただけでグリフィンドールなんかに」
「だから一年の時、妹と全然話さなかったのか」
「ポッターと仲良くするわ、ウィーズリーの双子と仲良くするわ、トドメはディゴリーだ」
「あ……ああ、まあ」
「この馬鹿といつも思うのに、楽しそうにしてると……叱れなくなる」
「なあ、妹がいる奴って皆お前みたいにシスコンなのか?」
「シスコンじゃない。まだ引っ付いてるのか」
「引っ付いてる、幸せそうな顔して。いい加減自分で確認しろよ。僕は寮へ戻る」
「嫌だ」
「……お前に付き合ってると草臥れるんだけど」
「僕以外の奴と幸せそうにしてると、ダリルの幸せに僕が要らないみたいじゃないか」
「ああ、そう。お前って、なんでそう厄介なわけ」
「あれの兄だぞ。あいつだけが厄介なんてことはないんだ」
「これほどまで納得のいく抗弁は初めてだよ」
「そうか」
「お前の気が済んで、ここから離れる気になって、図書室から一歩出たら僕は自分の好きにするからな」
「そうすると良い。おい、ディゴリーとダリルはまだ引っ付いてるのか」
七年語り – EXTRA STORY