七年語り – PHILOSOPHER’S STONE
17 扉越しの伝言
ハリーは知らない相手との文通ごっこに飽きたらしい――ダリルはハリーからの手紙を見返しながらため息をついた。
今、ダリルはグリフィンドールの談話室にいる。傍らに詰まれた本は「禁じられた呪いの謎を紐解く!」ゴシップ雑誌、「子供がつかっちゃいけない呪文百選」パーティーコーナーにあった本、「絶対にやめさせよう! 未成年魔法使いの学外魔法使用!!」教育関連――等々。ルシウスが見たら卒倒してしまいそうな本を集結させて死の呪文について調べていた。
――それではハリーをこう、(ぎゅっと首を絞める仕草をした)きゅっとしめてゴミ置き場に置いておくのは無理だったんですね?
闇の帝王(以下闇帝):ポッターの力は大きすぎて赤子の内から俺様を上回っていたのだ。奴を殺すぐらいだったらマグルに隷属したほうがよっぽどマシさ(紅茶の傍らにあるパウダークッキーをつまみながら闇の帝王はおちゃめに言ってみせた)
この文章を読んだ瞬間、ダリルは久方ぶりに「実家へ帰りたい」と思った。家に帰れば禁じられた呪文についての資料がそれこそ山とあるし、ルシウスが出かけさえすればダリルはそれを自由に読むことが出来た。屋敷僕はダリルに甘かったし、彼女の言う事を殆ど叶えてくれる唯一の存在だった。マルフォイ邸ではそこらへんに散らばっている本がホグワーツでは閲覧禁止の棚にあるのだから、やっていられない。
勿論やっていられないと思う件は他にもあった。談話室の隅にあるソファに腰掛けているダリルの目の前には例の双子がいる。全く奴らと来たらダリルと遭遇する度に飽きもせず碌でもないからかいを投げかけてくるのだから――マダムの下の通路を潜ってくるなり、二人は一直線にダリルの下へとやってきた。その速度はダリルが本を片して部屋へ戻ろうとするのよりずっと早い。
「ミス・スリザリンがユーモアというものの存在を信じておいでになったとは知りませんでしたな!」
フレッドがにやっと笑って、ダリルが抱えていた本を取りあげる。本のタイトルは「闇の帝王にどっきりインタビュー」だ。彼らの言う通り、その本は古今東西のジョーク集が並ぶなかにあった。開かれたページを覗きこんだジョージが、顰めつらをしてみせる。
「マルフォイのお嬢様が読んでるってこた、今まで俺達が散々嗤ってきたこの記事は本当なんだろうな」
「全く闇の帝王ってやつは気が利いてるよ」
ジョージの指が、闇の帝王が小指を立てて紅茶をすすっている挿絵を弾いた。
「貴方達ほどではないわ」
ダリルはつんと澄まして口にした。ダリルは相変わらず双子が好きではなかったし、スネイプとレディの次ぐらいには嫌いだった。
「お二人が闇の帝王の偉業……」ダリルはジョージの手から本を奪い取ると、挿絵を囲む文言をちらと眺めて、(我々としては闇の帝王の偉業ってのは、恋愛における吊り橋効果を与えてくれたことなんですよ! 貴方のおかげで好きなあの子と結婚に至った男ってのは少なくないもんです)冷ややかな視線を二人に注いだ。「……吊り橋効果に興味がないようだったら、私は休ませてもらいます」
なるたけマクゴナガル教授のように厳格な響きで聞こえるようダリルは苦心した。その甲斐があったのか、双子はダリルの台詞に何をからかうでもなく黙っていた。ダリルは「相変わらず変な人達」と思うだけで、女子寮に引っ込んだ。
ダリルが、双子が来る可能性の高い談話室に居座っていたのは、自分と同じく一人で本を読んでいるハーマイオニーを観察するためだった――しかし、やはり双子の脅威の前では彼女への心配は二の次となった。
部屋に戻り、双子から解放されたダリルは、ここ最近元気のないハーマイオニーのことを考えていた。
ハリーへの返信を如何やり過ごすかも心配の一つであったものの、ああして無理をしているようなハーマイオニーを見れば吹き飛ぶ。
「如何してしまったのかしら……」
後ろ手に扉を閉めてぼやけば、ベッドの上にいたレディがこちらへ顔をあげた。シュルルと舌を出している。
三寒四温ということわざが東洋にはあるが、ダリルの生活はまさにそれだった。
少し暖かくなったと――明るくなったと思えばすぐに次の問題が発生した。今回の問題はダリル自身とは無関係であるとはいえ、だからこそ何も出来ない歯がゆさを噛み締めていた。
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ハーマイオニーの憂鬱も晴れず、死の呪文についての調べ物も進まないままハロウィンの朝が来た。
朝食の席でハリーがしょんぼりしている姿が見える。遠目にしか見えないが、ハリーがヘドウィグに何かしら問いかけてるのが見えた。梟は話せないから良いものの、賢いヘドウィグはちらっとこちらを向くことで主人の問いに答えようとしているらしかった。
ダリルはヘドウィグが自分の頭に止まる前に大広間を出て行くことにした。父親からの手紙も受け取っていないが、ハリーにミス・レターの正体がバレるよりはマシだ。ハリーとの手紙のやりとりを断つつもりは、ダリルにだって毛頭ない。
何か、自分の正体を誤魔化せるようなビッグニュースが降って湧いてきたら、何もなかったかのように手紙を出そう。
少しでも悪い方向に進んでいくと何もかもそうなってしまうものだ。
もうひとつ最悪なことに、とうとう妖精の呪文で物を飛ばす練習を始めることになった。ダリルはげんなりしてしまった。
配られた羽根に幾度杖を振ってみても、何事か言っているふりをしてみても、羽根はピクとしか動かない。ダリルが動かしたのではない。窓から入ってきている風と、前の席で大仰に杖を振り回しているパーバティ・パチルの動作によるものだった。
フリットウィック教授が茶目っけたっぷりに語った魔法使いバルッファオの話も、ダリルにはピンとこなかった。
不幸中の幸いは皆が皆上手く魔法をかけれたわけではないことだろうか。暫くの間は「何故上手くいかないのだろう」という顔で杖を振っていれば、何とか皆に溶け込めそうだった。尤も、そんな浅知恵でいつまでも誤魔化せはしないだろう。ここのところ魔法を実践する授業が少なかったこともあって忘れていたものの、久方ぶりに死の呪文より先に自分の魔力について如何にかしなくてはならないと強く思った。
最近クィレル教授と自分は横道に逸れ過ぎている。そんなことを考えていたら、ネビルがダリルに配られた羽根を燃やしてしまった。
「ごめん」
泣きそうに顔を歪めたネビルへ、ダリルは困ったような顔をした。ダリルは未だにグリフィンドール寮生の誰かへ笑って見せたことはなかった。少しばかり気を許していると言っても良い、この劣等生仲間にもそれは同様だった。
「良いのよ。どうせもうすぐ授業も終わってしまうわ――寧ろ片づける手間が減って良かったぐらいだわ」
自分ではにっこり笑ったつもりだったが、数多くの悩み事が彼女の表情を暗いものにする。
既に同寮生たちからは死喰い人のように思われていないようだったが、その憂鬱そうな表情が彼女の周囲に人を留まらせなかった。
美貌を鼻にかけている高慢ちきのようにも見えたし、お高く止まっているとか、人を不愉快にするとか思われていたが、一番はグリフィンドール寮に組み分けられたことが不満なのではないかと皆に思われていた。
マクゴナガル教授の居室ではしゃいだようにしてみればきっと友達も出来ようものを、ダリルにとって人前で自分の本心を露出してみせることは恥ずかしい行為であり、目上の相手なら兎も角、同世代が相手となれば如何振舞って良いものか分からなかった。
「ごめんね」
ネビルはダリルを悲しませてしまったと思い、一層消え入りそうな声で謝罪を繰り返した。
ダリルはその謝罪に「気にしていない」と彼を慰めようとしたが、フリットウィック教授の称賛に遮られてしまった。
「グレンジャーさんがやりました! 見事な浮遊呪文ですよ!!」
黒板近くの机の前で立っているハーマイオニーの表情に嬉しそうなところはなく、義務をこなしただけという風にツンとしていた。少し悲しそうですらあった。それは隣に立っているロンがブツブツと彼女へ文句を言っていたからかもしれない。
「ハーマイオニーって凄いよね」
ネビルがぽつんと零した。きっとそれは率直な感想で、元から相槌など必要としない類のものだったのに違いない。
「ええ!」
ダリルは力強く頷いた。その声音にネビルがぎょっとした顔を向ける。
「彼女って本当に素晴らしいわ」
嬉しそうににっこり笑っているダリルを見てネビルはちょっと考えた。もしかして、彼女はドラコとは全く違うのかもしれない。高慢ちきでも、お高く止まっているわけでも、人を不愉快にさせようとしているわけでも、グリフィンドール寮を嫌がっているわけでもないのかもしれない――ハーマイオニーがマグル生まれだということを知らないものは殆どいないはずだった。
「どうかして?」
ネビルの視線に気づいたダリルはもう元の憂鬱そうな暗い顔に戻っていた。
ハーマイオニーはまだ憂鬱そうだったが、授業できちんと成功を収めるぐらいなら、またすぐに元気になるかなとダリルは思った。
しかしその日和見な見解は授業後に改めされることとなる。
授業が終わった後の人ごみはどう頑張っても避けようがない。生徒が居なくなるまで待っていれば次の授業に遅れてしまうし、皆より早く出ようと考える生徒は多くいた。だから如何あってもダリルは人ごみに押しつぶされるほかないのである。
大嫌いな人ごみでも、良いこともある。思いがけずハリーの近くのほうへと流されると、ダリルの心は温かくなった。その日も人ごみの幸福に預かったダリルは、自分よりちょっと背の高い、もじゃもじゃした黒髪をすぐそばに見つけて頬をほころばせた。
ダリルは二人の少し後ろをついて歩きながら、彼らの会話に耳を澄ませてみた。ハリーと自分の間に挟まった女子のお喋りと、二人が潜めるような声をしているおかげで聞き取りづらい。しかし、窘めるようなハリーの声を遮るロンの台詞は明瞭だった。
「あんな奴に一体誰が我慢出来るって言うんだ? 全く悪夢みたいな奴さ!」
ダリルは目を見開いた。
あんな――あんな優秀な魔女に、そんな事を思う人がいるなんて。同時にふわふわの栗髪が猛然と人ごみをかき分けて遠ざかっていくのも見えた。次の授業、闇の魔術に対する防衛術の教室とは真逆の方向だ。
「誰も友達がいないってことはとっくに気付いてるさ」
まだ鬱憤が晴れないらしいロンとそれを如何したものかと困惑しているハリーから離れると、ダリルはハーマイオニーを追っていった。
ハーマイオニーは人のいない廊下を駆けていて、ダリルは足音を立てないようにゆっくりと追いかけていた。それは勿論彼女に見つかりたくなかったからだし、追いかけて一体自分は如何するつもりなのだろうという疑問からでもあった。
正直言ってダリルはまだホグワーツ特急内でのハーマイオニーとの諍いを覚えていた。そして彼女も覚えているだろうと思っていた。何しろグリフィンドール寮で誰も友達がいないのはダリルとハーマイオニーの二人きりだったにも関わらず、彼女はダリルを避け続けていたのだから。ロンの台詞を気にするということは友達を全く欲しくないと思っていたわけでもなかろうに、ダリルは改めて彼女に嫌われていると感じていた。そんな、自分が嫌っている同級生が追いかけてきて、一体彼女はどんな気持ちになるのだろう。
ハーマイオニーが滑り込んだ女子トイレの扉を前にしてもまだダリルは迷っていた。でもせめて一言「私は貴女を悪夢みたいなんて思っていないし、少なくとも私は貴女に我慢ならないと感じたことはない」と言ってやりたかった。
そのぐらいだったら嫌いな相手に言われても――自分の嫌いな人に言われた場合を想定してみたがスネイプ以外だったら受け入れられると思った――平気だとダリルは覚悟を決めた。決めた割に、いつでも後戻り出来るようにそろそろと扉を開けるのだった。
一番奥の個室からハーマイオニーのものだろう頼りない泣き声が聞こえる。
ダリルは感心した。確かにトイレの個室に入ってしまえば嫌いな人に会うこともないし、ゆっくり自分の感情を露出させることが出来る。
今度自分も嫌なことがあったら女子トイレに籠ることにしよう。本当にハーマイオニーって色んなことを知っているのね。
ダリルは場違いな賛美を心中繰り返すと、そうっと個室の扉の前に立った。
扉に耳を当てる。じんとハーマイオニーの泣き声が耳を震わせた。
「……ハ」
声が喉に張り付いた。ホグワーツ特急ではミス・グレンジャーと呼んでいたのに、許しもなくファーストネームを呼んで良いものか戸惑う。如何しようと悩んでいたのに、舌が勝手に続けてしまった。「――マイオニー、ハーマイオニー」
ぴたっと泣き声が止まる。ぐすぐすと嗚咽交じりに彼女が返した。「ひと、一人にして」
そりゃ、そうでなければ何のために個室にこもっているのか、折角ここまで走ってきた甲斐がなくなるというものだ。
納得したダリルは彼女を一人にしておこうと思った。余計な事を言うのは止めて、彼女の望み通り一人で思う存分泣かしてやろう。
「私、貴女が好きよ」しかしぽろっと、唇から滑り落ちてしまった。
ダリルはぽっと赤面した。どうか自分だとバレませんように――嫌っている相手が今まで自分をずっと見ていたとか、憧れてきたとか、スネイプに置き換えると吐き気がするレベルに気持ちが悪い。どうかハーマイオニーのなかで、スネイプよりかは好かれていますように。
「ロ、ロンの言うことなんて気にしないで、貴女は素晴らしい魔女よ」
段々とダリルは高揚してきた。自分の台詞だけを切り取れば、まるで自分とハーマイオニーが友達のように聞こえる。
「確かに少しだけ意地っ張りなところがあると思うけど、貴女は誰に恥じることもないじゃない。
ロンが怒ったのは、貴女が悪夢みたいだって本気で思っているからじゃないと思うわ。貴女は自分が優秀な魔女だって知らないでしょう。貴女って凄いのよ。だから皆貴女みたいに出来ないのだけど、貴女はそれが分からないのだと思うの。
でも貴女が悪いわけじゃないわ。貴女もロンもきっと悪くないの。だから貴女は貴女のためだけに泣いたら、また前のように元気になってね。私、貴女がハキハキと教授達の質問に答えているのを見るのが好きだわ。
じゃあ私行くわね。後で貴女の部屋の前に、今日の授業の要点を書いたものを置いておくから……」
自分でも自分が気持ち悪い。もうこれ、半ばストーカーじゃないかと赤面しながらダリルは踵を返した。
返事はなかったし、やっぱり気持ち悪いって思われたのだろうな、最悪自分だったと気付かれてしまったかもしれない。
パタンと音を立てて女子トイレの扉が閉まった。
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ハーマイオニーは瞳に涙を貯めたまま自分が籠っている個室の扉を見つめていた。
悲しいことがあるとトイレの個室に籠るようになってから幾年経っただろう。
マグルばかりが通うプライマリースクールで、ハーマイオニーは一人の友人も作らないままに、勉強だけを友に過ごしてきた。
同級生ばかりか教師まで訳のわからない事象を巻き起こすハーマイオニーを遠巻きにした。悪夢のようとハーマイオニーを形容したのは何もロンが初めてではない。担当教諭が他の教師達に愚痴を零すときの定型句だった。悪夢のような生徒――勉強が幾ら出来ても教師達はハーマイオニーを可愛がってはくれなかった。それも当然でプライマリースクールで何より大事にされるのはムードメーカーだったり、リーダーシップがある子だったり、教師に迷惑をかけない子だった。ハーマイオニーはその真逆である。
彼女を大事にしてくれるのは家族だけだった。勉強が出来るのだから、他に面倒を起こしてようと何も恥じることはないと言ってくれた父親。私の大事な不思議ちゃんと抱きしめてくれる母親。ハーマイオニーの居場所は家か、さもなければ女子トイレにしかなかった。
一度個室に籠っているところに水をかけられたこともあるが、ハーマイオニーに手を出した者は皆何らかの怪我を負った。
今思えばそれは魔力が暴走していただけで、人一倍魔力が多く生れた彼女故に引き起こす騒動も大きかったに過ぎないものなのだが、勿論誰もそれを喜んだりはしてくれなかった。寧ろそれがハーマイオニーを孤独にする何よりの理由になった。
ホグワーツに入学するのはハーマイオニーにとって大きな賭けだった。
自分が魔女で、今まで引き起こしてした問題の全てがそれに起因すると、ホグワーツに来て学べば魔力を制御出来ると聞いて、ハーマイオニーもその両親も一も二もなく入学すると決めた。幾ら勉強が出来ても、このままでは学校側にすら入学を拒絶されそうだったから。
此処でなら優秀だと誉めてもらえる。誰にも馬鹿にされない。――友達も出来る。周囲に頭を下げる両親を見なくて済む。
そう思って来たのに如何だろう。
ホグワーツ特急のなかでは自分が欲しいものを全部持ってる女の子が居た。純血一族に生まれて、きっとハーマイオニーのような苦労などしたことはなかっただろう。キチガイだとか、悪夢だとか、化け物だとか罵られたこともないだろう可愛い少女だった。
せめて自分も彼女ぐらい綺麗だったら問題を起こしたって周囲からあんなに拒絶されることはなかったろう。
スリザリン生からはマグル生まれだと馬鹿にされ、今までがそうだったからと同室の少女達の会話にも上手く混ざれない。ぼさぼさの箒頭だとか、高慢ちきだとか、出来そこないだとか周囲にそう思われないよう、両親をがっかりさせないようハーマイオニーは頑張ってきたつもりだ。その結果がロンの『悪夢みたいな奴!』である。懐かしすぎる罵倒はハーマイオニーの鎧を打ち砕いた。
もう家に帰ろうと思った。マグルのなかでも、魔法使いのなかでも私は変わらないじゃないと思った。
……そう、さっきまではそう思っていた。ハーマイオニーはぐすぐす鼻を鳴らし、トイレットペーパーで鼻をかんだ。
『私、貴女が好きよ』
一体誰だったのだろう。グリフィンドール寮生で、恐らく同級生だろうという検討はついていたが、思い当たる人はいなかった。
否、正確に言えば一人だけは浮かんでいた。二か月前に話したのが最後だったのでどんな声をしていたかは分からなかったが、あの見事なクイーンズイングリッシュはそう耳にするものではないだろう。
美しいプラチナブロンドにブルーグレイの瞳、人形のように可憐な容貌をしているダリル・マルフォイ。
自分と同じく一人でいる彼女だが、惨めに孤独でいる自分とは全く違う。苦しげに眉をひそめている彼女を見れば誰だって気軽に話しかけられないはずだ。友達が作れないのではなく、付き合う人間をえり好みしているから、自分に釣り合う人間がいないと思っているから一人でいるように思えた。そうでなければ疾うに友達の十人やそこら出来ているはずだ。ハーマイオニーはそう思った。
しかし彼女が自分に話しかけてくることは――まして慰めてくれるはずはない。
ダリルは一昨年ハーマイオニーのクラスを担当してくれた女教諭に似ていた。
若く自信に満ち溢れた女教師は初めのころハーマイオニーを可愛がってくれたものだ。それが段々と、ハーマイオニーが周囲に嫌われる理由を知って――勿論貴女一人が悪いんじゃないわ。でもね、貴女はもう少し言葉を慎む必要があるのよ。ダニーは五針縫う怪我を負ったわ。確かに先にからかったのはダニーだけど、貴女ももう少し気を付けるところがあったでしょう――ハーマイオニーはぎゅっと目を瞑った。
自分のどこに気を付けることがあったと言うのだろう。如何すれば気をつけられると言うだろう。
彼女の言い分はまるで、まるでハーマイオニーがダニーを怪我させたかのようなもので、ハーマイオニーは彼女だけは何があっても自分を信じてくれると、そうでなくとも、ハーマイオニーが他人を害するような女の子ではないと分かっていてくれると思った。
そう思っていた。信じていた。でも、結局あの人だって“皆”と一緒だった。かつての絶望を思い出し、ハーマイオニーは再び泣きだした。
ハーマイオニーが今欲しているのは、あの女教師からの謝罪と好意の言葉だった。もうひとつ「もしかして、もうちょっと、あの時落ち着いて話せていれば、先生は私のことを嫌いにならなかったのかもしれない」という疑念を忘れ去りたいという気持ちが喉を詰まらせる。
あの人は少なくとも私のことを悪夢だとは言わなかった。疎遠になってからも他の生徒と平等に扱ってくれた。
そう思い返しては一層悲しい気持ちになるのだった。二度とやり直せないことが分かっているから、余計に涙が止まらない。
七年語り – PHILOSOPHER’S STONE