七年語り1993’s summer diary
1993.06.21. purchase

 

 六月二十一日、曇天のち小雨

 一週間は続くと思われたダリルの不機嫌は、あっという間に治った。父上と母上はまだ何事か揉めているようだったが、ダリルはにこやかに「おはようございます」と朝食の席に降りてきて、にこやかに梟便を受け取り、にこやかに去って行った。何があったのだろう。
 まず間違いなく誰かからの手紙が届いていると見て良いと思う。今朝のダリル宛の梟便はフリントからのものしかなかったが、大方キィーリレルあたりに命じて、何らかの方法で父上に見つからないよう梟便のやり取りをしているに違いない。
 尻尾を掴んでやりたいが、掴んだら何かに協力させられそうで面倒くさくなってきた。

 今、食堂に置き忘れた手紙を取りに階下へ降りたら、父上がダリルと何事か話していた。
 何を話しているかまでは分からなかったが、とりあえずダリルが昨日のことなどなかったように微笑んでいて、父上がダリルの笑みにほっとしているのは見て取れた。ダリルの魔力が戻ってから父上はダリルに甘くなった。なったと言うより、戻ったに近い。
 僕が見ているのに気付くと、父上はいつもの凛々しい顔を作る。「父上はダリルに甘すぎるのではありませんか」と呟いたら、「お前も娘を持てば分かる。まあダリルほどの娘を産める女はナルシッサぐらいだろうが」と妻自慢なのか娘自慢なのか、よくわからないことを言われた。世間一般では子よりも孫のほうが可愛いとか何とか言うが、父上は孫よりも子のほうが可愛いらしい。
 僕らのほうに駆け寄るダリルは手に白い封筒を持っていた。どうも僕がいることに気付いて、手紙を持ってきてくれたようだ。「ねえ、ドラコ、お父様が明後日杖を買いに連れて行って下さるって!」父上はダリルを買収することに成功していた。
 まあ買収しようと何だろうと如何でも良いけど、明後日は僕の予定が埋まっている。というかクラッブとゴイルと一緒にザビニの家を訪ねることになっていると、父上も知っているはずだ。そういえばダリルには伝え忘れていたかもしれない。自由に外出できる僕と違って、ダリルは家から出られないので、また騒がれたら面倒だと思って黙っていたのだ。ダリルは「一緒に杖を選んでね」と僕の隣ではしゃいでいたが、父上が薄い笑みを浮かべて、ダリルを窘める。「そういえば、ドラコはその日用事があったんじゃあないかね」
 僕は勿論父上を尊敬しているが、父上はダリルが絡むと大人げない。如何してこうも僕とダリルを切り離そうとするのだろうか。僕がダリルと一緒にいるからといって、父上とダリルの関係には何の影響も出ないだろうに、不思議だ。ダリルはあっけらかんと「私だってドラコのことでお母様に当てこすりされるんだから、良いじゃない。性別が同じ子供よりも、違うほうが可愛いのではなくて?」なんて言う。

 手紙はノットからだった。ノットからの手紙には大体ダリルの悪口が書いてある。ダリルはああいう奴だから、言いたくなる気持ちは分からないではないし、そりが合わないということなのだろう。それに綺麗だとか可愛いとか言われるよりはずっと良い。
 

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