七年語りLULL BEFORE THE STORM
06 平和な朝の作り方

 

 己で全て選ぶと考えて、そして抗って、結局感情的になったがために望まざる未来を選び取ってしまったのだろうか。

『可能性が均等にあると言ったほうが正しい。均等にあり、均等にない。選ぶことを放棄し続けてきた……しかしまるきり勇気がないというわけでもない。身内を優先するのはスリザリン気質、しかし他を犠牲にしてまで望むでない。選ばない。望まない』
 無は有と似ていた。グリフィンドールを選ぶに値すると許された傲慢さ、スリザリンを選ぶに値すると許されたひた向きさ、ハッフルパフを選ぶに値すると許された忠実さ、レイブンクローを選ぶに値すると許された好奇心の強さをダリルは有している。選ばないということはそのいずれか一つに寄ることはなく、そして進む事を諦めていない故、均等に増すのである。ダリルの選択は“放棄”ではなく、“停滞”だった。差異は分かりにくくとも、確実に変わるものがあった。放棄しない限り進んでいくものがあった。
 ホグワーツで多くを知ったダリルが選んだ事は「望まないこと」だった。結論が同じでも過程の違い――無知と知の差は大きい。

 ダリルはやがて闇の陣営に与するだろう。ヴォルデモートとの約束があるにしろ、ないにしろ、結局ダリルは己を愛してくれるものを裏切れないからだ。ダリルはヴォルデモートの望んだとおり闇の陣営に加わり、やがて己の光と対峙しなければならない時が来る。
 しかしそれは自分以外の者の思惑に乗せられてというだけではなかった。ヴォルデモートを受け入れることを選んだのはダリルであり、闇の陣営に加担すると決めたのもダリルだ。全てを知った上で選んできたことだった。
 誰かに選ばされたわけでも、強要されたわけではない。その違いはダリルにとって大きなものだった。
 ヴォルデモートと共に朽ちようと、ハリーと袂を分かつことになろうと、やがてセドリックと別れることになろうと、不幸ではないとダリルは思った。無力な子供として誰かに守られるよりも、傷ついても意思という剣を手放さないと望んだのは自分だからだ。

 このままヴォルデモートに抗い続けていても勝機はない。例えハリーがそれを認めなかろうと、ヴォルデモートが偉大な魔法使いである事実に変わりはなかった。ダリルはそれをきちんと理解していて、自分とヴォルデモートの力量を正確に測ることが出来る。だからこそハリーのように抗い続けることではなく、妥協することで己の意思を通すことにした。
 生まれた場所故に、外部から抗うより内部から抗うことのほうが長く続けられそうだったからだ。
 ハリーの傍で意地を張り続けていれば遠くない未来、硬い木がポキンと折れてしまうように容易くヴォルデモートへ屈することになるだろう。どんなにダリルが縁を切ろうとしても、闇側に生まれたものとして切れぬ縁がある。それを利用されれば、ハリーが大きな被害を被る可能性があった。だったら己からヴォルデモートに与して、彼を油断させたほうがずっと良いと思ったのである。
 命と未来を差し出す代わり、ダリルは完全なる支配を免れるだろう。ヴォルデモートがムキになる前に「私はあなたの僕です」と宣言してしまったほうが、手綱を緩めて貰い易かった。どの道闇の陣営に属さねばならぬなら、落ちるのではなく赴くほうがずっと良い。落ちることには己の意思が欠如しているが、赴くには己の意思で歩み寄らねばならないから、ダリルは“赴く”ことを選んだ。
 そのための闇の印だった。そのためのヴォルデモートの魂だった。単なる同情心でヴォルデモートを受け入れたわけではない。そこにはスリザリン特有の狡猾さがあった。この呪いはいずれ自分の大事な人を守る為の鎧になるだろう。ヴォルデモートの記憶は良い取引材料になる。魔力や経験で圧倒的にヴォルデモートに劣るダリルは彼の隙や油断を突くことを考えねばならない。

 闇の陣営に与して、それで終わりではない。ダリルはまだ己で全てを選ぶことを諦めていないし、望まざる未来を選び取ったとは思っていない――否、ルシウスの台詞がそれをダリルに思い出させてくれたのだ。
『死も、痛みも、お前を幸福にはしない』
 ダリルの幸福は愛しい人々の無事、彼らの幸福だった。それを守るための苦痛と死だから幸福なのである。単なる苦痛や死に安らぎを見出すのは馬鹿げた勘違いだとダリルは思った。本来の目的を見失って、付随物へ真実を見出すような愚かしさは要らない。

 決して無駄死にはしない。マルフォイの血も、自分に好意を抱く者も、この顔も、己の望みのために使えるものは全て使おう。

 スリザリン寮生達への手紙を書き終えると、ダリルは机に頬杖をついた。
 現金なもので、ダリルがスクイブでないと知れた途端にスリザリン寮の男子学生からは去年の倍の量の手紙が届くようになった。中にはダリルとフリントの仲を邪推するものもあり、そういう文を見かける度に「別に好きな人がいる」と返信しているが、当のフリントはすっかり彼氏気分で手紙を送ってくる。尤も誰と仲良くするなだの、これこれこういうことは止めたほうが良いだの、去年と全く変わらぬ指令が殆どだった。勿論フレッドとジョージの悪口もバッチリ添えられている。よくもまあそんなに罵りを思いつくものだと、ダリルはフリントからの手紙を見る度に感心してしまう。そのままゴミ箱へ入れてしまいたいと常に思うが、家同士の付き合いのため適当に返事を出している。
 しかし家同士の付き合いが薄くとも、やはり返事は出しただろう。今後の為、そちら側の人間と親交を深めておいて損はないからだ。

 そういうことはルシウスに色々聞いた方が良いのだろうが――父の名が脳内に響いた瞬間、ダリルはぎゅっと眉間にしわを寄せた。ルシウスが三日前に犬の首輪を寄越してくれたことを、ダリルはまだ許していなかった。

 スリザリン寮生を多く輩出するだけあって、マルフォイ家のものというのは殆どスリザリン気質を受け継いでいる。それはグリフィンドール寮へ入ったダリルとて変わらない。血と記憶のどちらのほうがより濃いかは不明であっても、人格形成の部分において血がそれなりに重要な役割を占めることは言うまでもないだろう。つまりダリルとルシウスは“執念深さ・他人にされたことを根に持つ”という点で父娘と言うに相応しい近似を見せていた。そんなねちっこい二人は秘密の部屋に赴いた時から一週間が経とうと、まだ“例の件”を忘れていなかった。忘れていなかったというのでは語弊があるだろう。互いに互いの仕打ちを許していなかったと言った方が正しい。
 あの日ダリルが口にしたことの殆どは真実だったが、ルシウスの手前、表面上は「磔の呪いを使わせようと強いられた仕返しに性質の悪いジョークでルシウスを驚かせた」ことになっており、「それは過剰な仕返しではなかろうか」と思ったルシウスがダリルへの嫌がらせを行い、またダリルがその嫌がらせに対する仕返しをするという、見事なまでの負のループが出来上がっていた。
 何しろダリルはまだ子供なので、「ルシウスの感情の動きは仕方のないことだ」と分かっていても許す事が出来ない。ルシウスとダリルの立ち位置が逆ならば事は容易に収束したのだろうが、中途半端な狡猾さしか有していないダリルと、そんな娘にもどかしい気持ちになるルシウスという組み合わせは類を見ないものであった。その故に手探り状態のままで抉れた関係が続いている。

 それにルシウスの嫌がらせを顧みれば、ダリルが仕返しをしたくなるのも仕方のないことではあった。
 あの一件で「やはり呪いによる苦痛であり、痛みを覚えるまでは若干の時間差があるらしい」と学習したルシウスは事あるごとにダリルの肌へ触れるようになった。ふっと触れて、ヴォルデモートの呪いが発動する前に手を離すのである。痛みはないが、痛みの前触れたる悪寒――幾度か呪いによる痛みを味わったために体に刻みこまれた恐怖――は呼び起こされる。
 磔の呪いを受けた時に似ているなどと言い、しかもダリルの苦しみようを見ていながらの仕打ちと思えば、一層厭らしいではないか。だからといってダリルがその仕打ちを口にして責めれば、ルシウスに情報を与える切っ掛けとなるだろう。「はて、そういえば魔法特性に魔力が反応してなどと聞いているが、お前のナイフには魔力特性などないはずだったな?」などと嬉々として問うてくる父の声音を脳内にシミュレートして、ダリルは口を噤む。折角あの騒動のおかげで聞かれずに済んでいることを、藪蛇などで引きずり出させる気はなかった。黙り込んだ娘が何を考えているかも見とおした上で、ルシウスは機嫌良さげに「どうしたね」と空々しい気遣いを口にするのである。
 スネイプを怒らせるのと、こうしてルシウスからチクチクやられるのと、一体どちらが辛いであろう。ダリルの頭のなかで天秤が揺れ動く。最初から薄々予感はしていたものの、やはり自分ではルシウスを相手取った駆け引きなど出来ないとダリルは思った。

 一旦は標的を変えたルシウスだったが、とうとうスネイプが引きこもり始めた――事実上の敗北宣言に近い。ルシウスを上手く言いくるめる自信が失せたから、手紙そのものを無視し始めたのだ。スネイプとの付き合いが長いだけあって、ルシウスは殻に籠ったスネイプの扱いは心得ている――ので、今の標的はダリルに戻ってしまっている。二人にとっての一番の痛手は家族の情に揺らいだダリルが口を滑らせたことだった。まだ夏休みは二ヶ月弱も残っている。間違いなくダリルはルシウスに陥落させられてしまうだろう。
『私がヴォルデモートの傍にいることを選んだら、お父様は不幸?』
 ダリルが父親へと口にした台詞を受け取ったのは死喰い人でありマルフォイ家の当主としてのルシウスであった。その台詞が「もうちょっと突けば、何とかなりそう」と思わせてしまったのである。というより徹底した黙秘を続けているスネイプと、些細な感情の揺らぎで情報を零すダリルの間のズレをハッキリと理解したのだ。ダリルが徹底する必要がないと考えている事がルシウスにバレてしまった。

 ダリルは徹底した黙秘をする必要はなく、あの脅しはいつもの嫌がらせが多分に含まれていて、過剰な念押しであると考えている。
 スネイプは詳しく説明せずとも徹底した黙秘をする必要があると理解しているだろうと、ダリルを買い被っている。
 ルシウスはあのダリルの台詞から、スネイプとダリルの思考の差に気付いた。

 既に二人の有利はないに等しい。ルシウスがダリルで遊び始めたのは、その余裕の表れでもあった。ダリルの苛立ちはルシウスからの嫌がらせだけではなく、己の有利が失せたことへのものと、自分ひとりに任せて逃亡したスネイプへのものとが含まれている。
 この夏季休暇が始まって以来ダリルは幾度となくルシウスの動向を手紙に書いて送っていたが、一度として返事が届いた事はない。
 今日も、この時間帯に届いていないということはスネイプからのものはなかったのだろう。そう思って、ダリルは深いため息をついた。去年一年でドビーがあれこれ仕込んで行ってくれたおかげで、ダリルは今年も“血を裏切る人々”との文通を楽しんでいた。基本的にキィーリレルが回収するのは封筒に赤いインクでバッテン印があるものだけで、ダリル宛てであってもそれがないものは朝食の席で届くことになっている。まさかルシウスへの対策を書いた手紙を正規のルートで届けるほど抜けているわけもあるまい。
 引きこもって日に当たらないから、髪も性格もネットリしちゃうんだわ。
 そうイライラしながら手紙の山の一番下にあった封筒を手に取り、破いた。赤いペケがついたものだが、スネイプは薄青の封筒など使いはすまい。あの人がそんなもの使って来た日にはジニー達に言いふらしてやるわと、便箋を広げる。

 ダリルへ
 やあ、元気にしているかい。僕は元気だよ。返信が送れちゃってごめん。ちょっと親戚の家へ泊まりに行ってたんだ。
 君は夏季休暇中に家から出られないと膨れていたけど、僕としてはそのほうが安心だな。君と来たら、ちょっと目を離すとすぐに危ないことを始めるんだから……夏季休暇中に君と会えないのは寂しいけど、九月になればまた会えるしね。
 それまでには君の厄介が終わってると良いな。折角付き合い始めたのにキスひとつ出来ないっていうのは寂しいじゃないか。
 あと君が前の手紙で言って来たことだけど、淑女がそういうことを口走ってはいけないと思うよ。
 僕は君が好きだから、君は何も気にせず、いつも通り大人しくしていてくれ。

 君のセドリックより、愛をこめて

 未だかつて、これほどまでにダリルの機嫌を浮上させる手紙があっただろうか。
 ダリルはセドリックからの手紙を抱きしめて、うっとりした。既にスネイプのネットリした髪のことなど、ホグワーツ城の頂きの遥か彼方へ消え去っている。ダリルは頬を上気させて、好きな人から淑女扱いされたことへの喜びを全身で発散していた。ナルシッサから言われたのであれば「またか」とウンザリしてしまいそうな台詞も、セドリックから言われたとなれば全く鬱陶しくない。
 あたかも目の前にセドリックがいるかのように蕩けそうな笑みを浮かべて、朝日に瞳を輝かせた。スネイプのことを考えている時とは雲泥の差である。ダリルはもう一度手紙をじっくりと読み返しすと、手で口元を覆って、机にうつ伏せた。頬の緩みが収まらない。

 明日は計画の実行日だし、セドリックからは素敵な手紙が届くし、なんて素晴らしい朝なのかしらとダリルは感嘆の息を吐いた。

 実行するのが何かというのは、時を遡る事ドビーからのお暇を聞かされた日に彼から渡された手紙へ起因する。
 そのハンカチ――手紙の差出人はハーマイオニーだった。用件はこうだ。

 親愛なるダリルへ
 返信を無視しちゃってごめんなさい。すっごく急な話があるの。
 そのね無理だろうって思うんだけど……六月二十二日に家族がパーティに行って一日戻ってこないって言ってたわよね? その日、貴女、家を抜け出せたりしないかしら? ええと、私、行きたいところがあるんだけど、一人で行くのは何だか踏ん切りがつかなくって、勿論ダリルが自由に家から出られないってことと、私と会った事が貴女のお父様にバレたら後で酷いことになるって分かってるわ。だから、本当にちょっとでも無理だなって思ったら断って頂戴。ううん、心の整理のために手紙を出してみただけだから、悩まないで欲しいの。だけど、ああ、ごめんなさい。何でもないの。気にしないで。変な事をお願いしてごめんなさい! それと、走り書きでごめんなさい!
 読んだら、この手紙は忘れてしまってね? 返事は要らないから、忘れて頂戴ね。 

 友情をこめて、ハーマイオニー

 謝罪癖がついたらしい私のちいさな教授へ
 抜け出せると思うわ。あんまり長くいられないと思うけど、三時間ぐらいなら一緒にいて平気よ。
 ごめんなさい以外のことを話してくれる気になったら返信を下さい。

 友情をこめて、ダリル

 ハーマイオニーからの返事――ダリルが手紙を出してから五時間と経たない内に届いた手紙には感謝の言葉が十六個と、ハーマイオニーの家の住所(どうせ分からないだろうから、漏れ鍋へ迎えに行くわね! と書かれていたのにほっとした)が丁寧に綴られていた。
 ダリルは便箋の向こうではしゃぐハーマイオニーの姿を見たような気がして、微笑んだ。まだちょっとしか離れていないのに、ふわふわの栗毛と、華奢な体で分厚い本を抱えて読むアンバランスな姿が懐かしかったのだ。そうしてハーマイオニーに会えるという僥倖へ柔らかく微笑んでから、ダリルは「さて、どうやって家を抜け出すか」と難しい顔をするのだった。恐らくハーマイオニーが知ったら、自分がお願いをしたのも忘れて怒鳴ったに違いない。「貴女って考える頭はあるはずなのに、なんで時々そのことを忘れちゃうの!!」とか何とか。普段のダリルだったら自分の想像にクスクス笑うところだが、マルフォイ邸からの脱出方法で頭を悩ますあまりに笑う余裕すらない。

 大規模なパーティだから、ルシウス達の帰りはかなり遅くなるだろう。お小遣いはある。何よりもハーマイオニーが漏れ鍋まで迎えに来てくれると言うし、漏れ鍋からは“浴槽”を乗り継いで三十分らしい。スムーズにことが進めば、四、いや五時間はハーマイオニーとお喋り出来る。お膳立ては十全になされている。不安要素はないはずだった。
 ただ一つ――そう、漏れ鍋までどうやって行くかということを覗いて、問題は何もない。
 それでダリルは一縷の望みを託して、フルーパウダーについて調べていたのである。尤も途中からセドリックの浮気封じへ関心が移ってしまったものの、ダリルは真剣に己の呪いが作動しないような方法で漏れ鍋に辿りつく方法を探していたのだ。
 手紙を受け取ってから一週間あまり考えに考え抜いたが、途中でルシウスとのひと悶着があったり、ドラコが寝込んだりして、結局具体的な案は何一つ浮かんでいない。キィーリレルに同伴姿あらわしをしてもらおうかとかも思ったが、そんなものフルーパウダーを使う以上に危険であるとすぐに気付いた。それではオーソドックスにマグルの移動手段を使うかと、そう思い浮かべた瞬間に却下された。何となればダリルは自分一人でダイアゴン横丁にさえ行った事がなかったからだ。というより、自分で自由に移動出来る場所などホグワーツか自宅かのいずれかしかない。そんな自分がマグルの街で迷子にならないはずがない。二度と家に戻れなくなる可能性すらあった。
 うーんうーんと唸ってもダリルの頭が考えついた移動手段はその三つしかない。煙突飛行か同伴姿あらわしかマグルの移動手段か。ダリルはどうしてもハーマイオニーに会いたかった。しかもハーマイオニーのほうからのお誘いである。比喩ではなく、磔の呪いを味わう羽目になっても行きたいと思った。ルシウスの嫌がらせのおかげで、ダリルの磔の呪いに対する敷居がますます低くなっている。それにヴォルデモートの台詞に寄れば実際の磔の呪いよりは幾らかソフトなものであるらしい。色々と言い訳めいたことを考えてみるが、自分の倫理観が更に落ちていることの言い訳にはならない。セドリックに知られたらまた叱られるとか、否知られないものとか、でもそれってセドリックに対して不誠実の上塗りなんじゃあないのとか悶々と考え込んだが、結局折れた。ダリルの誠実さが折れた。
 死にはしないし、マントやらで皮膚を覆って煙突飛行したら大丈夫な気がする。流石のヴォルデモートもそこまでの嫌がらせはしないだろう。煙突飛行すら禁止するほどの狭量ではないはずだ。いやヴォルデモートがあれは駄目これは駄目と言っているわけではなく、付随効果であるというのは理解しているが、兎に角ダリルは煙突飛行を使う事に決めた。
 後ろめたい気持ちに比例してセドリックへの返信のなかに「大好き」の数が増えていく。五十回ほども愛の告白をして、何がどうなると言うのだろう。よくもこんなにベタ甘な手紙を書けたものだと、書き上がった手紙へ思わず自分で感心してしまった。

 でもまあ、好きだという気持ちに偽りはない。それに恋人同士で、付き合い始めてひと月ちょっとなのだから、許されるはずだ。
 そう考えては、また顔を両手で押さえて机に突っ伏す。そのままもだもだと身もだえていると背後からドラコの声がした。
「……悪いものでも食べたか? 夜の間に食べると太るぞ」
 ダリルは扉脇で怪訝な顔をしているドラコへ振り向くと、机の端に飾ってあったヒッポグリフのぬいぐるみを掴んで投げつけた。

 駆け引きと策謀と平和とが同居するマルフォイ家の朝は、こうやって始まる。
 

平和な朝の作り方

 
 


七年語りLULL BEFORE THE STORM