七年語り – PHILOSOPHER’S STONE
26 魔法はどこにもいなかった
朝食が済むと――ダリルは紅茶すら口にしていなかったが――今度は家族以外から贈られてきたプレゼントを開ける時間だ。
これは幾らか気楽な作業だった。何しろ一々「なんて素敵なの!」とか「きっと夏が来るまで重宝するでしょうね」とか言っていたら夜までかかっても解ききれないほどの包みがあったし、当たり前に交友関係の広い両親達のほうが忙しい。
ルシウスに対してするよりずっと気を使わなければならないナルシッサとのプレゼント交換、ドラコとのプレゼント交換でダリルはすっかりくたびれてしまったので、朝食が終わるのが待ち遠しかった。一刻も早く両親の目から逃れたくて堪らない。
今日が終わるまでまだ長いと思えば、ダリルは倒れたくなった。ハリーの初試合の時に熱を出さずに、今出せたら良かったのに。
幸いなのは両親に宛てられた包みが例年より多いことだろうか。上手くいけば午後にまで持ち越すかもしれない。
ため息交じりに包装を解いては片手に持ったメモに何か書きつける両親を尻目に、ダリルは一番小さい山の前に立っていた。一番小さいとは言え、ホグワーツでの生活を顧みるにこれでも多いほうだろう。家柄様々と言った感じだ。有難いか如何かは抜きにして。
包みをひとつひとつ手に取ると、パンジーから、フリントから、ダフネからといった「いつ仲良くなったっけ」と言いたくなるような相手からのものが多い。勿論ダリルも彼らには適当な品を贈っている。家柄が有難くない所以だ。
ざっと手に取って見たところ、意外な人からの贈り物はないようだった。予想通り退屈な開封作業が始まる。
ダリルも両親同様メモを片手に包みを開き始めた。
箱に入ったチョコレート、本の形をした入れ物のなかに詰まっているクッキー、可愛らしいぬいぐるみとその手に持っているキャンディーバスケット、魔法薬学の参考書、新しい羽根ペン、クルミのタルト、アップルパイ、詩集……当たり障りなく義理の仲に相応しい贈り物だった。ダリルも似たり寄ったりのものを彼らに贈っている。全くもって流れ作業と言うに相応しい無関心さでダリルは何を贈るか選び、そして今開封している。退屈な開封作業は二十分と経たないうちに終わってしまった。
他の三人はまだ包みを開いては中のものに一喜一憂している。ルシウスは贈られてきたものの四分の一も開ききれていない。それに包みを開くのが終わっても、まだカードがある。そうと思い出したダリルも、ツリーに括りつけられたカード達を手に取った。
プレゼントの開封作業より、カードを眺めるほうがまだしも面白いかもしれない。カードに描かれた絵は美しいし、技巧の凝らしたものが多い。贈り主との仲が義理のものだったとしても、相手のセンスを垣間見るのは楽しかった。
意外と少女趣味なのねとか、もっとゴテゴテしたのを送ると思ってたのにとか、予想通りだわとか送られてきたクリスマス・カードを見ているとクィレルからのものがあった。途端にダリルはぱっと表情を明るくする。ダリルはクィレルにクリスマス・カードとクリスマス・プレゼントを送っていたが、クィレルは教員だし、礼状以外に何か貰えるとは思っていなかったので嬉しくなった。
しかしカードを開いた瞬間ダリルは面食らうこととなる。
『生魔水稀狼森さ分生生性優魔、真ん中、まん真ん中』
「……何かのメモと間違えたのかしら」
クリスマス・カードにうっかりメモしたまま送ってしまうというのはあり得ないように思えたが、クィレルならやるかもしれない。
ダリルはもう一度カードに書かれたわけのわからない文章を黙読すると、クスクスと笑いだした。そそっかしいクィレルが面白くもあったし、カードを送ってくれたというだけでダリルは十分嬉しかった。寧ろ定型文で祝われるよりこちらのほうが嬉しいと言うものだ。
ダリルはクィレルからのクリスマス・カードをカードの束の上に置いたりはせず、脇に除けておいた。
クィレルからのカードのおかげで、今日は憂鬱なだけのクリスマスでなくなりそうだ。そう思いながらダリルは最後に一通残った封筒を開ける。少し分厚いなと思ったが、その理由はすぐに分かった。封をあけてカードを引っ張ると、一緒にリボンが出てきた。赤いだけで何の飾りもないリボン。きっとルシウスやナルシッサならセンスの欠片もないとか、安物だとか、色が明るすぎるとか言ったろう。
ダリルは震える指でカードを開く。ミス・レターへという文字が目に飛び込んできた。――ハリーだ!!
ミス・レターへ
返信が遅れててごめん。すぐに手紙を送るから、また手紙下さい。
いつも優しい言葉をくれる貴女には赤い色が似合うかなと思ってリボンを同封しました。
ちょっとでも喜んでくれたなら次の手紙から敬語はなしで、使ってきたら嬉しくなかったんだなって思うことにします。
メリークリスマス、貴女が楽しい一日を過ごせるよう祈ってます。
友情を込めて、ハリー。
ps.貴女も僕の素晴らしい友達の一人です。
零れおちんばかりに見開いた目で、ダリルは追伸に書かれた文章を凝視した。
僕の素晴らしい……貴女も……友達……友達、ダリルは胸の内に満ちていく幸福を如何したものか――僕の友達の一人――もうハリーのカードについてしか考えられなかった。ふわふわと思考が落ち着かない。ダリルを友達だと追伸に書いてくれた、ハリーが、ハリーが……!
ダリルはカードを手に持ったまま、じっとそれだけを見つめていた。
クィレルからのクリスマス・カードも素晴らしかったが、ハリーのとは比べるべくもない。何しろこのカードはダリルにとって初めての友達から貰ったものなのだ。そして同封されていたリボンは、友達から贈られた初めてのクリスマス・プレゼント。
ルシウスから貰ったネックレスより、ナルシッサから貰ったドレスローブより、ドラコから貰ったブローチより――勿論箱に入ったチョコレート、本の形をした入れ物のなかに詰まっているクッキー、可愛らしいぬいぐるみとその手に持っているキャンディーバスケット、魔法薬学の参考書、新しい羽根ペン、クルミのタルト、アップルパイ、詩集なんかより、何もかもをひっくるめたよりも素敵な贈り物だった。
満足するまで(永遠に眺めいられただろうが、とりあえずということだ)ハリーからのカードを眺めてから、ダリルはリボンを見やった。
自分に似合うだろうか……ダリルは幼いころから、色素が薄いから濃い色は似合わないと言われ続けてきた。濃い、それも暖色のリボンだ。似合わないに決まっている。そう思ってから、使うなんて勿体ない事出来ないとも考え、でも仕舞うだけだって勿体ないとか、なら使うとして何に使うのかとか、真っ赤なリボンを見つめてダリルが思案する。結論は出なかった。
活用法については後でゆっくり考えることにして、ダリルは赤いリボンをカードと一緒に封筒のなかへ仕舞った。僅かに膨らんだ封筒をくるっとひっくり返すと、宛名を書く面に大きくハリー・ポッターと書いてあった。
それがなんとも人に物を贈り慣れていないだろうハリーらしくて、ダリルはまた声を立てて笑ってしまう。
宛名を下にして、クィレルのカードの上に重ねた。今年はなんて素晴らしいクリスマスなんだろう。
ダリルは二通のカードを見て、胸が温かくなるのを感じた。朝食の時の憂鬱は全て消え去って、とても幸福な気持ちだった。
「ダリル、ちょっと良いかしら」
カードに呆け面を向けていたダリルが慌ててナルシッサを振り向いた。
「私の部屋から羽根ペンを持ってきて頂戴。化粧台のなかに新しいものが入っているから」
ナルシッサが恨めしそうに右手で摘まんだ羽根ペンを眺めながら頼んだ。
屋敷僕妖精に頼めば良いのに……と思ったが、屋敷僕妖精に化粧台を触らせたくないのだろう。母自慢の化粧台は、その祖母から譲り受けたものだと言うだけあって一面に仰々しい飾りが施されており、それこそ杖で叩いただけで飾りが取れるだろうなとダリルは常々思っていた。それに屋敷僕妖精達は昼食作りに駆り出されているに違いない。さもなくばそれに準じるような何かに。
「はい、お母様」
ダリルは素直に頷くと――尤も頷かないことなど殆どない――プレゼントの山とカードを置いて、広間を出て行った。
広間を出た途端にブルリと体が震えた。元々石造りの邸は冷えやすく、今までも温かいところにいたとは思っていなかったが、誰もいない廊下は広間より一層冷え込んでいた。窓を覗けば雪が降っている。
ハリーも今頃ホグワーツで雪を見ているだろうか。自分の贈った手袋を喜んでくれただろうか。いつ手紙をくれるだろう。クリスマス休暇が終わってからだろうか、それとも休暇中にくれるだろうか。ダリルの頭の中は未だにハリーのことで一杯だった。
「さっきから、何をぼんやりしてるんだ?」
「えっ」
「元から間の抜けた顔を余計にだらしなくして、お前は如何するつもりだ」
聞こえるはずがない声にぎょっとして振り向けば、ドラコが「呆れきった」とデカデカ書いた顔でダリルを見つめていた。
「ドラコ……」きゅっと胃が縮んだ。「如何したの?」
「羊皮紙が足りなくなった」
「あ――ああ、持ってくれば良いのね? どこにあるって、お母様は言ってらしたの」
用件を追加しにきただけかとダリルが納得した途端、ドラコはその端正な顔をめいっぱい歪めた。
「僕が僕の部屋へ取りに行くんだ」
「そ、そう」
一巻きで足りなくなるほど届いていたかしらと思ったが、今は疑問を口に出来る雰囲気ではない。ダリルは黙り込んだ。
妹のぼんやりとした返事にふーっと深いため息をつくと、ドラコは歩き出した。ダリルも歩き出す。
別に一緒に行かねばならない理由もないが、頼まれごとを放って窓辺でぼーっとしているわけにも行かなかった。それに一緒に行きたくなくても、階段を上りきるまでは仕方ない。階段を上ってさえしまえば反対方向なのだが、兎に角ナルシッサの化粧台がある両親の寝室も、ドラコの部屋も二階にある。ドラコとダリルは縦に数歩の距離を置いて階段を目指していた。
ダリルはドラコの背が見えないよう、俯いて歩く。まだ気まずさも緊張も残っていた。
「思ったより色々届いてたじゃないか」
沈黙を破ったのはドラコだった。
「ええ……でも去年だって同じようなものだったわ」
ダリルは当り障りのない返事を口にする。最早ハリーのカードを見た時の幸福感はなりを潜めていた。緊張が全身に満ちる。代わりに思考はクリアになってきた。ダリルはドラコの背を見ようとしないまま歩き続ける。
「そうでもないだろう」
「それは勿論、貴方は“そうでもなかった”でしょうね……」
早く階段のところに辿りつきたい。誰か、両親がいたら二人で話す必要もなくなるのに。ダリルは用を言いつけたナルシッサを恨んだ。
ドラコはダリルのことなどお構いなしでペラペラ話しかけてくる。
「ホグワーツに入ったんだから、去年より増えていなければ可笑しいというものだ」
「そうね。貴方はスリザリンで沢山友達を作ったようだし、クリスマス休暇で友達と離れるのは寂しかったでしょうね」
ようやっと階段に辿りついた。なんで、この階段は無駄に長いんだろう。目に入るもの全てが恨めしくなり、ダリルは階段に八つ当たりする。しかしダリルがそう思うのも仕方ないと言えた。ドラコの話はどんどんと危ない方向へと進んでいく。
一体全体、今日は如何してこんなに饒舌なのだろう。
度々機会があったにせよ、四か月も口を利かなかったのだから、ドラコがダリルのことを避けていたのは明らかだ。それにダリルはこの双子の兄が何の切っ掛けもなく自分を許してくれるような人ではないと分かっていた。そうでなければこの数年の不仲が説明出来ない。
「お前はそうだったのか?」
一段目、二段目、ドラコはゆっくりと階段を上っていく。ナルシッサがいない時までマナーを守る必要はないのにと、ダリルは歯がゆく思った。今更ドラコを追い越して行くわけにも行かない。
「まさか……元々パンジー達とは寮が違うし、家に帰ったってそう変わりはしないわ。それにあと六日もすれば会えるもの」
「そうだろうな」
確かに不仲だったとはいえ余程のことがない限り――それこそ私がグリフィンドールに組み分けられたとか――社交辞令じみた会話は交わしてきたが、“余程のこと”があった時ドラコは決して月日なんかでダリルを許すことはなかった。
その、“余程のこと”はいつ終わっただろう。ドラコはいつダリルがグリフィンドールに組み分けられたことを許しただろう。
永遠に続くようにも感じられたが、二人は無事に階段を上り終わった。
「それじゃあ、また広間で会いましょう」
ダリルは口早に告げるとドレスローブを翻し、寝室のほうへと進んでいこうとした。その腕をドラコが掴んで、乱暴に引き寄せた。
「ポッターとは付き合わないほうが身のためだ」
殆ど耳元で囁かれた忠告に、ダリルはかっと首まで赤くなった。見られた……!
脳裏を過ぎるのは、置きっぱなしにしてきたカードのことだった。私的なものを見られた羞恥もあったし、誰にも知られたくないと思っていたものから目を離すようなヘマをした自分への怒りも、勝手に自分のカードを覗くドラコに対する怒りもあった。知られてしまったという驚きも、焦りも、ダリルは言うべき言葉が浮かばないまま二度三度口を開け閉めした。
ドラコはダリルの肩を掴んで、自分のほうを向かせる。
「父上や母上が、お前がグリフィンドールの馬鹿に親しみを持ってると知ったら」
続きを言うことは出来なかった。ダリルがドラコの台詞が終わるのを待たず、思い切り彼の頬を引っぱたいたのだ。
「勝手に――勝手に」ダリルは激しい怒りを声に絡ませて、震える言葉を紡いだ。「私のカードよ……! 私の初めての友達からのカードなのよ!! パンジーやマーカスやダフネからの義理のカードなんかよりずっとずっと大事なものなの! それを、それを勝手に――」
ドラコはダリルの利き手を掴むと、ぐいと下げた。ダリルは腕をよじるようにして、その束縛に抗ったが、男女の力の差は明らかだ。
「自分の本名も知らない相手がお前にとっての友達か? 馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、ここまで救いようがない馬鹿だとは思わなかった」
「それは今関係ないわ! 貴方は私のカードを勝手に見たの、そんなコソ泥みたいな真似を……」
「お前はポッターからのカードを見られたから、僕や父上達に後ろめたいと思ってるから怒ってるんだ」
「ええ、そうよ! 知られたくなかったの! 知られたいと思う? 現に貴方、さっきなんて言ったの? 私に……私に命令したのよ! ハリーと友達になるなって!!」ダリルはドラコの足を思いっきり踏みつけた。予想外の痛みで拘束が緩んだ瞬間、ダリルはパンとドラコの手を振り払った。鋭い視線がドラコを射抜く。「貴方は目の前にいるのが屋敷僕妖精でなく自分の双子の妹だと分かってないんだわ」
大人しくて引っ込み思案、家族の言うことにいつも露骨な否定や拒絶を見せなかった妹が、こんなにも激しい怒りをぶつけてくることが未だかつてあっただろうか。ダリルの激昂を目の当たりにして、ドラコは怯んだ。
「いつもそう、あれは駄目、これは駄目」
ぼろぼろとブルーグレイの瞳から涙が溢れる。ダリルはそれを拭うことすらなく、ドラコに食ってかかった。
「私、もうスクイブじゃないわ! ホグワーツにも入ったし、じきに魔法だって使えるようになる。もうマルフォイの家名に恥をかかすような存在じゃあないでしょう? 私、きちんとパンジーとも仲良くする。グリフィンドールに友達も作らない。勉強もしているわ」
片割れと同じ色の瞳に怒りを滾らせ、興奮を露わに感情的な台詞を口にする。
苛烈な感情を全身に漲らせて声を荒げるダリルは美しかった。幼いころドラコの手を引いた、女王然とした彼女がそこに居た。
懐かしいと感じたが手を伸ばすことは出来なかった。ダリルはドラコの存在そのものを拒絶したがっているようだった。
「いつになったら私は貴方達に引け目を感じずに済むの? いつになったら貴方達は私を厄介者扱いしなくなるの?」
ダリルは体を震わせる。
「何も分からない。もう何も分からないわ。私、ドラコともう一度仲良くなりたいって、前のようになりたいって一生懸命、私なりに頑張ったつもりよ。そりゃ、グリフィンドールに入ったわ。でも、それだってスクイブでホグワーツにすら入れない妹を持つよりずっとマシでしょう……? なのに貴方はホグワーツ特急で私を置いてったきり、すれ違っても挨拶すらしてくれなかった。パンジーが私を笑って、馬鹿にしてても無関心だった。私は未だに友達が一人もいないわ。何故だか分かる? 貴方がグリフィンドール生をからかうからよ。皆私が死喰い人なんじゃないかってぐらい遠巻きにしてたわ。それがやっと、やっとよ。少し話せるようになったのに、今度はパンジー達が近づいてきた! いつもの、お父様の気まぐれよ。お父様は自分の娘が他人に馬鹿にされてるのが気に食わないんだわ。私が望んだわけじゃないのに、良い迷惑よ。お父様は私がグリフィンドールに入ったことを未だに認めてない。帽子が狂ったなんて言ってる。
私が選んだのよ!!! ハリーにもう一度会いたかった! ホグワーツ特急で優しくしてくれたわ。貴方がさっさとどこかへ消えてしまって、私がどんなにか心細かったと思うの!? トランクひとつ自分で持ち上げられなくて、ハリーが手伝ってくれなきゃホグワーツ特急に乗り遅れてた……! だからグリフィンドールに入ったの! 貴方が私を置いていって、ハリーが私を助けてくれたから!!!」
そこまで一気に捲し立てると、ダリルはぐったりと肩を落とした。俯く。
「……貴方はホグワーツ特急で私を置いていったわ。私、貴方が探しに来てくれてとても嬉しかった。今は私が魔法を使えないからドラコは優しくしてくれないけど、スリザリンに入って、頑張れば前のようになれるって思ってた。でも貴方は、」
ダリルは肩を震わせた。ドラコは思わず伸ばしかけた手をもう片方の手で押さえつけた。ギリと頬の裏を噛んで感情を紛らわす。
くしゃくしゃに歪んだ瞳が、ドラコの瞳に重なった。ダリルが重たげに頭を振って、両手で顔を覆う。
「貴方は……私を置いていったじゃない……」
消え入りそうにくぐもった非難で咎められ、ドラコは何も言えなかった。
反論したいことは山とあったが、自分の行動がダリルをここまで傷つけたのだと思えば、何も言う事は出来なかった。
二人は暫くその場に立ち竦んでいたが、やがてダリルが「ごめんなさい」と掠れ声で謝った。ドラコの脇へ向けられた視線は頑なで、その謝罪が上っ面だけのものであり、実際は欠片も自分を許していないことが悟れた。
「ハリーには、もう手紙は出さないわ。リボンも捨てる。貴方の言うとおりよ。所詮本名さえ教えていない間柄だもの……」
ダリルはぽつんと呟くと、ドラコが止める間もなく寝室のほうへ走りさってしまった。
七年語り – PHILOSOPHER’S STONE