七年語り1993’s summer diary
1993.06.17. suspicion

 

 六月十七日、曇り時々晴れ

 ダリルが僕を構わない。「ほら魔力の関係で、人に触ると頭痛がするようになったでしょう」などと澄ましているが、絶対にそれだけの理由ではないはずだ。今まで僕が何度注意しても、僕の目の前で堂々と着替えていたダリルが、「ドラコ、着替えるから少し出ていて」などと言うようになったことからも、その異変が伺える。一番の異変は、机に向かう時間が増えたことだ。最初はまたグリフィンドールの馬鹿共と手紙のやり取りでもしているんだろうと思ったが、明らかに可笑しい。羽根ペンも持たずにぼーっと何かを覗き込んでいる。
 まさか、ポッターと何かあったんだろうか。ダリルがポッター如きを相手にするとは思えないし、ポッターにはグレンジャーとウィーズリーのチビがいる。流石のポッターもダリルとの身分の違いというのは分かるようで、食事の際に観察したかぎりでは、あまり親しくしていないようだった。しかし、万一ということもある。それにダリルは今まで僕や父上という紳士としか接してこなかったわけだから、ポッターの粗野さを新鮮なものとして、過ちを犯す可能性もないではない。過ち、そう、つまり、考えたくもないことだが、
 (続きは書かれていない。ダリルがドラコの部屋に、ドラコを呼びに来たからだ)

「何を書いていたの? まさか、もう宿題を始めたんじゃないわよね」
 ダリルがドラコのベッドに腰掛けて、ふかふかとスプリングを軋ませる。その顔は不機嫌そうだった。
「私より先に宿題終わらせたら、千年恨むわよ」いつもの脅し文句である。
 本当にダリルが人を脅そうと思ったら、セドリックの友人達へするようにもっと直接的なことも言えるのだが、ダリルはドラコの前では猫を被っている。ドラコは妹が「それ以上何か喋ったら全身金縛り術ね。私、丁度魔法の練習相手を探していたの!」と口にするとは夢にも思っていない。目の前の妹がわざと穏やかな脅し文句を口にしているとは思わず、ドラコはいつも通りの妹へほっと安堵の息を吐いた。
「分かってる。お前こそ、最近やけに机に向かう時間が長いじゃないか」
「魔力が戻ったんだから、二年分の遅れを取り戻さないとね。呪文集を読んでいるの」
 探りを入れてみたが、ダリルはさらりとそれをかわした。
「……ポッターのことを如何思う」
「ハリー?」ダリルはきょとんとドラコを見つめてから、労しそうに眉を寄せた。「ドラコ、ひょっとして熱があるのではなくて?」
 その日はドラコがクィディッチの練習をするのにダリルが付き合ってくれる予定だったが、ダリルはドラコに外へ出ては駄目だと申し渡した。ドラコが自ずからハリーのことを口にするなんて――しかも悪口以外で!――具合が悪い証拠だとダリルは主張した。ドラコは散々ダリルに抗議したのだが、ダリルは聞く耳を持たない。ダリルは屋敷僕妖精へドラコをベッドに縛り付けるよう命令すると、クィディッチの道具をどこかに隠してしまった。
「ハリーに負けて悔しいのは分かるけど、無理は駄目よ。勝利よりもドラコの健康のほうが大事だわ」
 十五本目の温度計を口に突っ込まれながら、ドラコは「この異変の理由はポッターではないようだ」と考えた。
 

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