七年語り – 1993’s summer diary
1993.06.18. get ill
六月十八日、曇天
今日もダリルがベッドから出してくれない。僕を心配しているというよりも、僕に何かを探られたくないからベッドに縛り付けているのかもしれない。こうやって日記を書いている間にもダリルがトロールじみた馬鹿男に騙されているのかもしれないと思えば、良くなるものも良くならない。腹立たしいことだが、ダリルの言うとおりポッターなんぞの名前を口にしたからか、本当に体調を崩してしまった。
ダリルが来ない。僕が寝込むと、決まって一緒に寝てくれたのに、来ない。ダリルと仲直りしてから寝込んだことがないからよく分からないが、来ない。“決まって”と言っても五年前のことだが、来ない。ウィーズリーの馬鹿に何か吹きこまれたのかもしれない。去年コンパートメントで抱き合ってるのを見られたのは、完全なる失態だった。尤もそれでからかわれることがなかったということは、ダリルがあの馬鹿共に何事か釘を刺したのかもしれない。来ない。紐で縛り付けた上に、下半身に局部金縛り術を掛けられているから、動くことも出来ない。僕が洗面所に行きたがらないとでも思っているんだろうか。流石にこの年になって、たかが洗面所に行くために母上やダリルを呼びつけるのは嫌だ。それとも這って行けということだろうか。あの馬鹿、なんで傍にいない? やはり何か、僕に隠している。
屋敷僕妖精を呼びつけて術を解かせようとも思ったが、幾ら呼んでもキィーリレルしか来ない。苛立たしいことに、あいつはダリルの言う事しか聞かない。というか僕や父上が命令すると突飛なことをやらかす。だから僕の言う事を聞かないのは構わないし、僕の方であんな屋敷僕妖精は願い下げだが、ダリルが来ない、じゃない、ダリルが僕に隠れてコソコソしているのが気に食わない。
まあ百歩譲って、隠し事自体は構わない。しかし僕をベッドに縛り付けて、ポッターなんぞと恋文をやり取りするというのは許さない。絶対に許さない。ウィーズリーの馬鹿二人と行動するようになっただけでも腹立たしいのに、血を裏切る者共と男女づきあいなんて始めた日にはホグワーツに戻れないようにしてやる。今はまだ証拠もないし、ダリルがわんわん泣き出しそうなので、証拠を見つけてダリルを説得出来るまで父上には黙っておこう。ダリルが来ない。あいつは本当に僕を心配しているんだろうk
(扉が開く音に、ドラコは慌ててインク壺の蓋を締め、羽根ペンと日記と一緒に枕の下へ突っ込んだ)
「ドラコ、具合は如何?」
パン粥を乗せた盆を持つダリルが、そーっとドラコのほうへ歩み寄る。
「悪くない」
「動いたりしてなかった? 具合が悪い時は、ベッドのなかでじっとしてないと駄目よ!」
サイドテーブルの上に盆を置き、ダリルが人差し指でつんとドラコの額を突く。どうも普段寝込む側であるダリルは、ドラコが寝込んでいるのが面白いらしく、心配そうな口ぶりとは逆に瞳がキラキラ輝いていた。
「お母様が出かけてたんで、丁度良かったわ」ダリルはパン粥の入った深皿を手に取り、スプーンで掬う。
「……そのぐらい自分で食べる」ドラコは手を伸ばしたが、ダリルはひょいと避けた。「駄目よ、具合が悪いんだから」
病人と赤ん坊とを取り違えていないだろうか。ドラコは「自分が寝込んでいる時のことを思い出せ」と言ってやろうかと思ったが、ダリルが心底嬉しそうににっこり笑うので、説教のタイミングを逃してしまった。
「屋敷僕妖精に教わってね、私が作ってきたのよ」
お母様には内緒ねと、ダリルが悪戯っぽくウインクする。確かにマグルと同じ方法で料理をしたと知ったら――尤もナルシッサは魔法を使っていたとしても自分で料理を作るのは下々の行いと馬鹿にしているのだけれど――母上は倒れてしまうかもしれないとドラコは思った。ドラコ自身、ダリルが屋敷僕妖精なんかと口を利いて、しかもマグルのやり方なんぞ真似るのはあまり面白くない。
「それで、僕の足を固めたまま三時間も来なかったのか」
「そうよ。箒で飛び回っているとでも思ったの? 馬鹿ねえ」ダリルはくすっと笑うと、スプーンをドラコに差し出した。「あーん」
ドラコは暫し逡巡していたが、結局スプーンを頬張った。ダリルの顔がぱっと明るくなる。
「如何? 美味しい?」
「不味い」
「熱があると味来が鈍って、味がよく分からなくなるんですってね」
平常状態でも同じ感想になると思うとは言わなかった。
三人前ぐらいの量を食えと脅されながら、ドラコは考える。
とりあえず、ドラコの具合が悪い時に放っておくほどの“過ち”は犯していないらしかった。
七年語り – 1993’s summer diary