七年語り1993’s summer diary
1993.06.20. outlook is grim

 

 六月二十日、小雨

 ダリルが母上に父上の振る舞いを訴えてから、家のなかがギクシャクしている。というよりも父上がダリルと母上に無視されている。てっきり母上は父上がダリルに買い与えたものについて知っていると思ったのだが、知らなかったらしい。
 母上は紅茶へ大量の砂糖を注ぎながら「年頃の娘へ犬に与えるようなものを付けて遊ぶだなんて……」と呻き、父上は「触るなと言うのだから仕方あるまい」と澄まして返したが、「お父様には私の話声が犬の鳴き声に聞こえるみたいね」とダリルに睨まれて、黙った。僕はトーストを吹きだしかけるのを、クィディッチの試合でポッターに負けたときのことを思い出しながら何とかやり過ごしていた。ポッター死ね。
 ダリルと母上が「ドラコだって呆れているじゃない」と同時に言ったが、僕は別に呆れてないし、如何でも良い。とりあえず三人が煩い。
 二人掛かりで協力して父上を責めていた母上とダリルだが、二人もどこかギクシャクしている。
 兎に角僕が朝食の席に降りて行ったときには(ダリルがこぼす父上への愚痴へ適当に相槌を打っていたら、あっさりと紐を外してくれた。結局ダリルは何のために僕をベッドに縛り付けておいたのだろう。嫌がらせの一種か、それとも父上と同じ趣味にでも目覚めたのかもしれない)既に父上とダリル・母上が喧嘩していて、母上とダリルも喧嘩しているという、息が詰まる環境が出来上がっていた。
 朝食後、父上は僕にダリルとの仲をとりなすよう言いつけ、ダリルは僕に母上との仲をとりなすよう懇願し、母上は僕に父上がダリルに近づかないよう見張っていろと言った。死ぬほど面倒くさい。とりあえず全員との約束を果たすために僕はダリルへ「父上がちょっとしたジョークだと言っていたぞ。許してやったらどうだ」と棒読みで言い、続けて「暫く父上に近づかないでいれば母上も許してくれるだろう」と適当なアドバイスを送り、父上には「半径一メートル以内に近づいたら舌を噛んで死ぬと言ってました」とでっち上げの報告をした。
 ダリルは僕の横でピーチクパーチクやっているし、なんだかもう、誰でも良いからこいつを引き取ってほしい気分になった。ポッターとウィーズリー共とフリントとグリフィンドール寮生とスリザリン寮生以外なら誰でも良い。まあダリルにそんな知り合いはいないだろう。
(ダリルが日記を覗き込もうとしたので、ドラコは文面を手で隠した)

「何を書いているの」ダリルは口を尖らせる。「どうせ私の悪口でしょう」
「それ以外に書くことがあるか?」
「お父様の悪口」
「お前だけだ、そんなものを書くのは」
「娘に犬の首輪をつける父親は悪口を書くに値しないとでも言うの?」
「さあな。第一、すぐに気づくだろう。あんなの犬の首輪以外の何ものでもないじゃないか」
 ドラコが呆れたようにため息をつくと、ダリルは毅然と否定の台詞を口にした。
「だってお父様、くれたときは、今年流行のチョーカーを改造したんだって言ってたわ」
 それに騙されるほうも騙されるほうである。ドラコは呆れきった目つきで、ダリルを冷ややかに眺めていた。ダリルが膨れる。
「別に犬の首輪だから怒ってるんじゃないのよ!」
 じゃあ何で怒っているのか、ドラコにはさっぱり分からない。
「私が……ドラコとかに触れなくって凄く辛いのを、ああやって犬の首輪なんかでからかうから怒ってるのに……」
 ぽつんと呟くと、ダリルは椅子からぱっと立ち上がって歩き出した。「どこへ行くんだ」
「ドラコにぎゅっとしてもらいたいとか、慰めてもらいたいって思わなくなるまで、部屋にこもるの!」
 首だけで振り向いて叫ぶと、ダリルはそのままドラコの部屋を出て行った。

(扉が閉まるのを確認してから、ドラコは再び羽根ペンを頁の上に滑らせた)

 やはり、誰かに引き取ってもらう必要はない。
 

outlook is grim

 
 


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